BMW M5 慣らし運転編 (2005/11/12)

 




ポルシェ カレラS


一見ソクッリな5シリーズMspと比べても、本物のオーラが漂う独特の迫力がある。


自他共に認めるクルマ好きの俺は、その日も愛車のエボVを駆って獲物を探していた。そんな時に遥か前方に見えたのはリアの形状から言ってBMWだろうか。シフトダウンをしてから、即座にスロットルに力を入れたら、前方のBMWはあっという間に迫って来た。流石はエボだ!中古とは言え乗り出し200万は俺の稼ぎからしたら可也きつかったが、この性能を満喫できるとなれば我慢もできる。前を行くBMWなんて幾らするんだろうか?聞くところによるとショボイ4発の遅いクルマでさえ400万円もするそうだ。400万円もあったら夢にまで見た新車のエボ\が買えるじゃないか。全くクルマを知らないヤツってぇのは可哀そうなもんだ。
そんな事を考えながら、俺は前を走るBMWにピッタリと鼻先をつけて、対向車の切れるタイミングを伺っていた。良く見れば前の車は結構デカイ。クラウンよりも一回りはデカイだろう。こんなクルマに、どうせ200馬力以下のショボイエンジン載せてんだろうなんて思うと、笑いが込み上げてくる。いよいよ対向車線の流れが切れた。俺は更にシフトダウンをした。何ていうカッコ良いエンジン音なんだ!全く痺れるぜ。いよいよ、待っていた瞬間がきた。俺は一気にスロットルを踏む右足に力を込めた。
とっ、前のBMWが行き成り凄まじい勢いで加速を始めた。そんなバカなっ!俺も慌ててフルスロットルを踏んだが、追いつけない。いや、それどどころか離れていくではないか。しかも、世界一カッコ良いと思っていた俺のエボのエンジン音をかき消すように、甲高いエクゾーストノートを響かせている。こんな音は聞いた事がない。いや、待てよ。テレビで見たF1があんな音を出していたのを思い出した。それに、今気が付いたが、BMWのリアバンパー下からは太い4本の排気管が覗いているし、トランクの上にさり気なく付いているウイングだって良く見れば半端じゃない。一体、あれは、ナンなんだ!

と、まあ、日ごろ目障りな小僧のエボやインプ、それにRX-7などを、ちょっとオチョクってやりたいなんて思っているあなた。そんな事は簡単ですよ。納期はチョット掛かるけど、BMWのデーラーにM5を注文すれば良いだけの話だから。いや、場合によっては即納のキャンセル品があるかもしれない。後はホンの1500万程のポケットマネーがあれば良いだけの話し。

そんな訳で、今回はBMW M5を取り上げる。E60になってからのM5人気は歴代のM5の中ではダントツで、それどころかBMWファンのみならず、クルマ好きと言われる多くの人たちが半端ではない感心を持っているようだ。

そこで、今回の試乗記は、もしも幸運にもM5を買う事が出来たなら、まず最初にするべき慣らし運転を、オーナーのご好意により実際に体験する機会に恵まれた B_Otaku  が、それを再現して、読者の皆さんにもバーチャルM5納車直後体験をしてもらおうという企画を立ててみた。1500万もあったら、クルマなんて買わないで中古マンションの一つも買っておくとか、その前に住宅ローンの繰上げ返済に回すなんていう、ケチ臭い話題は置いておいて、今回は景気よく行ってみよう!


M1は1979〜1981年の間に456台しか生産されなかった幻の名車。直6、3.5ℓ、277psエンジンをミッドシップに積む。

M535i(E28)、1984〜1987年
直6、3.5ℓで12バルブ(SOHC)版がM535iで、24バルブ(DOHC)版がM5と呼ばれる。

その前に簡単にM5の歴史に付いてオサライしておこう。
M車は1972年にBMWのモータースポーツ部門として、その名もモータースポーツ社として設立された。Mの最初のモデルであるミッドシップエンジンのM1は1979年にBMW本体で開発され、それをM車でグループ4、6へとモディファイした。もちろん目的は打倒ポルシェだったが、レギュレーションの変化によって実際には日の目を見なかったようだ。M1がカタログに載っていたのは81年までの僅か2年間だったが、その間の80年から81年の間にM5の最初のモデルであるM535i(E20)が発売されていた。
2代目のM5は1984年のM535i(E28)だが、その1年後には同じ直6、3.5ℓエンジンながらDOHC化されM535iより70psアップの286psエンジンを搭載したM5が発売された。当時の雑誌を引っ張り出して見たら5MTを駆使して出した動力性能は0→100km/hが6.5sで最高速が245km/h。当時のミドルサルーンとしては驚異的だったようだが、20年の歳月を経た現在では、この程度の性能はクラウン3.5アスリートだって出せそうだ。


