特別付録 インプレッサ S-GT ミニ試乗記 結論編


インプレッサのエクステリアについては既に15Sの簡易試乗記で述べたが、折角のアイデンティティである飛行機をモチーフとした新しいスバルのフロントグリルを、あっというまに捨ててしまったのが、なんとも惜しい。アウディのシングルフレームグリルだって、始めて 見た時にはナンじゃこれゃと思ったのだから、スバルだってあのグリルを定着させることがブランド構築の第一歩だったと思うのだが・・・・・。と、いう訳でニューインプレッサのフロントからの眺めは、アウディA3に比べたら、ブラントという面では全く相手にならない。何やらホンダのようなマツダのようなラジエターグリルが情けなく、何も知らなければ、これが新型のインプレッサであることすら気が付かないだろう 。唯一の救いはフロントグリルの上部に、今までに無いほどに大きな 六連星マークを付けている事か(写真1)。

リアから眺めて一番気になるのはLEDを採用したテールランプがクリアレンズのために、なにやらヤンキー兄ちゃん好みのリアビューになってしまったことだ。しかも、このS−GTにはルーフラインに繋がる”ひさし”のような、スポイラーのような、これまた兄ちゃん達に媚を売るような低次元のエアロパーツが標準装備されている。まあ、この辺 が低レベルのアンちゃん相手の商売を捨てる事が出来ないスバルの辛いところでもあるのだが、スタイル自体は実車を見れば、決して悪いデザインではないのだから残念だ。特にサイドのプレスラインなどは、BMW風にパクッたとも言いたくなるが、スタイルとしては決して悪くない。
 

SUBARU Impreza S-GT


写真1-1

 

AUDI A3 Sportback 1.8 & 2.0TFSI


写真1-2

 


写真2-1

 


写真2-2

 

写真3-1
 
写真3-2
 

S-GTのドアを開けて、まずはフロントシートを見てみれば、なんとレカロも真っ青のハイバックシートが目に入る(写真4-2)。この試乗車はオプションのスポーツパッケージ(約7万円アップ)のためにバケットタイプ(カタログの表現)シートが装着されていた。 このシートの座り心地は歴代スバルの標準品としては一番良いといっても過言ではない。国産シートにしては珍しく太股辺りまでサポートするし、左右のサポートも良いから、見かけの割には全然だめという 定番国産シートとは違う。 去年ディーラーから代車で借りて1週間ほど乗った先代レガシィGT(BH)は、エンジンも乗り味も国産車としては最良のフィーリングだったが、惜しい事にシートが最悪だった。これに比べると今回のシートは大いに進化しているから、次期レガシィには期待をしたくなる。 では、A3のシートはといえば、当然ながら一般の国産車とは比べ物にならない。S−GTのシートが良くなったのは嬉しいが、形を見ればコテコテのスポーツシートで、これに比べてA3は大人しいコンフォートシート (写真4-2)で同じくらいのサポートを実現している点も見逃してはならない。 まあ、国産シートの確実な進歩をみれば、もしかすると数年後には追いつくかもしれない、なんていいう期待もしたくなる。

内装は基本的に15Sと同じで、質感は一見したところでは歴代スバルの中では最も良い。ダッシュボードのシボも綺麗な革目で、トヨタも顔負けのレベルだ。 ところが、15Sの試乗記で指摘したように、指で叩いてみるとコチコチと音がする硬質樹脂による見かけだけのパット風だった。 また、ダッシュボードやドアパネルにアクセントとして水平方向に貼られたトリムは、一見メタリックな感覚でスポーティだが、よく見ればプラスチックにメタリック塗装したことが見え見えで、その質感は携帯電話のようだ。 これに比べるとアウディA3はダッシュボードも弾性樹脂のパッドとなっているし、エアコンの操作パネルもプラスチックながらもインプレッサに比べ質感は大いに勝っている(写真5 )。

SUBARU Impreza S-GT


写真4-1

 

AUDI A3 Sportback 1.8 & 2.0TFSI


写真4-2
 

 


写真5-1

 


写真5-2

 

ATのセレクターは、MTのように年がら年中触っているわけではないが、それでもエンジン始動後には少なくとも1回は”P”レンジからカチャかチャとDレンジまで動かす必要があ り、そのフィーリングや質感はクルマの満足感を決定するには重要な要素となる。S−GTのセレクターはジグザクゲートで、操作感自体は悪くないが、そのゲートを切ったパネルは、これまた携帯電話的質感だ。これに対してA3は流石で、BMW辺りから始まったMTのシフトレバー的なレザーのブーツで覆われたセレクトレバーや、つや消しのクロームシルバーのパネルなど、流石にドイツプレミアム御三家で、この質感がオーナーに満足感を与えるのだ(写真6)。ところで、この写真6にはシート表皮の一部が写っているが、これを見てもS−GTのシート表皮がA3に近いレベルであることが判るだろう。ただし、標準グレードのシートはこれ程には進歩していないから、その点ではスポーツパッケージは必須でもある。

