VW Passat V6 4MOTION (2006/5/7) 後編
※この試乗記の内容は2006年5月時点のもので文中の価格や状況は現在とは異なります。

パサートのキーは電子式だが、日本で流行っている車内に置いておくタイプではなく、スロットに差し込んでその部分がオン/オフスイッチになっている。スロットはステアリングコラムより右側のダッシュボード上にある。 その右がライトスイッチで更に右端にあるのが、パーキングブレーキの操作スイッチとなる。パサートのパーキングブレーキはこのスイッチを押すことでオン/オフを行う。パーキングブレーキの情報はスイッチ自体のLEDが点灯することと、正面のメーター内に赤いブレーキマークが出ることで、パーキングブレーキがオンであることを確認する。慣れれば特に問題は無さそうだが、初めてこのクルマに乗って、パーキングの解除方法を知らないと、レバーもベダルも無いので面食らうし、如何したら走り出せるのか判らずに混乱するかも知れない。


3.2L、V型6気筒。250ps、33.1kgmを発生する。アウディA4の3.2と違って、こちらは横置き。


中間グレード2.0Tの2L 直4ターボエンジンで200ps、28.6kgmを発生する。

今回は4モーションの高速安定性を確認することも含めて、高速道路を走ることにする。 先ずはデーラーを出発してインターまでの数キロの道のりは一般道を走ることになる。 最初に走り出した印象は流石に3.2Lの余裕は低速から十分なトルクがあると感じる。ただし、BMW330i等に比べるとトルク感はイマイチなのは、直噴エンジンの特性や4WDによる重量増やフリークッションの影響などもあるのだろうか。そうは言っても、ひとたびスロットルを踏み込めば一瞬のタイムラグの後にグイグイと加速するし、ちょっと油断すれば恐ろしい速度まで達してしまう点では流石に3.2L だ。。

10分程走っていて気が付いたのは、一般的なATに比べて変速時に僅かながらのショックがある事で、この時点でパサートV6はトルコン式のATではなくゴルフGTIなどでも話題になったDSGを搭載していることを思い出した。6速DSGの操作レバー のP→R→N→Dというパターンは一般的なトルコンATと同じで、通常はDレンジで走行することで全く問題なく走るし、前述のようにショック等も極僅かで、 このミッションはトルコンATと同様にオートマモードで乗る事を基本としているようだ。Dレンジの手前には更にSレンジがあるが、Sに入れるためにはセレクトレバーの安全スイッチを押す必要がある。このSレンジに入れると、回転計の針は1000rpm以上跳ね上がり、市街地の巡航時でも3000〜4000rpmをキープする。ただし、車格からすればオーバースペック気味の3.2L搭載Dセグメントセダンだから、 Sレンジを使うことは殆ど無いとは思う。Dレンジからレバーを左に倒すとマニアルモードとなり、前方に押してシフトアップ、手前に引いてシフトダウンとなる。パサートにはゴルフGTIのようにステアリングコラムに付くパドルスイッチのオプションはないようだが、確かにパサートの性格からすればマニアルモード自体が実際に使われることは 、まず無いだろうから、この構成は正解とも言える。

新型パサートの4モーションは通常はFF状態でフロントのスリップを感じた時にリアが駆動される方式だから、アウディの常時前後に駆動力が配分される本物(?)の4WDでは無いし、エンジンにしてもアウディの縦置きに対してパサートは横置きと、マルで構造が違う。 まずは一般道といっても片側2車線の幹線道路を60〜70km/hの流れに乗っていると、無類の安定性をもたらすドッシリしたステアリングを握りながら、この感覚はアウディの4WD(クアトロ)と非常に似ていることを思い出す。この直進性はRWD(FR)車とは全く異なる。BMW各車はスポーティに振った分だけ直進安定性という意味では明らかに劣るし、安定志向のメ ルセデスでさえ、この安定性とは違う。パサートと同じような構成のアウディといえば、異端児のTTが思い浮かぶ。既に試乗記にも書いたがTTの場合は、停止からフルスロットルを踏むとリアに駆動が掛かって安定するまでの最初の数秒間は強烈にステアリングを取られてビックリしたが、パサートの場合は、そんな素振は全く見せなかった。ここで、最初に感じたエンジンの性能の割には、スタートダッシュで迫力が無いという事実は、もしかしたら急発進時の安定性確保のために、エンジンの吹け上がりを押さえているのではないかという疑問が湧いてくる。ブレーキは欧州車の常で軽い踏力で良く効くが、この点では最近の国産車も可也良くなっているから、パサートが大いに勝っている訳ではない。


