MITSUBISHI LANCER EVOLUTION (2008/3) 前編

  

ランサーエボリューション、通称ランエボと聞いて脳裏に浮かぶのは、WRX のラリーカーやガンダムルックの派手なフロントエンド、それともリアに付いたデッカイ羽根か。まあ何れにしても高性能のイメージはあるが、高級とは縁遠いし、世間から は良く思われていないのもまた事実。そんなランエボがフルチェンジにより](テン)となった。

ランエボの初代モデルである エボリューションTが発売されたのは1992年10月(写真2)、WRC マシンのホモロゲーションモデルとして、限定生産された。元々、三菱はギャランVR−4でWRCを戦ってきたが、より戦闘力を発揮すべくランサーに VR-4 のターボエンジンを載せ、フロントには大型のインタークーラーを置くという、ランエボの定番スタイルは初代で出来上がっ ていた。その後、ランエボはラリーのレギュレーションに合わせて適合すべく、 ほぼ毎年改良モデルが発売されていった。1996年にはベース車両であるランサーの FMC を期に、エボXからは WRC でのライバルに対抗すべく、3ナンバー化が実行された。

エボT〜Yまでは、WRCの主流は市販のセダンをベースとしていたために、ランエボは正にWRCラリーカーのベース車両であった のだが、WRCの主流が市販車ベースのグループAから、よりレーシングカー的なWRカー (写真1) に移ったために、エボZからは本来の目的であるWRCのホモロゲーション用という用途がなくなってしまった。 それでも一部のマニアからは絶大な人気のランエボは、その後も毎年改良を重ねて2006年のエボ\に至った。このモデルでは限定生産ながらもワゴンボティも発売されていた (写真4)。そして、ベース車両のランサーがFMCされ、その名もギャランフォルテスとなり、ランエボもFMCされてエボ]となった。ただし、ベース車名称がギャランとなっても、こちらはランサーのままとなる。


写真1
2001年より主流となった、WRカーのランサーエボリューション。市販のランエボとの共通点はスタイルのみといっても良いくらいに、中身はレーシング カーそのものだったりする。


写真2
初代のランエボT(1992〜)。今ほどのケバケバしさは無かった。


写真3
ランエボZ(2001〜)。このモデルからはブリスターフェンダーとなった。


写真4
エボ\をベースにしたワゴンも限定発意された(2005)ことがある。

スペックの比較としては、永遠のライバルであるスバルインプレッサSTIは当然として、欧州車となるとチョット迷う。WRC でのライバルであるシトロエンあたりが本来の比較対照だろうが、日本ではマイナー過ぎるし、何よりホットなモデルが日本では正規販売されていない。そこで、ラリーのことは綺麗に忘れて、マニア向けの小型高性能車として、折りしも新発売された BMW 135i クーペを比較してみた。

ランエボもインプレッサ STI も、今では WRC のベースカーではないが、WRカーよりも改造範囲の狭いグループNの最速クラスである N4 では、今だに世界のラリーシーンを独占している両車だから、当然ながらスペックも似ている。ただし、今回試乗したランエボ]は2ペダルセミオートである TC-SST 搭載車のために、 重量的にはインプッサ STI に対して不利になっている。また、ランエボ同士で比較すると、先代のエボ\はMTとはいえ新型よりも120kg も軽い。いや新型が 120kg も重いというのが本当だろう。輸入車の BMW 135i クーペは直6、3Lにツインターボというスペックにも係わらず、エボ]とほぼ同等の 1,530kg だから、エボ]は少し重過ぎではないか。

価格を比較すると流石にライバルであるインプレッサとは、殆ど同じ価格帯となっている。これに対して、全くカテゴリーが違う 135i クーペは、160 万円も高い!ところが、よ〜く考えてみれば、 135i クーペにはナビやレザーシート等が標準装備されているが、ランエボの場合はナビどころかCDプレヤー、 いやスピーカーさえもオプションとなっているから、装備の差を考えれば実質の価格差は 100万円程度となる。 米国ではランエボ]と 135i クーペ(日本仕様のように高級ではない)の価格差は 3,000 ドル程度。ランエボ]の米国価格には輸出諸経費や輸入税などが加算されているから、価格差が縮まるのは当然で、国内の実質 100万円差は妥当なところだろう。