3代目M5(E34)、1988〜1995年
直6、3.8ℓで340psエンジンを搭載

4代目M5(E39)、1998〜2003年
V8、5ℓで400psエンジンを搭載

3代目のM5は1988年のE34でエンジンは6気筒としては限界に近い3.8ℓで最高出力が340psだった。E34は、最近でも偶に見る事があるが何故か殆どがM5や、その他のコンプリートカーもしくはモドキのようだ。
そして、先代E39のM5は1998年に発売され、従来の直6に代えてV8、5ℓが搭載された。最高出力は400psで当時としては驚異的だったが、あれから僅か7年後の今では、トップパフォーマンスと言えば500psの世界になってしまった。

代々M5というのは、ベース車がアッパーミドルセダンである5シリーズだから、どちらかと言えば高級4ドアサルーンを更に高性能にしたハイウェーツアラー的な面がある。この点では初代E30がレースのホモロゲーションを目的として市販されたM3とは大いに異なる。


上がM5で下が525i Msp。撮影条件の違いはあるが、写真で見てもM5は何となくオーラが出ているのが判る。
とは言っても、この2台を見ても判らない人には全く同じに見えるが。


M5は真後ろから見るのが一番判りやすい。4本の太い排気管が不気味にその性能を暗示している。

525i Mspの最大の相違点は排気管の数と太さだが、バンパーも当然異なる。このままで、M5のエンブレムを付けても、何かが違うということになる。

そして、5代目となるM5が今回試乗したE60で、何と言ってもF1エンジンと同じ構成の90° V10エンジンを搭載しているという点で、今までのM5では考えられないくらいにマニアの関心が高く、また人気もある。そのエンジンはと言えば、5ℓのV10で507psを7750rpmで発生する。5ℓもの大排気量で7750rpmというのも凄い!流石はF1ベースと誰もが納得のハイチューンエンジンだ。
さて、その価格はと言えば、本体が1330万円だから、これにオプションをつけて、取得税(なんと66.5万円)やその他の諸経費を合わせれば軽く1500万の大台を超えてしまう。この千五百万が高いか安いかと言えば、コストパーフォーマンスとしては十分に買い得とも言える。なぜなら、500ps超で、しかもリッター100psのハイチューンエンジンでさらに多気筒(V10以上)と言えば、それはフェラーリエンツオ、ポルシェカレラGTやメルセデスSL−Rなどの超高性能車の分野だから安くても数千万円級と言ったら言い過ぎか?何にしてもM5は実にお買い得ということになろう。まあ、千五百万のクルマを安いというには程遠い生活のB_Otaku が言うのもナンだが・・・・。

では、何故にM5が、これ程の低価格(!)を実現できたかと言えば、量産車である5シリーズのコンポーネントを極力流量しているからに他ならない。そこで、次の興味は5シリーズのMspあたりと比べて、どのくらい似ている(違う)のかということだろう。外観は普通の人がチョッと見た限りでは、他の5シリーズと大きく変らない。E46の場合はクーペの330Ci-MspとM3を比べれば、フロントのエアインテークなどが、似ているようで似ていないとう状況だったがM5と5シリーズは、特にMspパッケージなら可也似ている。大きな違いはフェンダー横のグリルと後ろから見た時の左右2本出しの4本マフラーと、それに関って形状の異なるリアバンパー、そして19インチのホールと極太のタイヤくらいか。

ただし一言で言えば、やはり本物のM5は何とも言えないオーラのような物を発散している。その原因は何なのかは判らないが、見る人が見れば一目で判る。しかし、クルマに興味の無い普通の人、いや少しクルマ好きくらいなら区別は付かないというのも、これまた事実だ。


