NISSAN SKYLINE COUPE 370GT Type P (2007/11/12) 後編 ⇒前編


 

ブレーキペダルに足を置き、ATセレクターをDに入れてから、ユックリと右足を踏み込むと、クルマは穏やかに発進した。流石に3.7Lもの排気量があれば、スロットルの初期ストロークでの応答性を上げて、トルクがあるように見せかける小細工は全く必要無いから、ちゃあんと踏んだだけトルクが増す。370GTの低速でのトルクは絶大で、大人しくクルマの流れに乗っていると50km/hでは1200rpmという、ほとんどアイドリングに毛の生えたような回転数で巡航する。この時のスピード感のなさも相当なもので、370GTでの50km/h巡航は、デュアリスの30km/h程度にしか感じられない から、この流れの遅さは何ともイライラする。このクルマには最新型でフル装備のレーダー探知機の装着は必須のようだ。この370GT以外でも、最近の高級な国産車はみな速度感に乏しいし、実際にクルマの安定性や制動能力から見て も、現行の制限速度は見直すべきだろう。
車両重量1630kg(TypeP)に対して333psだから、出力当たりの重量は4.9kg/psとなり、これは数字上ではインプレッサSTIの4.8kg/psと同等でもある。そこで、片側2車線の一級国道での先頭の信号待ちから、青信号を確認して、それっとばかりにフルスロットルを踏んでみると、回転計の針は一気に上がり、同時にバックレストに体が押し付けられる。 フル加速時の音も決して悪くはないが、○○サウンドといわれるような官能的な音でもないから、これについては更に研究が必要だろう。そして、この時の加速感は成る程インプSTIに近いが、残念ながら 試乗車はトルコン式のATだったから、STIには一歩を譲るように感じた。しかし、今度のスカイラインクーペには6MTが設定されているから、これならSTIと同等の加速を見せてくれるに違いない。

試乗車のグレードは下から2番目のTypePだから、ステアリングコラムにパドルスイッチは付いていない。まあ現実には、あのレバーでMT操作をするのは、クルマが納車されてから1ヶ月程で、最初は面白がって使っていても、やがて飽きてしまい、その後は二度と使わないとい うのが落ちのような気もするが。それに、MTモードを使わなくても370GTのATはキックダウン時のレスポンスが極めて良いから、1000rpm代で巡航中でも右足をグイっと踏めば、即座にシフトダウンを実行する。そして、このATは小まめにロックアップするようで、BMWの各車がわざとトルコンのスリップを利用して、少し踏み込んだ状態では、回転計の針が1000rpmも上がり、シフトダウンと同じような効果をだしているのとは対照的だった。

試乗車はパドルシフトは持たないが、コンソール上のセレクターでのMT操作は可能だから、これを試してみることにする。 マニュアル時の操作は前方に押してアップ、手前に引いてダウンという、メジャーな方式だが、現行のBMWとは反対になっている。これは早く統一してもらいたいものだが、いざISOで制定するにしても、そう簡単にはいかないだろう。まずは、1に入れて信号が青になるのを待つ。そして、信号が代わってから一呼吸、信号無視で突っ込んでくる馬鹿がいないことを確認して、いざダッシュ。3.7L 333psは流石に速く、あっという間に回転計の針が上がる。回転計のレッドゾーンは7500rpmからなので、マニュアルモードのタイミングも判らないので、6500rpmあたりでレバーを素早く前方に押すと、一瞬のタイムラグとともにシフト アップされた。
今度は、5速/60km/hで走行中にレバーを手前に2回引いてみると、あれっ反応しない?と、思ったら、やや遅れてシフトダウンされた。いざ、反応が起こると結構俊敏な動作なのだが、反応するまでが何故か遅く、このタイミングに慣れるまでは違和感がある。もしかすると学習機能があって、何時も素早いマニュアルシフトを要求していると、そのうちには迅速な動作になるのかもしれないが、試乗車の状態ではトロかった。

  
写真15
V6、3.7LのVQ37VHRエンジンは333ps/7000rpmの最高出力と37.0kg・m/5200rpmの
最大トルクを発生する。今後はフーガやフェアレディなどもこちらに移行か?
 

