CROWN 2.5ATHLETE vs FUGA 250GT (2008/4/29) 後編

 

クラウンの大径の速度計を真正面に配置したメータ配置は、速度のみを注意していれば、回転数なんて如何でも良いという思想で、実に実用的な発想だ。これに対してフーガは、同径の速度計と回転計を左右対称に配置していて、スポーティに未練があるようだ(写真11)。 この点でもクラウンはメルセデス的だし、フーガはBMW的といえる。 コンソール上のATセレクターも、両車では全く異なるデザインで、今ではチョット古いデザインとなりつつあるジグザクゲートのクラウン(写真10-1)に対して、フーガはといえば、レバーの根元にMTのシフトレバーのようなレザーのブーツを被せて、セレクター自体は直線に配置する、現代の欧州車の主流ともいえる方式を採用している。結論から言えば、流石に国産の上級車だから、どちらを選んでもチャチで嫌になるようなことはない。
 

CROWN 2.5ATHLETE

写真10-1
チョッと時代遅れ気味のジグザクゲート式ATセレクターのクラウン。
 

 

FUGA 250GT

写真10-1
根元にレザーブーツを持ち、各ポジションを直線に配列したフーガのATセレクターは現在の欧州車に標準的なものと同じ。
 

 


写真11-1
クラウンのメーターはセンターに大径の速度計を配したメルセデス的なデザインだ。

 


写真11-2
フーガのメーターは回転計と速度計が同サイズで並ぶ、言ってみればBMW的なデザインとなる。
 

 

そろそろ、実際に走ってみることにしよう。
先ずは、クラウンから。例によってエンジンが掛かっているのかを確認するのに、回転計が絶対に必要となる程に静かなアイドリングを確かめながら、フートブレーキに足を乗せジグザグゲートのセレクターレバーをDに入れる。そして、ステアリングコラムの左となり辺りのダッシュボード上にある、リリースレバーを引くと、パーキングブレーキはストンと外れる。流石はクラウン!パーキングブレーキの解除レバーを持っているのもメルセデス並だ。
走り出すと、2.5Lとしては十分なトルク感で、しかもそれ以上踏んでも充分に加速してゆく。確かに3.5Lの強烈な加速感は無いが、実用上はこれで十分だろう。定常走行中からのキックダウンによるシフトダウンも結構レスポンス良く反応するし、6速ATの制御は中々良い出来だ。トヨタはアイシンAWという今やATでは世界的な技術を持つ部品メーカーを傘下に持っている強みを如何なく発揮しているようだ。

それではフーガはというと、アイドリングも充分に静かだが、その静かさはクラウンのように、エンジンが回っているのが判らないという訳ではないが、これは好みの問題だと思う。ブレーキを踏みながら、ATのセレクターをDに入れて、さてパーキングブレーキの解除はといえば、今更文句を言うのにも飽きてしまった、プッシュ/プッシュ方式のパーキングブレーキ兼解除ペダルを押してリリースする。クラウンのメルセデス的なのに対して、BMW的に勝負するのなら、ここはセンターコンソール後部にハンドレバーを付けるのが本来だろうに。
と、ブツブツ文句を言いながらも走り出して見ると、MC前に比べて格段にスムースなエンジンに気が付く。今回のMCを機にスカイラインV36と同じ新型エンジンが搭載されているのだが、旧VQエンジンのラフでガサツなフィーリングから一変していて、この改良は大正解だ。運転していて感じる動力性能というか、トルク感は同じ2.5Lのクラウンと大きくは変わらず、大人しい運転をするドライバーなら、全く不足の無い動力性能だ。ATについてはクラウンの6ATに対して5ATと、スペック上では見劣りがする。まあ、セルシオの8ATはやりすぎにしても、今の時代の高級車に5ATは無いだろう。 と、いっても実際の走行で大きな問題はないが、キックダウンして一段ギアを落としたときなどの回転数の上昇は、やはり大きい。それでも、これだけに乗っていて慣れてしまえば気が付かない程度のレベルでもある。ニッサンは独創的なトロイダルCVTという賭けに失敗したツケに、未だに苦しんでいるようだ。
 