このクルマのオーナーが一番お気に入りのアングル。
確かに、この角度から見るのが一番M5の特徴が出ていて、”普通の5シリーズ”との区別が付けやすい。

フェンダー横っ腹に開いたグリルこそは、外観上で最大の特徴となる。

フロントドアを開けて見れば、チョット見には普通の5シリーズと変らない室内が見える。このクルマのシートは市販のレカロに代えてある。

この写真は標準シートのM5。ただし、白い内装は限定バージョンだ。元々限定のようなM5に、更に限定版があるのも不思議だが。


ドアを開けると、そこ(ドアシールプレート)に見えるのは
”M5”のロゴ! やはり本物は何処かが違う。

ドアを開けた時に見える風景は普通の5シリーズと大きくは変らない。と、思ったら、ドアシールプレートに大きなM5のロゴを発見。やはり”M5”というのは格が違う。
リアも基本的には5シリーズと同じだから、180cm級の大男(大女も)でも苦にならずに乗る事が出来るが、M5の運動性能をフルに使って運転されたら、リアの乗客は首がもげそうになるだろうが・・・。

試乗したクルマにはアルミのトリムが装着されていたが、今まで見たアルミトリムの中では最も質感が良い。表面には荒めのヘアラインが水平に入っているが、中々オシャレで気が利いている。この点では、昨年乗った525i Mspに標準だったパチンコ屋の壁材みたいな趣味の悪いキサゲ模様とは雲泥の差だ。ただし、最新のカタログを見たら5シリーズMspの標準も少し変っていた。

 


リアも基本は5シリーズそのものだから、普通の高級サルーンとして十分な実用性がある。ただし、運転によっては凄まじい前後・左右のGが乗客を襲うこともあるが。

写真左がM5のトリムで”ブラッシュド・シャドー・アルミ・トリム”という。アルミトリムとしては今まで見た中で一番の出来だ。右が525iMspのトリムで1年程前の標準品。ただし、最新型では少し変っているようだ。
   

525i Mspの室内。このクルマのオーナーから見れば、憧れのM5にソックリだし、M5オーナーから見れば、似てはいるが本物とは違うと感じるような絶妙な差別がある。流石にBMWで、実直なようで中中商売が上手い。

トランクの奥行きは深いが、巨大なタイヤや頑強なサスを納めているタイヤハウスのお蔭で、幅方向は広くはない。

後ろに回ってトランクを開けると、流石にアッパーミドルカーの5シリーズベースの奥行きのある荷室が見える。ただし、サイドパネルは高度なリアサスを覆っているから全幅は狭い。このクルマのオーナーのゴルフプレー率は高いだろうし、客室は4人の長距離走行に全く支障がないから、このトランクにゴルフバッグ4個が楽に積めるかは大きな問題だろう。残念ながらゴルフをやらない(言い換えれば出世コースからスピンアウトした) B_Otaku  には判断が出来ない。

このトランクルームの底板を持ち上げると、そこにはリッパなコンプレッサーと薬剤のタンクを持った、如何にも質の高そうなパンク修理キットが搭載されている。この方法はポルシェも同様だが、スペアタイヤを積まずに、ランフラットタイヤ(RFT)でもなく、パンク時は修理キットで対応するという話を聞いて、セコイ国産車しか知らない感覚で判断すれば、カーショップ等で売っている虫取りスプレーの親戚みたいなセコいヤツを想像するだろう。ところが、この写真で見てのとおりの、実に立派な物が搭載されている。


トランクの床下にはバッテリーとコンプレッサーを仕込んだパンク修理キットが入っている。普通のの5シリーズもランフラットタイヤなんて止めて、これを積むオプションが欲しいくらいだ。

以上のように目で見た限りは、成る程流石に本物は違うと感動するとともに、いや、5シリーズのMspだって殆ど変らないではないか、とも言えるところが実に上手い。M5のオーナーは前者であり、Mspのオーナーは後者だろうから、双方が満足して円く収まるのだから、BMWも商売が上手いと関心するしかない。