赤い文字のディスプレイ等はアウディとイメージが共通している。 メーターパネルにまでウッドを使っているとは、VWも随分高級嗜好になったものだ。


ステアリングコラムに対して右側のパネルにある右の四角いのがパーキングブレーキスイッチ。 押すたびにオン/オフを繰り返す。これを知らないと、レバーやペダルを探し回ることになる。


エアコン操作パネルはパネル自体がウッドを使用している。温度調整は左右別々に設定出来る。。


DSGのセレクトレバーはトルコンATと同じP→R→N→Dのポジションを持つが、SはDの更に手前にあって、レバー上部右の解除ボタンを押さないとセレクトできない。Dから右に倒すとマニアルモードになるのは、他社のティプトロなどと同じ。

出発してから10分程でインターの入り口に入ってゆく。ゲートの自動発券機から通行券を時に、サイドウインドーの位置が高い、すなわちウエストラインが高いのか、手を伸ばして通行券を取ろうとしても、窓枠の下部が脇に当たって取り辛い。 とに角、通行券を取って先に進むが、最近の高速道路のゲートで御馴染みのETCレーンを我が物顔でぶっ飛ばす営業車を注意する為にサイドミラーを見ながら、クルマがいないのを確認してスロットルを2/3程度踏み込むと、十分以上の加速でクルマを押し出す。ランプウェイの急なカーブも出来の良いFF的なコーナーリングで、この辺はゴルフGTIでも体験済みなので驚かないが、最近のVWはFFに対するチューニングが実に上手い。コーナーの出口で徐々にアクセルを開いて、直線でフルストットルを踏めば、加速車線の1/3程度で既に100km/h になってしまうので、合流は極めて楽にできる。この辺が他社も含めて、3LDセグメント車の良いところで、これに慣れるとパワーの少ないベースグレードは敬遠したくなる。

本線に入って取り合えず100km/h程度で走行してみると、その走行安定性は絶妙で、とに角スピード感がなく、国産のセダン 、例えばブルーバードシルフィーのクラスで言えば60km/h程度の感覚で走っている。当日はゴールデンウィークの真っ只中だったが、 首都圏の境界を越えるあたりの限りなくド田舎に近いあたりでは、結構道も空いており、殆どのクルマが一発免停寸前速度で流れている。 今や日本のクルマも非常に進化したから、百数十キロ程度の巡航は条件さえ良ければ、特に危険でも何でも無い。と、言っても一度決めた100km/hの制限速度をアップするとなると、時代遅れの革新政党や環境保護を訴える偽善団体などが煩くて、中々簡単にはいかないので 140km/h未満は反則金にして、運悪くノルマの足りない覆面パトカーのカモになったときは、これは税金の一部だと思って我慢してくれ、という事 になっていると解釈すれば腹も立たない(いや、やっぱり腹は立つ)。 日本のクルマの高速性能がイマイチで欧州で苦戦している最大の理由は、欧州に比べて低すぎる日本の制限速度に問題がある、という論文がマジな学会誌に出ていた事がある。その面でも第2東名の開通を急がなければならないのだが、 税金の無駄だの、環境破壊だのと税金を幾らも払っていない階層に限って文句を言って、工事は遅れに遅れているようだ・・・・。

話を戻して、この速度でのパサートは安定そのもので、ステアリングホイールに軽く手を添えていれば、正にクルマは矢のように直進する。勿論、最近の国産車もこの程度の巡航は全く問題ないが、パサートの場合はレベルが違う。 これに付け加えて、VW全車の特徴でもある出来の良いシートに座っての高速巡航の楽チンさは国産車では味わえない世界だから、高速での移動の多いユーザーには実に勧められる クルマだ。前後にクルマが居なくなったところで、3車線の真ん中で100km/h程度から強めのブレーキを踏んでみると、十分な安定性でドライバーは不安なく減速できる。 更に速度を上げても問題ないから高速ブレーキ性能は十分と言って良いだろう。