CROWN 2.5ATHLETE


写真12-1
V6 2499cc 215ps/6400rpm、26.5kg・m/3800rpm
を発生するクラウンのエンジン。

FUGA 250GT


写真12-2
V6 2495cc 223ps/6800rpm、26.8kg・m/4800rpm
を発生するフーガのエンジン。

クラウンといえばフワフワ、ヨレヨレ。乗り心地は良いが不安定な旧来の日本的高級車の代表のように思われていた。事実、2世代前までのクラウン、取り分けロイヤルシリーズはといえば、危険ともいえる程の酷さだったのだが、ゼロクラウンと自ら名乗った先代では、一気に現代の標準的なレベルまでアップし、安定性も現代の水準に達した。数年前までの、このクラスの国産車といえば狭い車幅ににも増して、更に狭いトレッドと小さくて狭いタイヤというのが定番だったが、クラウンがゼロクラウンに、セドリック/グロリアがフーガになるのを機に、どちらも欧州車並のワイドトレッドと大径タイヤの採用により、安定性が向上した。更には扁平タイヤによる大径ホイール採用のメリットとして、ブレーキローターの大径化が実施され、ブレーキ性能が大幅にアップし、それこそ欧州車並のフィーリングと制動力を確保できたのは大いなる進化だった。さて、今回のFMCは言ってみれば2代目ゼロクラウンという訳で、先代が突然のコンセプト変更を行ったのに対して更にアップしたのか、それとも後退したのか?これはクラウンなんて全く眼中に無いと言うクルマ好きにとっても、興味のある事実では無いだろうか。

伝統のセドリック/グロリアという名前を捨てたフーガは、先代のBMW5シリーズ(E39)を手本にしたというだけあって、従来の国産車には無い欧州テイストで、E39に迫ったというのも強ちハッタリとも言えない程に出来が良かった。そこで、今回のMCでは、一体どのように変化したかといえば、残念ながら少し柔らか目のセッティングに変更されていた。クラウンも同様だが、やはりこの手のクルマのユーザーにとって、欧州車的な硬めのセッティングは 「乗り心地が悪い!」「高級車らしくない!」という評価になったようだ。MC前のフーガは国産車としては、いや本家のドイツ車と比べても素直な旋回性能で、特に低速できついコーナーでのニュートラルな旋回性は驚くべきレベルの高さだったが、今回のコンフォート化でも嬉しい事に明らかな性能低下は感じなかった。ただし、柔らかいセッティングにより、派手に振り回した場合などのボディのロールはチョッと増えたような気がするが、多くのフーガユーザーはそんな下品な運転はしないから、むしろこのセッティングが正解なのかもしれない。
フーガのコーナリングが良いのは判ったが、クラウンはどうかといえば、数年前にゼロクラウン発売時に乗ったアスリートはフーガがBMW5シリーズならば、こちらはメルセデスEクラスを想像する操舵性で、安定志向ではあるが、決して緩慢なわけでもなく、歴代のクラウンと比べれは、これまた大いなる進歩だった。 ところが、今回のFMCではアスリートといえどもコンフォート嗜好となり、どちらかと言えば先代のロイヤルに近いセッティングになってしまった。とはいっても、先々代の不安定さに戻ってしまった訳ではないから、ご安心を。一度獲得した広いトレッドと大径ホイールのお陰で、こちらも結構レベルの高い旋回性能を持っている。

ここまで、乗り味がどうしたのと述べてきたが、実はそんな事よりも、クラウンもフーガも乗り味として夫々独特なものを持っている点を伝えなければならない。なかでもクラウンというクルマは、走行中の静けさや柔らかい乗り味が一体となって独特のフィーリングを醸し出している。そして、ゼロクラウンに変身時には、今までスカスカで最悪といわれていたダンパーも大幅に見直したようだから、そのメリットは今回サスを柔らかくしても、充分に感じられる。これらにより欧州車と比べ るという行為が意味をなさない程に、クラウン独自の世界という物を持っているので、このフィーリングは好きか嫌いかと訪ねられたら、これはこれで良いのかもしれない、何て思ったりもする。特に毎日激務をこなしている中小企業の社長さんが、疲れた体で 自らハンドルを握って家路に帰るには、実に良いのかもしれない。この辺の状況は、有給休暇を年に15日以上取得が義務なんていう大企業でヌクヌクと暮らしているサラリーマンには判らないかもしれないなぁ。えっ?公務員よりはず〜とマシだって?それゃそうだ。民間企業でタクシー代を年に何百万も使ったら間違いなく自己退職か、僻地の零細な関連会社に出向となるし、 それどころか9ヶ月間も仕事しないで一日中ウェブのエロサイト見ていたのがバレても、クビにならないようだし・・・・。まあ、これを言い出したらキリが無いので止めておこう。