このように、見かけは結構にているM5だが、もしも、あたながM5のオーナーとなり、待ちに待った納車の後に、早速乗り出そうと思った場合、普通のクルマならATの場合はPからDにセレクトレバーを動かすし、MTならばクラッチを切って、シフトレバーを1速に入れれば良い。これは世界共通だから、ドライバーなら誰でも判るが、M5の場合はチョッと違う。だから、乗り出す前にM5に備わる各種の走行モードを覚える必要がある。

M5のエンジン制御は3つのモードを選べる。一番大人しいのはP400というモードで、その名から想像できるように最大出力が400psに抑えられるモードだ。次が507psのP500で、最後が同じ507psでも特性の異なるP500Sportという文字通りのハイパワーモードとなる。
更に、シーケンシャルミッションのSMG3にはD(ドライブ)というトルコン付きのATのように自動変速をするモードと、S(スポーツ)というシフトレバーかステアリングと一体のパドルスイッチでマニアルシフト操作をするシーケンシャルモードがある。そして、この2つのモードにはシフトのタイミングが遅い方から1、2・・となりDはD1からD5まで、SはS1からS6までを選べる。ただし、最速シフトのS6を使うとクラッチの寿命が著しく短くなるので普段は使わないようにとの事で、そんなら一体、いつ誰が使うんだなんて言いたくもなる。
モードを切り替えは此れだけではない。EDCというダンパーのコントロールは3段階で、横滑り制御であるダイナミックコントロールDSCは2段階とOFFの3種類が選べる。
とに角、此れだけのモードの中から一つを選ぶ訳で、これを使いこなすにはクルマの慣らし運転とともに、オーナーも慣らしが必要のようだ。

ここまでの内容からも判るように、このM5は”何でも良いから一番速くて高いヤツ持って来い”という手の、土建屋の成金社長タイプには全く向かないのは言うまでも無い。だからM5のオーナーであるということは、その資金力と共に、このハイテク車を使いこなす頭脳の持ち主であるという事の証明にもなる訳だ。


ボンネットの下にはV10、5ℓ 507psエンジンがメ一杯に詰まっている。
残念な事にトグロを巻く蛸足マフラーも銀色に輝くシリンダーブロックも全く見えない。

辛うじて見えるのは、銀色に光り輝くシリンダーブロックの一部。

エンジンルームには、このクルマの塗装色を示す銘板が貼ってある。シルバーストーンUという色は当然普通の5シリーズには無い。商売の上手いBMWのことだから、E60モデル末期には、この色のMspを国内100台限定とか言って売りさばくような予感がするが。

ドライバーズシートに座れば基本的には5シリーズと変らないが、試乗したクルマには純正シートではなく市販品のレカロ製が装着されていたため、標準より少し着座位置が低い。それでも、基本的にはサルーンのボディだから広さも十分で、このクルマがスーパーカー並みのパフォーマンスを持つという実感は無いが、正面の目盛が330km/hまで刻まれた速度計と、8200rpmからレッドゾーンの回転計が、控えめだが、その素性を主張している。

このクルマのエンジンを始動するには、普通のクルマと同じようにキーを差込む。一段捻ればインジケータ類が点灯し、ステアリングがメモリーされた定位置に移動する様は、これも現代の高級車そのものだ。シフトレバーがNにある事を確認してブレーキべダルを踏み、更にキーを捻れば、5ℓ、V10エンジンは極普通に目覚める。ひと昔だったら、これほどの高性能エンジンを始動するには、特殊なテクニックを必要とする儀式が必要だったが、現代の、それもハイテク満載の最先端のクルマであるM5は、この点では誰でも扱える。
アイドリングも高性能エンジンという概念とは全く異なり、実に静かで安定している。広い室内と共に、まるで高級サルーン(M5も一種の高級サルーンだが)のようだ。この点では同じ価格帯とはいえ、ポルシェカレラのタイトな室内と低い着座位置に座って、ブルブルとクルマ全体が振動するアイドリングで、頭にカーッと血が上りそうな雰囲気とは対照的だ。

走り出す前に、ミラーの位置を合わせようとして、サイドミラーに視線を向ければ、何やら視界が狭く、使いにくそうなミラーが目に入る。実際に、この視界の狭さは、高速道路でのレーンチェンジなどで、極めて使い辛い。これも慣れの問題かもしれないが、BMWといえば安全性だって世界のトップを走るメーカーだから、見かけと空力特性とともに使いやすさも満足するミラーを開発してもらいたいものだ。