370GTのステアリングホイールは太めで、握った感じはBMWのM-sportに似ている。操舵力も最近の国産車としては重めで、これもBMW3シリーズ的でもある。路面からの情報も国産車としては最も良く伝えるし、 中心付近の遊びも無く、それでいて決して過敏ではない特性は、これまたBMWそっくりでもある。ニッサン車の試乗で何時も使うコーナーがあるが、ここを数ヶ月前にデュアリスで走った時には 60km/hの進入が怖かったので、コーナー手前で50km/h以下に減速して、それでも不安だったのを思い出した。そして、今回の370GTは同じ場所を50%増しで進入したところ、何のことは無い、簡単にクリアしてしまった。いやぁ、お見事。これに気を良くして、その後も色々なコーナーを試してみたが、元々スピード感が無いクルマのために、簡単にクリアーした時の速度を見て、ややっと驚いたりする。BMWがレールの上を走るようなニュートラルな感覚であるのに対して、370GTはもう少し弱アンダーを感じはするが、実際の安定性とコーナーリング速度はBMW335iにも勝るような気がする。最近のBMWはご存知RFT(ランフラットタイヤ)を装着していることもあり、コーナーリング時のグリップ感がイマイチなことが、370GTに有利となっているのは確かだ。

そして乗り心地はといえば、これもBMW的で多少硬めながらもフラットで乗り心地も悪くない。タイヤのノイズが少し聞こえるので、滑り止めの”ざらついた”舗装だと、常にザーっといタイヤの音と、ステアリングに微妙な振動を感じるのもBMW にそっくりだ。この350GTを目隠しして運転したら、本当にBMWと区別は付かないだろうが、残念ながら B_Otaku は目隠しでクルマを運転できる能力がない!ただし、BMWはRFTを使用して、これだけの乗り味を発揮している点も考慮すべきで、なにやらハンディをもらって何とか追いついたという感もあるが、それでも370GTのサスペンションセッティングも立派な ことには違いない。 この乗り味はお世辞抜きで国産最上で、ライバルの国産プレミアムブランドを完全に超えている。

と、ここまでの走りについては殆ど絶賛に近い結果となった。なるほど、同じような走りで値段が300万円も高いBMW335iは、ボッタクリ以外の何物でもない、と大喜びの国産車原理主義者の姿が目に浮かぶ 。が、いやいや、世の中そうは甘くない。300万円分かどうかは何とも人それぞれだろうが、スカイラインには少なくともBMWに敵わない部分がある。その最大の弱点は、毎日運転するたびに視界に入ってくるメーター類だ。これはセダンと共通となっている。 すなわち、既にセダンの試乗記で指摘したように、国産車(それも悪い面で)丸出しのメーター類は何ともシラケる。正面に二つ並んだ同径の回転計と速度計は目盛りの内径が青くリング状に光っている(写真19)。そのセンスは大人 のスポーツクーペどころか、場末のモーテルの看板のようで、何とも悲しい。そして、2つのメーターの真ん中のディスプレイは毒々しい赤のLED表示で、これがまた雰囲気を台無しにしている。アウディも赤いディスプレイを使っているが、十分に高級感があるから、赤が原因でも無さそうで、これもセンスの問題か?
さらに不愉快なのは、このディスプレイに表示される瞬間燃費で、ガソリン1L当たりの走行距離が延びるほど右側に赤いバーが伸びていることで、赤が多くなるほど経済運転をしていることになる。えっ、普通は逆だろう!赤が多いときは警告だから、ガソリンがぶ飲み状態と勘違いするのが普通じゃないだろうか(写真20)。
それに引き換え、BMWのメーターは流石で、毎日これを見るたびにドライバーに満足感を与えるのは間違いない(写真19−2)。えっ、俺は3シリーズのメーターなんて、ちっとも良いとは思わねぇよ、なんて言っている君。それなら、写真19−3はどんなモンでしょうか?これを毎日見ていられると思ったら、クルマ好きならワクワクするのが普通と思うのだが。ん、なにやら反則くさい匂いがする?あっ、いや、実はこの写真はBMW M3。良くて当然なんて声が聞こえるが、コストパフォーマンスで勝負するなら、400万円で1000万円のM3と同等のメーターを睨みながら運転したいという、日本国民の願いを代弁しただけのつもりではありますが・・・・・。

そして、もう一つ大いに気になったことがあった。実は停止状態で左足をフートレストに置こうとしても、何かが足に当たって定位置に足が置けない?このペダルは例によって踏む度にオン/オフを繰り返すタイプで、オンの状態だとペダルが床の近くにくるために左足を置くスペースと干渉しているのだった(写真17)。お陰でパーキングをオンのまま走り出し、ブレーキを引きずってしまう(最悪は高温から火災に至る!)というチョンボが無くなるという、警報装置を兼ねている 、という安全性をもたらしてはいるが・・・・・。
 


写真16
セレクターのポジションは最近主流のティプトロタイプ。
P-R-N-DでDの横がマニュアルモード。
 

 


写真17
スポーティなクーペだから、パーキングブレーキはコンソール上のレバー式と思いきや、なんと足踏み式。 しかも、プッシュ/プッシュ式で、更にはオンの状態だとフートレストの足に当たり、左足の置き場が無い。まあ、パーキングブレーキの戻し忘れはないが・・・・。

