SUBARU IMPREZA STI (2007/11/3) 後編 ⇒前編

  
 

大パワー、大トルクから想像する割には軽めのクラッチを踏んで、1000rpm程度でミートさせてみると、試乗車の場合は繋がる位置は多少深めだったが、これは慣れの問題で、繋がりかた 自体は穏やかだから、特に気を使うこともなく、MTに慣れたドライバーなら全く問題はない。 S−GTのシフトフィーリングはグニャグニャと節度がなく、お世辞にもフィーリングが良いとはいえなかったが、STIの場合はS−GTに比べれば剛性感もあり、ストロークも適度で、十分に合格点を与えられる。100万円以上の価格差は伊達じゃない。

 


写真10
アンバーの照明は決してセンスが良いとはいえない。
しかし、右のスピードメーターで、どうやって40km/h制限の道路を走れというのだろうか。回転計のレッドゾーンはターボモデルとしては異例に高い8000rpm。流石はスバルの水平対向。一体ドンナと特性かと、興味津々で図1を見てみれば・・・・ハテ?トルクカーブは7200rpmまでしか無い。
 

 


写真11
エンジンの始動は最近流行のインテリジェント
キーとスターターボタンによる。
 

 


写真12
エンジンの特性を変えるSI-DRIVEはダイヤルを押して”I”、左に回して”S”、そして右で”S#”。
下のボタンは4WDのセンターデフの差動を設定できるマルチモードDCCDの操作ボタン。
 

 


写真13
SI-DRIVEとDCCDの選択状況は、回転計内にLEDで表示される。

 


写真14
黄色い””で示すリングを上に持ち上げるとRへシフトできる。
写真では判りづらいが、シフトレバーのブーツやパーキンブブレーキレバーは安っぽい。
 

 


    

 

STIはSI-DRIVE(SUBARU Intelligent DRIVE)により、エンジン特性を3種類から選べ、この切り替えはコンソール上のシフトレバー手前の丸いダイヤル式スイッチで行う (写真12)。このダイヤルと押すとI(Interlligent)モードとなり、スムースなクルージングモードとなる。実際に試してみると、アクセルレスポンスはトロくて、フルスロットルを踏んでもモア〜ッと回転が上がるだけで、ATならとも角、MTでは殆ど意味がない。
次にダイヤルを左に回すとS(Sport)モードとなり、正面の回転計パネルのLEDがSと表示する(写真13)。このSモードが本来のSTIらしい走行状態となる。流れの速い2車線の一級国道を走って気が付くのは、6MTがローギアードに設定されていることで、流れに乗って60〜70km/hで3速を使用していると、回転計の針は4000rpm近くを指していた。そこで4速 にシフトアップすると、3000rpmとなり、特に”戦闘モード”でもない限りは、この程度での巡航が無難なようだ。この程度(3000rpm)の回転数なら、十分にスムースだし、振動や騒音も気にならないし、例え4000rpmで巡航したとしても、周りからヒンシュクを買ったり、気兼ねが必要だったりすることはない。
それでは低回転側はどうかというと、2000rpmで巡航してみたが、この状態からではマトモな加速は出来なかったし、2500rpmまで回転を上げても同様で、このクルマを選ぶのなら3000rpm以下は使用すべきではない 。前出のIモードなら何とかなるかもしてないが、そういうドライバーにはS−GTが合っている。今度はダイヤルを右に回してS#(Sport Sharp)モードにすると、スロットルレスポンスは極端に上がり、ちょっと踏むとドカンと加速する。
新型STIにはSI-DRIVEと共に、もう一つの売り物であるマルチモードDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)という、4WDのセンターデフの差動を設定できる機能がある。AUTO@モードはニュートラルステアを狙った 最適制御をし、AUTO〔+]モードBはセンターデフの差動を強めて安定志向だがアンダーステアのモード、そしてAUTO〔-]モードAはセンターデフの差動を弱めてオーバーステア気味の軌跡をとるモードで、更にMANUALモードを使用すればロックからフリーまでの6段階を選べる。
そこでDCCDを、もっとも過激なAUTO〔-]モードAに設定し、SI-DRIVEもS#という本気モードで試してみることにする。先ずはこの状態でフルスロットルを踏むと、6MTのギアレシオがローギアードな設定であることも手伝って、回転計の針は1速ではアッという間に上がっていくので、即2速にシフトアップする。1速からの加速では兎に角安定性に欠けるが、言いかえればマニアックでもある。2速のフル加速で も、正面の回転計の針は6000rpm程度までは勢い良く針が跳ね上が り、4500rpmあたりからはボクサーサウンドも加わって、スバルファンが喜ぶことは間違いしだ。しかし、それ以上は回すよりシフトアップした方が良さそう でもあった。あとで判明したのだが、図1を参照すれば判るように、このエンジンでは精々7000rpmが良いところで、レッドゾーンが8000rpmなんていう 回転計は誇大表示っぽい気がする。