室内の装備で運転中に最も見る機会が多いのはメーターパネルだから、今度はこの点を比較してみよう(図7)。S−GTは他のインプレッサとメーターのデザインが異なり、正面に大径の回転計があり、右に少し小さい速度計と左は燃料および水温の集合メーターとなっている。S−GTというグレードはSTIのようなカリカリのスポーツバージョンではない。にも関らず、真正面に大きな回転計を置き、速度計が端で小さいというレイアウトは賛成しかねる。 しかも見た感じも安っぽく、これを毎日見ながら運転するのは高級なモーターライフとは縁遠いというしかない。これに比べればA3はアウディに共通の色、デザインと、その雰囲気を毎日見ているだけで、良いクルマを買ったとう満足感に浸れること請け合いだ。こういうところが、スバルは 今だに未成熟のようだ。

SUBARU Impreza S-GT


写真6-1

 

AUDI A3 Sportback 1.8 & 2.0TFSI


写真6-2

 


写真7-1

 


写真7-2

 

このように内装を細かく比較してみれば、インプレッサとA3の差、いや国産車とドイツ御三家の差は以前ほどではないにせよ、歴然と残っている。言い換えれば、国産車もここまで近付いてきたと喜ぶべきかもしれない。完全に追い付くまでには、それ程の時間は掛からなさそうだ、と、思うのは日本人としては楽しみでもある。

ところで、内装など目に触れる部分は徐々に近付いているとして、普段は見えない部分は如何なのだろうか?と、いってもダッシュボートを外したり、内張りを引っ剥がしたりするわけにはいかないので、ボンネットの中を 比較してみることにする。 まずは写真8-2をご覧願おう。A3のボンネット内の補記類は識別を容易にする為にカラーで色分けされている。パイプの表面にはコレでもかと材質やスペックが書かれている。 これはクルマが寿命を全うして解体されて後に、各種のパーツ単体を環境汚染の発生を最小限にして再利用もしくは廃棄するための情報が表示されている。 これに比べて写真8-1のインプレッサのボンネット内は雑然としていて、各パーツの表示も時が過ぎたら何物だかわからなくなってしまいそうだ。勿論、最近は国産車もプラスチックなどは材質を表示するようになったが、 その場合もコスト第一で、言ってみれば最小限の表示しかしていない。この辺がクルマの設計思想自体のモラルの低さといおうか、金儲け主義といおうか、悲しいかな我々日本人のクルマ造りの発想は決して崇高なものではない。

SUBARU Impreza S-GT


写真8-1
 

 

AUDI A3 Sportback 1.8 & 2.0TFSI


写真8-2

 

今回取り上げたインプレッサ S−GTの価格はスポーツパッケージ4ATで259.3万円。ところが、よく調べてみたらアウディには当然の如く標準装備の横滑り防止装置とサイドエアバックがインプレッサではオプション で、 これらを追加すると、約273万円となる。更にはS−GTは基本的にオーディオレスで、今時は幾らなんでもCDくらいはつけるだろうから、結局車両価格は最低でも275万円程度となる。
これに対して、A3の場合は2.0TFSIが403万円だが、アウディの場合は購入時期を考えれば十分な値引きを期待できるし、輸入車得意の低金利ローンなども実質的な値引きだから、事実上の価格差は100万円程度となる。えっ、「百万円しか違わないの?」と思う人もいれば、「百万円も違うのか、それぁケシカラン」という輩もいる。この辺は各自の考え方と経済状態などで捉え方もまるで違う。そこで、加速性能は多少劣るが、普通の大人しく走るファミリーユーザーに とっては十分な性能を持つA3 1.8TFSIならば348万円也。今のところは新規に設定されたばかりのグレードだから値引きも渋いだろうが、暫く我慢すれば値引きも緩んでくるだろうし、決算時期ならチャンスとなる。そうした場合の価格差は実質50万円!くらいか。いや、双方とも値引きゼロとしても、その差は73万円だから、憧れのアウディは直ぐそこまで来ている。

インプレッサ S−GTは先代までと違いWRXというグレード表示を廃止したのは、このクルマがマニア相手ではなく、普通のユーザーでパワーの余裕を求めるユーザーを狙ったのかと想像する。先代までのインプレッサの売れ筋は、1.5のワゴンとターボのセダン、それもトゲトゲのSTIが売れ筋という2極分化だったから、この新型からはそこから脱却しようという目論見だろう。ただし、一般ユーザーのスバルに対するイメージは決して良くは無く、取り分けSTI系のユーザーのイメージは、太い社外マフラーでバタバタと他車を威嚇する低レベルのオーナーを想像してまう。まあ、そんなオーナーは極一部で、大部分は 純粋なクルマ好きなのだろうが、一度定着したイメージを払拭するのは容易ではない。実際に個人ブログなどで、公道でポルシェとバトルをやって勝ったとか、煽りまくったら相手はインターから降りていったとかを自慢している例を見た事があるし、そのブログにはそれを褒め称えるレスで溢れ、そのレスをしているのもSTIオーナーが多かった。実際にポルシェオーナーからしたら、インプレッサなんて如何でもいいし、全く興味がないのが普通だろう。唯一気になるのは、リアに時代遅れのTLアンテナなんかが付いていたり、青い服を着た男2人が乗っているかをチェックすることくらいか・・・・・。