今回発売されたランエボ]のバリエーションは、競技車ベース用のRSが 299.775万円(300万円にしないのは何故か)で、これは改造用のベース車だから、一般のユーザーが買う事はないだろう。街乗り用はGSRでベースグレード の5MT / SST は、それぞれ349.545 / 376.06万円、これにハイパフォーマンスタイヤやビルシュタインダンパー、アイバッハのスプリング、2ピースのブレーキローター(ブレンボ製)と組み込んだハイパフォーマンスパッケージが+21万円、メッキモールやフォグランプなどの外装をドレスアップしたスタイリッシュパッケージは+5.25万円、 シート表皮や内装の一部にレザーを装着したレザーコンビネーションインテリアは+10.5万円、そしてこれらのパッケージの全てを網羅するプレミアムパッケージは約50万円高となる。すなわち、TC−SSTにプレムパッケージを付けて約424万円に、 前述のようにスピーカーすら付いていないので、ナビや高級スピーカーを付けると、車両総額は480万円程度になってしまい、BMW135iクーペ(6MT)との差は、たったの60万円程になる。

実を言うと、今回の試乗は2回行っている。最初の試乗車は GSR のTC-SSTベースグレードで、車両価格は 370.06 万円。 2回目はスタイリッシュエクステリアというモデルで 380.31 万円と更にキーレスエントリーが付いていた。何故2回試乗を実施したのかといえば、1回目は車両が本調子でない事に加えて、ディーラーや営業マンまでが "本調子で無かった" のが理由で、これではランエボ]に対する適正な評価は出来ないと判断して、急遽まともなディーラを探して再挑戦した。したがって以下の試乗記は2回目を主として、一部1回目の状況でも補足している。


写真5
御馴染みのデッカイ羽根が無ければ、オジサンがサルーン代わりに乗っても様になるのだが・・・・。


写真6
トランクルームの奥行きは狭い。その理由は重量配分を考えてバッテリースやウィンドウォッシャーが置かれているため。実用スペースを殺して走りを取る とうのは、ランエボの思想には合っている。


写真7
リアシートのスペースはファミリーカーとしてはミニマムながら、使えない事はない。


写真8
標準装着のレカロシートの形状は、かなりスポーツに振っている。室内は基本的にはギャランフォルテスと同一。


写真9
シート表皮はコットスエードを使用しているが、オプションでレザーも選べる。


写真10
基本は 180万円のギャランフォルテスだから、内装各部はプラスチッキーで、400 万円のクルマとは思えない程にチャチい。

写真11
ギャランフォルテス譲りのプラスチッキーなダッシュボードは我慢、ガマン。

GSR 全車に標準で装備されるレカロ製シートの表皮はファブリック(写真9)で、リアシートにもフロントのレカロと同じ表皮が貼られているから、 アフターマーケットでレカロシートを後付した場合のように、フロントシートだけが浮いて見えることもない。 シートの座り心地は今更言うまでもないレカロ独特のもので、特にランエボに装着されているシートは座面も背面も両端が大きく盛り上がっている、かなりスポーティーなデザインだから乗り降りにはちょっと引っかかって面倒だが、それが嫌だというユーザーはこのクルマを選ばないから問題はない 。しかし、助手席に座る奥方からは、良い評価はもらえないだろう。
目の前に広がるダッシュボード(写真11)や、ドアサイドの操作パネル(写真10)は2Lで180万円のギャランフォルテスと共通だから、 400万円のクルマという認識で見るとガッカリするのは当然といえば当然だが、これを気にするのならランエボを選ぶのはやめておく事を勧める。

さて、いよいよ走り出すところで、続きは後編にて。

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