基本的には5シリーズと共通だが、良く見れば随所に金が掛かっているのが判る。

それでは、いよいよ走り出したみよう。

走り出すためにはブレーキを踏み、センターコンソール上の短いシフトレバーを右に倒すと、正面下部の表示部にはDと表示されて、今ドライブモードである事を示している。右足をスロットルペダルに乗せ代えて静かに踏み込むと、クラッチの多少のスリップ感はあるが、クルマは静かに走り出す。 静かにスロットルペダルを踏む限りは、V10、5ℓエンジンは普通の高級車と何ら変わらない動きをする。3000rpmまでは、エンジン音も結構静かだから、この面でも普通の高級セダンとして使っても違和感は無い。そうは言っても100ps/ℓのハイチューンエンジンだから、3000rpm以下のトルクはたいした事はない。 特に街中をDモードで静かに走っている時の回転数は2000rpm程度なので、こういう走りをする限りでは、むしろ価格的に半値の530iの方がトルク感があって走り易いかもしれない。今回は真ッサラの新車の慣らし運転中ということで2000rpmでも気にしなかったが、慣らしが済んだ段階では、果たして2000rpmというのは クルマに悪影響がないのかという疑問も起こる。そうなると街中でもSモードにして、パドルスイッチをカチャカチャやりながら走ることが必要になるのか。

SMGのDモードは世間では評判が悪いので、あまり期待はしていなかったが、結構使い物になりそうだ。特に市街地の流れに乗って走る程度の加速では、シフトアップ/ダウンのショックも殆どない。場面によっては、自動のシフトダウンをするときに、軽いブリッピングを勝手にやるが、その音は小さいながらもドキってするサウンドの片鱗を聞かせて、慣らしが終ってフルに踏みまくった時の期待を更に膨らませてくれる。
ところが、使いにくさは行き成り現れた。それは坂道の登坂中などのトルクが掛かる場合で、エンジンのトルクが必要とするのに即座にシフトダウンをしないので、トルコンATの感覚でスロットルを踏み込めば、タイムラグの後にシフトダウンをして、さらに踏み込んでいたスロットにV10エンジンが突如目覚めてビックリ する場面が何度かあった。今回のように真っ更な新車で、回転数の自主規制をしている場合には尚のこと焦ることになる。そして、このような時のエンジンの挙動はといえば、3000rpmまでは極大人しいく、エンジン音も一般高級車と変わらかったが、ここから先は突然に音が変わり、アッという間に回転計の針は飛び上がろうとする。 この時瞬時にスロットルを戻しても、軽く4000rpmまでは回ってしまうから、実際に慣らし運転が済んだ状態で、スロットルを踏み続けたならば、V10エンジンは一体ドンナ音と加速感をプレゼントしてくれるのだろうか?まあ、今回はオアズケと言う事になるが、この時ばかりは取って置きの御馳走を前に「お預け」をされたのに、待ちきれずに食べてしまったバカ犬の気持ちが良く判る。

シフトのモードが違うことによるタイムラグの変り方などは、今回は時間(と知識!)が無く詳細は試す事が出来なかった。色々なモードとスイッチの組み合わせは、パソコンのようにディスプレイに使い方が表示される”ヘルプ”モードが欲しくなる程に複雑だ。やはり、この超高性能でハイテク満載のクルマを自由に転がすには、可也の慣れが必要のようだ。


メーターは基本的には5シリーズと共通のデザインだが、330km/hまで目盛が刻まれた速度計や8200rpmからレッドゾーンの回転計などが並みのクルマではないことを暗示している。ステアリングと一体のパドルスイッチは右が+で左が−と一般的だ。

シフトレバーは写真の状態がニュートラルで右に倒して鉛直になったあたりでDとなる。その後は右に倒す(押す)毎にSとDに切り替えられる。レバー手前はダンパーの切り替えで、左の3つは奥から"POWER" "DSC" "EDC"の各切り替えスイッチ。