操舵力は、これ程の動力性能を考えれば軽い設定で驚くが、一般的には丁度良い重さでもある。中心付近の遊びも殆どないし、レスポンスも十分だから、この点ではSTIの名に恥じないが、路面から伝わるステアリングインフォメーションという意味では、決して満足は出来ない。先ほど説明したDCCDを、もっともスポーティーなAUTO〔-]モードAに設定してコーナーリングを試してみると、確かに4WD的な挙動とはちがう。しかし、オーバーステアーという程ではなく、ニュートラルに近い特性で、FR車のような感覚だから、メーカーの狙いどうりでもある。ただし、FR車のベンチマークとして世界的に定評のある、BMWの3や5のようなニュートラル感覚満点という程ではない。 そして、BMWのような楽しさもない。


EJ20エンジンは1994ccの排気量から ターボチャージャにより308ps/6400rpm、43.0kg・m/4400rpm を発生する。
最近のクルマはボンネットを開けてもカバーが掛かっていて、エンジンは何も見えない場合が多いが、STIの場合は
各種の配管がグシャグシャに這いずり回っている。これをメカニックと思うか、汚らしいと思うかはユーザーの感性次第だ。 インプSTIと聞いただけで、ガッチガチの乗り心地で、とてもではないが、このクルマをファミリーカーとして使用するのは家族が納得しないというのが、今までのパターンだったが、今度の新型の乗り心地は予想を大きく外れていた。適度にしなやかで、これなら家族を乗せてファミリーカーとして使用しても、 大きな不満はでないだろう。新型になってから脅威的なしなやかさを手に入れた同じインプレッサの1.5Lモデル程ではないが、このアシは新型インプレッサ最大の長所であることは間違いない。
そして、乗り心地の良さは、コテコテのクルマオタク御用達の汗臭さを多少とも緩和している。この乗り心地はPASM付きのポルシェボクスターでノーマルモードの設定した場合に似ている。ボクスターの場合、ノーマルモードでも十分に楽しめるが、これをスポーツモードにすると、乗り心地はガッチガチで、ドライバー以外は苦痛になるほどの硬さだが、走り自体はノーマルモードに比べるとシャキっとして、よりハイレベルのコーナーリングをする。そういう意味では、新型STIの乗り心地の良さには関心したが、同時にもっと固めれば、コーナーリング性能はより向上するような気がする し、事実、試乗車は状況によっては少し不安定なロールをする傾向があった。

STIのブレーキは、この手のクルマとしては定番のブレンボ製対向ピストンキャリパーを装着している。フロントは4ポット、リアが2ポットで、黒字に”STI”のロゴが入っている。少し前までは、ブレンボ製キャリパーにカーメーカーのロゴが入っているのは、フェラーリやポルシェなどのスポーツカー専業のトップメーカーのみだったが、今回はちゃあんと”STI”と入っている。そういえば、レクサスIS−Fも”LEXUS”ロゴのついたブレンボ製キャリパーを装着しているようだ。これは、日本のメーカーの地位が認められだしたのか、それとも日本に強力なライバルが出現したことで、いままで独占状態だったブレンボ社も、少しは殿様商売から脱却する気になったのか?

そのブレーキのフィーリングは、対向ピストンを装着しているだけあって、遊びも少なく、それ以後の剛性感も十分にある。ただし、この手のブレーキは、宇宙一とも喩えられているポルシェのブレーキにしても、踏力自体は結構大きく、初めてのユーザーだと、チョッと踏んだ位では意外と効かない気がするものだ。勿論、必要なだけの力で踏めば踏力に比例して聞くのだが、そのポルシェのブレーキと比べると、STIの場合はドンドン踏み込んでいくに従って、真綿を絞めると喩えられるような味がなく、ただただ一生懸命に踏むしかない。さらには、ポルシェの安定した減速は、あのシャーシーのお陰 でもあるのだが、STIの場合は、途中空いた道路(舗装はあるが、農道の類)を選んで、目一杯ブレーキを踏んでみたが、その時の安定性はとてもではないが、ポルシェ(987と997、カイエンは除く)の域には達していな かった。STIの場合、法律的にはとも角、実際にフルスロットルを踏んで、シフトアップをしていけば、あっという間にリミッター速度に達してしまう。その時に、車両を含めたシステムとしてのブレーキ性能は果たして十分なのか 、と心配になってしまう。ポルシェの場合はといえば、例えば200km/hで巡航中、前に遅いクルマと発見してブレーキをグイッと踏むと、クルマは路面に吸い付くようにというか、後ろから見えない手で押さえつけらるように、あっという間に100km/h程度まで減速できる、とか。あっ、勿論聞いた話ですよ。自分の経験ではないですからね。ふーっ、危ない危ない。