話を元に戻して、フーガの場合は、何しろ先代BMWを目標にして開発したと公言されているくらいだから、クラウンよりもはるかにドライバーテイストなクルマとなってはいる。それでも、これまた国産車の独特な乗り味が完全に消えている訳ではないから、現行5シリーズのクイック過ぎるアクティブステアリングや、ランフラットタイヤによる宿命的な硬い突き上げなどは無いし、さらにはMCでスポーツ風味を薄めているから、クラウンほどではないにしても、楽チン運転には変わりはない。

そして最後にブレーキ性能はといえば、すでに述べたように、ワイドトレッド、大径ホイール、扁平タイヤによるメリットとして、大径のローターが流行となったメリットとして、どちらも以前に比べれば、大幅にフィーリングも向上している。ただし、ゼロクラウンの場合は最初の一踏みが、如何にも剛性感がないフィーリングで、この点ではフーガが勝っている。と思って、アルミホイールから除くフロントキャリパーを見比べてみれば、どちらも鋳物のピンスライドタイプながら、 クラウンのシングルピストン(写真14-1)に対して、フーガは2ピストン(写真14-2)を採用している。まあ、ピストンの数が多ければ良いというものでもないが、アスリートとはいっても2.5Lモデルの場合は単なる見かけだけのスポーティサルーンと割り切っているのかもしれない。その証拠に、3.5アスリートはフロントにレクサスGSと共通の アルミ対向4ピストンキャリパーを使用している。
 

CROWN 2.5ATHLETE


写真13-1
 

 

FUGA 250GT


写真13-2

 


写真14-1
クラウンのフロントキャリパーはシングルピストン。
 

 


写真15-1
フーガのフロントキャリパーは2ピストンを奢っている。

 

今回クラウンがよりコンフォート嗜好で、乗り味を柔らかくした背景には、レクサスとの住み分けもあるだろう。アスリートの上級モデルはレクサスIS350やGS350と同じエンジンを搭載した3.5アスリートがあるが、これを目一杯スポーティにしたらば、GS350の存在意義が無くなってしまうというジレンマがある。逆にレクサスがあるから、スポーツセダン的なものを求めるオーナードライバーに対してはレクサス車で対応が出来るという強みもある。これに対して、ニッサンの場合は本来は北米向けのインフィニティMを、 国内ではフーガとしてクラウンのライバルという役目を負わせなければならない辛さがある。ただし、2.5Lに関してはインフィニティには設定がないから、ある程度は国内向け対応をしているかもしれない。

あらゆる面でメルセデス的なクラウンと、BMW的なフーガという傾向からすれば、クラウンとフーガのユーザーはかち合わない筈なのだが、実際には商売上のつながりでトヨタ派とニッサン派に分かれているという場合が多いのではないだろうか。 だからホンダ系の仕事を貰っている会社の社長さんはレジェントを買う羽目になったりする。これが三菱だったら・・・デボネアは既に無いから、晴れてクラウンが買えるかもしれない。よかったねぇ。そういえば、バブル華やかな頃にマツダ関係の仕事を貰っている事から、センティアを買う羽目になった社長さん。とりあえず付き合いで買って1年位してほとぼりが冷めたら売れば良いやと思って、下取り価格を聞いてびっくり仰天。乗り出し400万円で買ったクルマが、何と丸1年で100万円代になってしまった!とか。結局、乗り潰したらしいが、お陰でクラウンに乗りたいのに5年間のお預けを喰ってしまった。

世の中省資源だの何だのといっているが、コンパクトカーなんて貧乏人・負け組の乗り物だ!それに欧州車なんかに乗って喜んでいるのは成金に決まっている。その証拠に、自慢の高性能欧州車に乗り換える前は、アリストやツアラーVの過給圧上げたのが最高と喜んでいたじゃねえか。日本人男子なら、いつかはクラウン、フーガに決まっている。 終戦記念日には靖国神社に参拝して、正月には紋付羽織袴の正装で皇居の一般参賀に参列する。・・・・なんていう、国粋主義な人はそれ程多くはないだろうが (勿論 B_Otaku の意見じゃないですからねっ)、普通のオジサンでクラウン、フーガが一番と思っているユーザー層は確実に存在する。それも、欧州車ユーザーが思っている以上に!