M5のステアリングは普通の5シリーズがアクティブステアリングを装着しているのに対して、オーソドックスなラックピニオン式のパワーステアリングを装着している。アクティブステアリングは2年前の発売当時と現在では味付けが異なっているようで、特に初期のモデルは異常に軽くてクイックだったが、最近は大分マイルドなった。これは、これで他には無い魅力があるが、元々何となくわざとらしさを感じる事と、BMW独特の路面からのインフォメーションやステアリング系の滑らかな動きという面では多少劣ると感じられる。それに比べればM5のフィーリングは非常にオーソドックスで、如何にもBMWらしい。操舵力は重めで、中心から指1本分動かせば即座に反応するから、長年BMWに親しんだドライバーには全く違和感が無い。それでいて、極端にクイックというわけではない、この絶妙な味付けもBMWそのもので、しかもM5ということで予算も十分あるだろうから、BMW各車種のなかでも、そのフィーリングは最良だ。
コーナーに入ってみれば、これまた極めて安定している。試しに高速のランプウェイのキツいカーブで試してると、安定して通過できる速度が一般のクルマとはマルで異なる。このような時に助けとなるのが、ホールドの良いシートだということも実感できるだろう。例えば旧3シリーズ(E46)の標準モデルだと、クルマのコーナーリング限界の前にシートのサポートの悪さから、自分の体を支えられずに減速することになる。スポーツモデルにサポートの良さそうなシートがついているのも成る程理解できる。そんな事は当たり前なのだが、世の中にはマトモに走らないスポーツモデルや振動と騒音から4000rpm以上回す気になれない高性能エンジン、そしてそれらのクルマに標準装着されている見るからにサポートが良さそうな形状の割には、実際には見かけだけのスポーツシート等、等が多すぎる。おっと、M5の本物感に触れたらば、つい余計な事を言ってしまった。

可変ダンパーであるEDC(エレクトリック・ダンパー・コントロール)は柔らかいほうからコンフォート、ノーマル、スポーツの3段階に切り替えが可能だ。試乗したクルマが納車直後で走行が僅か数十キロの時点から運転をしたが、そんなマッサラの新車にも関らず、乗り心地は非常に良い。とくにコンフォートを選んだ場合は、525iのMspというよりもハイラインに近い程の乗り心地になる。このクルマが今後距離を重ねたら、更に良好な乗り心地になることは間違いない。一番硬いスポーツを選ぶと、当然路面の凹凸はビシビシと拾うが、それでも決して不快ではない。と、言っても、普通の走行ではノーマルで十分安定しているし、スポーツの乗り心地は不快ではないが、長時間の使用は、やはり疲れる。

次に高速道路で、後ろにクルマがいないのを確認して、急なレーンチェンジを試みると、M5の挙動は今まで乗ったどのセダンよりも安定していて、これが1.9トンの大型セダンであるとう事が信じられない程だ。これに勝てるのは、今までの経験では唯一ポルシェのカレラとボクスターのみだ。ポルシェの2車は、元々重心の低い水平対向エンジンを搭載した2シータースポーツだし、駆動形式もリアやミッドシップにエンジンを搭載した、いわば走る以外に取柄のないクルマだから、M5の挙動がいかに驚異的かという事になる。なお、この時EDCは主に”スポーツ”を使用したが、ノーマルでもそれ程は変らなかった。

と、ここまでは正に良い事づくめのような表現になってしまったが、人間の作るものに完璧は有り得ないから、M5にも当然ながら弱点はある。まず、車両重量が1.9トンに迫る程にヘビーウエイトであることからくる動作の重々しさは如何ともし難い。これが逆に扱い易さに繋がるのだが、F1エンジンを積んだスポーツサルーンという理解の仕方だと、想像したようなクイックな挙動ではないと感じるかもしれない。
もう一つは、全幅1855mm、全長4870mmという大柄なサイズによる取り回しの悪さだ。このサイズでは狭いワインディングを楽しむには、幾らなんでも大き過ぎる。