 


写真16
前後とも245/40R18タイヤを装着する。
写真はフロント。
 


写真17
こちらはリアで、フロントに比べて各段に小さいブレーキキャリパーとローターはフロントヘビーな特性を意味する。

 


写真1
フロントキャリパーはブレンボ製の対向4ピストン。
今回は黒に”STI”のロゴが付く。

 


写真1
リアキャリパーは同じくブレンボ製だが、2ピストン。
それにしても、ほぼ新車なのに既にロータ摺動面が荒れているのが気になる。
 

 

400万円という価格で、これだけの動力性能を手に入れられるという点では、ランエボと共にSTIの買い得感は確かに高い。しかし、クルマというもは、ただ速ければ良いというものでも無いのは今更言うまでもない。しかし、血気にはやる若いころは、ベラボウな加速感を求めたりする気持ち は判るし、質感なんてどうでもいいというのも、また事実だ。なぜなら自分が若いころは、そのように思っていたから。だから、若いクルママニアが頑張って400万円のSTIを買うのは大いに結構。時には危ない目にあったり、免許の点数が殆ど無くなってしまうかもしれないが、それはそれで、若い頃しか出来ない経験でもある。と、言うと、モラルのある人からは、何という事を言うんだと批判されそうだが、実際、クルマに限らず、ガキのころから規則に忠実な優等生だったヤツよりも、どうしようもない悪だったようなヤツの方が、結局大人になって成功した例が多いし、付き合っていても面白かったりする。

こんな事を書くと、エボやSTIのオーナーが無茶な走りをする無法者のように言うのは許せない、という声が聞こえてきそうだが、これらのクルマの任意保険の料率は恐ろしいほどに高いのも、また事実。要するに事故が多いのを証明している のだから、否定しようが無い。今回乗ってみて、確かに物凄い動力性能だったが、それを支える足も、シャーシーも、果たしてついて行けるのだろうかという疑問が湧いている。少なくとも、クルマとしてのブレーキングの安定性はボクスター/ケイマンの足元にも及ばないのに、動力性能はより強力で殆どカレラ並だから、危険なクルマに間違いは無い。さらに、ドライバーの平均年齢が若いこともあり、経験不足とともに、無知による事故も当然多いだろう。 これに対してポルシェカレラのユーザーなら、社会的な地位や責任を考えて、絶対に一線を越えない筈だ。そういえば、過給圧を上げたインプでケイマンやカレラを高速でブッちぎったと喜んでいる輩がいるようだが、単に相手が一線を越えな い”大人”だっただけ。そんな、若手ドライバーも、あと10年もすれば、成る程と納得するだろうが・・・・・。

ところで、いい年をしたオヤジが、このSTIを買うのはどうかといえば、そんなことは個人の自由だから、大きなお世話といわれればそれまでだが、400万円出せば、もっと年相応なクルマがあることも事実。大体、ランエボやインプSTIの手は、若い頃に卒業しておくべきで、いい年をして高性能車に乗りたいのなら、それなりの投資が必要となる。オヤジがデッカイGTウィングの付いたセブンに乗っていたら世間の笑いものだが、ポルシェGT3 RSならば、デカいウィングを皆が羨ましがるし、クルマなんて知らない人でも、そのオーラから只者ではない事を悟る。いや、一部の人から見れば、それでもイカレたオヤジと思うかもしれないが・・・・・。聞くところによると、欧米ではモデルに係わらずポルシェのイメージは、イカレた奴が乗るクルマだとか。

そうは言っても、400万円の輸入車では、4気筒でパワーはといえばSTIの半分以下。幾らなんでも我慢できないというタイプのユーザーはどうすればいいのか?はい、ちゃあんとその答えは見つけてあります。オヤジが乗ってもサマになり、性能も十分で、しかも400万円で買えるクルマは・・・・・・次回の試乗記に請うご期待!