 


写真18
センタークラスタはセダンと全く同じ。右の写真と比較すればよくわかる。
 

 


写真18−2
これはセダンのセンタークラスタ。

 


写真19
これもセダンと全く同じメータ類。BMWに迫る性能を持っても、このメーターを見て運転するとなると、白けてしまう。
 

 


写真20
中央のディスプレイに赤で表示される瞬間燃費(黄色い○の中)は見づらいし、センスも悪い。

 


写真19−2
比較用としてBMW323iのメーター。実にオーソドックスで見易い。右の回転計内に下部に組み込まれた瞬間燃費計は実に見易い。写真20のスカイラインがショウモ無いのが判るだろう。
 

 


写真19−3
スカイラインも、これくらいのメーターを付ければグンとランクが上がるだろう。速度計の目盛りは120km/hで間隔が変わるので、日本の交通事情でも全く問題ない。

 

370GTのブレーキには2種類の設定があり、コンフォートモデルには従来型の鋳鉄製のフローティングタイプ(前後とも1ピストン)が、スポーツモデルにはフロント4ピストン、リア2ピストンのアルミ製対向ピストンのキャリパーが装着される。今回の試乗車はTypePなので鋳鉄製キャリパーが装着されていた。 チョッとブレーペダルに足を乗せただけでガツンッと効くフィーリングもBMWにソックリだ。 本当は対向ピストンのブレーキフィーリングを試してみたかったのだか、残念ながら次の機会を待つことにする。同様にMTも試してみたいが、MTの試乗車を見つけるのは至難の業のようだ。ただし、この3 70GTは大人のスポーツクーペだから、MTで必死になって走るのはランエボやインプSTIに任せて、こちらはATで優雅なクルージングを決めるのが本来かもしれない。


写真21
フロントは225/50R18、リアは245/45R18タイヤが装着されている。


写真22
試乗車はTypePなので鋳鉄製のフローティングタイプキャリパーが装着されている 。写真の形状を見ると、フロントも1ピストンのようだ。
 

 

新型のスカイラインクーペ370GTの乗り味は、思いのほか良かった。これなら400万円出す価値は十分にありそうだ。スペック的にもBMW335iクーペといい勝負だし、実際に乗ってみても性能・フィーリングともに勝るとも劣らなかった。 う〜ん、国産車もココまで欧州プレミアムブランドに近づいたかと感慨深いものがある。が、その一方で相変わらずセンスいまいちのインテリアは、エクステリアも結構良いセンいっているから、余計に惜しまれる。370GTの上級グレードにナビなどのオプションを付ければ、400万円は軽く超える。 そうなると、BMW320iクーペも射程圏に入ってくる。下表のようにパワーとしては全く勝負にならないが、普通に街乗りをする程度ならば320iでも十分だから、3.7Lの加速性能なんて全く無用の長物だと思うユーザーには320i クーペは良い選択になる。 それに、LHD(左ハンドル)ではあるが、MTの設定もあるから、少ないパワーを有効に使ってシフト操作を楽しむようなユーザーにはピッタリでもある。
逆に「クルマはパワーだ。踏めば即座に上体がバックレストに押し付けられないクルマなんて乗る気はしない。しかし、予算は総額400万円程度」という場合には、370GTは最適な選択の1つだ。性能だけならば、ランエボ]やNewインプSTIの方が上には違いないが、大人が乗るとなると、ハテ、どんなものだろ うか。 そういう意味では、この価格帯で、この性能、しかも大人が乗ってサマになる370GTは、最近の国産車としては一押しだ。レガシィの6気筒モデルという手もあるが、あちらはワゴンが主体で、クーペについては設定がないし、なによりスバルというブランドにオタクっぽいイメージがあり、お洒落な大人の雰囲気がない。この辺は好みの問題だから、読者の好きにすれば良いが・・・・。

今回の370GT、確かに良いのは判る。400万の価値もある。しかし、クルマに400万円は出せないとか、出せないわけではないが出したくない、なんていう場合も多いだろう。住宅ローンを抱え、子供たちの教育費もかかる。そんな状況でのクルマ選びでは、山ノ神の稟議がおりるのは一般的に300万円未満 というところか。そこで提案だが、クーペにも2.5Lの設定を追加できないだろうか。スカイラインクーペ250GT 、車両価格299万円也。街中を走るスカイラインセダン(V35)を注意して見ていると、その多くが250GTだ。BMWの場合も、売れ筋は2.0Lの320iだし、レクサスも売れているのはIS250(とLS)のみ、という状況だから、スカイラインクーペ250GTも、そこそこに売れるような気がするのだが・・・・・。
ニッサンさん、どんなもんでしょうかね?