一般道を走っているときに、乗り心地が硬いことは気付いていたが、欧州車に有りがちな高速ではしなやかなのに低速ではゴツゴツという典型かと思っていた。 ところが、高速道路でも硬い乗り心地は変わらなかった。特に不快とは言わないが折角の高級感と安定性に対して、この硬い乗り心地はイメージを損ねるし、人によっては嫌うだろう。 100km/hを過ぎて更に速度が上がっても、橋梁のつなぎ目ではバシッ、バシッとショックが来る。試乗車は走行距離が1000km程度だったから、当然ダンパーの当たりがついていないだろうが、 それにしても、この状況からして1万km走っても劇的に乗り心地が良くなるとは思えない。この硬い乗り心地さえ気にしなければ、パサートV6の高速巡航は実に安全・快適で、流石はアウトバーンの国ドイツで”国民車”と いう会社名をつけているだけの事はある。


試乗したV6 4MOTION(439万円)は7.5J17アルミホイールと235/45R17タイヤを装着する。


フロント、リアともタイヤ&ホイールは同一。 ブレーキキャリパーはアウディやBMWなどでも定番の独テーベス製のピンスライドタイプ。。

3.2L 級の欧州Dセグメントにレザーシート装着といえば、定番のBMW330iならハイラインパッケージとなり価格は663.4万円也。パサートV6の439万円に比べて220万円も高い。 それどころか、レクサスISもレザーシート付きならばIS350バージョンLとなって525万円だから86万円も高い。それでいて、パサートV6の内装は、 BMWに勝るとも劣らず、性能だって好き好きはあるにしても決して劣らない。 レクサスIS350に至っては、パサートの出現でその存在価値も怪しくなるが、レクサスとVWの購入層は多分異なるだろうから、まあ大丈夫かもしれない。このコストパフォーマンスという面では、パサートに敵うものは無いと言っても良い。

それでは、欠点は何なのだろう?実は今回の試乗で感じたMBやBMWとの一番の違いは、合流時の他車の挙動だった。当日はゴールデンウィークの真っ只中ということもあり一般道は結構混んでいた。デーラ ーの裏口から出て、200m程走ったところで、 表通りに右折で合流するのだが、この時に何時ものBMWのつもりで入ろうとすると誰も入れてくれない事実に、VWマークの権威の無さが身にしみる。その後、何度か合流や車線変更の必要な場面があったが、 常に結果は同じで誰も入れてはくれなかった。

この目立たなさが良いというユーザーも勿論いるだろう。 聞くところによると、首都圏の近郊でも都心から70kmも離れれば、マダマダ古い因習が残っていて、例えC180でもメルセデスを買ったというだけで近所から一斉に非難されるらしい。 そんな状況なら、「いやぁ、外車と言ってもフォルクスワーゲンですから。まあ、ドイツのカローラみたいなもんですよ」と誤魔化せるだろうし、本当にカローラと同格だと勘違いした近所の一家は、 我家のヴェロッサを見るたびに優越感に浸るという、人助けにも一役買うことができる。

正直言って乗る前は大した期待はしていなかったパサートだが、乗ってみればアッと驚く内容で輸入車なのにレクサスISより買い得な価格を付けている。何を仰る、VWは大衆ブランドなのに対してレクサスは富裕層向けのプレミアムブランドだから、コストで比較なんかしないでくれという声が聞こえる。 まてよ、それならば有名小学校お受験用の高級幼稚園にレクサスISで乗り付けたら、周りの反応は如何なのだろうか?少なくともパサートで乗り付けたとすると、「まあ随分とお買い得なお車にお乗りですのねぇ」なんて嫌味の一つも言われるのだろうか?悔しがる奥方に、ウルせぇ、116i乗ってる成金ババアの嫌味なんか気にするな、とキッパリ言えるアナタなら、パサートV6を選択に加えても良いのではないか。確かにBMW3シリーズ(E90)と比べれば、駆け抜ける喜びはないかもしれない。でもBMWオーナーで多少なりともワインディング路を攻めて遊ぶユーザーはどのくらいいるのだろう。 郊外の道路には3シリーズに乗ったオバサンをアチコチで見かけるが、如何見ても、あんなスポーティな挙動のクルマを必要としそうには無さそうな気配がするのだが。 パサートV6 4MOTIONというクルマ、C180、320iやIS250の予算があるなら、もうひと頑張りして候補に入れてはどうだろうか?