ブレーキについては基本的なフィーリングはBMW全車に共通するもので、軽い踏力と喰いつくような減速感で一般道の使用に於いては実に安心できる。M5のブレーキキャリパーは見る限りでは5シリーズの上級車種(V8搭載系)や6シリーズ、それに7シリーズとも共通のドイツテーベス社のアルミボディのフローティング2ポットのようだ。ただし、黒く塗装してある。ローターは他のBMW各車とは異なり、穴あきローターを使用している。このローターは、パッドとの摺動面が鋳鉄でハブがアルミで軽量化されている。鋳鉄とアルミの結合だけなら6シリーズでも採用しているが、M5のローターは、この結合方法が非常に凝っている。これは文章では説明できないが、一体どうやって作るのかと思うような凝りようだ。
このように、通常の使用では性能的に全く問題のないM5のブレーキだが、見かけという点では、ブレンボーの対向ピストンを装着したAMGなどに比べて、どうしても見劣りがするし、凝った構造のドリルドローターとの視覚的なバランスという点でもイマイチだ。BMWにしてみれば、フローティングの2ピストンでも性能的には十分だし、むしろバネ下重要の軽減や、ローター位置を外に出せる点でメリットがあると言いたいだろう。そうは言っても、このクラスのクルマの場合は、スペックだって重要だから、今後なんとかならない物だろうか?エボやインプの小僧に馬鹿にされたら腹がたつではないか!

M5を運転していて一番感じる事は何かと言えば、F1テクノロジーのエンジンよりも、絶妙なハンドリングよりも、実は周りの反応だ。今回のコースの途中には登坂車線のある峠道があったが、このクルマが近付くと皆左の登坂斜線に入ってしまう。如何にも速そうなレガシーGTなども、即座に道を明けてくれる。考えて見れば、280ps級のクルマに乗るようなマニアの方がこのクルマの素性を知っている可能性が大だが、如何見てもM5なんて知らなさそうな普通のオジサン・オバサンも即座に道を譲ってくれたから、やはりM5のスタイルは誰が見ても普通のクルマには見えないのだろう。もっとも、この時ステアリングを握っていたのは、このクルマのオーナーだったから、その風貌にも多少の原因があった事は否定できないが・・・・。

 


M5のフロントに標準の8.5J19ホイールと255/40ZR19タイヤの組み合わせ。

リアは9.5J19ホイールと285/35ZR19タイヤとなる。しかし、このタイヤが減ったら、交換に幾らかかるのだろうか?何て考えるのは貧乏人の証拠か?

フロントキャリパーは形状から見て7、6、5シリーズで使われているテーベス製のアルミボディを持つ2ピストンのフローティングタイプのようだ。黒く塗装されているので、一見対向ピストンに見える。

リアキャリパーも他のBMWと共通だが、フロントに比べて更に見場が悪い!性能的には問題は無いにしても、ピカピカの対向4ピストンが覗くAMGに比べて見劣りがするのは否めない。

M5の魅力はF1エンジンに直結する90° V10エンジンをハイオーナーサルーンに積んだ、いわば羊の皮を被った狼(アグレッシブな外観の5シリーズが羊か?という疑問もあるが)ということに尽きる。高性能サルーンの代名詞と言えばAMGが有名で、地味なM5は今まで影に隠れた存在だったが、今度のE60は違う。一見只の高級セダンだから、 取引先の購買係長に「あれっ、社長、外車買ったんだ。景気いいねぇ。少し値下げしてもらおうかなぁ(笑)」なんていわれても、「いやぁ、型遅れのキャンセル品があって、結構値引きしたんでね。実際にはクラウンと大して変わらないんですよ」なんて誤魔化せる。それに誰が見ても真っ当な4ドアセダンだから、経費で落とすのは全く問題にならない。これが、例え価格的に半値だとしてもボクスター なんか買ったら、世間様にはポルシェの、しかもオープンを買ったと、あたかも犯罪を犯したように陰口を叩かれる。ましてや経費で落とすには、余程根性の据わった税理士を雇わないと無理だろう。何れにしても、このクルマを買うだけの財力と、立場上からスポーツカー丸出しのクルマには乗れないが、兎に角クルマが好きだし、半端なものでは満足できない人にとっては、今度のM5は最良な選択となるだろう。 

M5のような度を越えたフラッグシップカーというのは、これがあるだけで、そのシリーズ全体の活気が増すというメリットがある。M5があるからこそ、5シリーズのMspが生きるのだ。これは国産でもスカイラインがGT-Rで人気を築いていたのと似ている。スカイラインもGT-Rに憧れたユ−ザーが、しかし予算がないので本物は無理でも、そのイメージソックリのGT-Sを買うということで人気を保っていた。それが、GT-R無き後のV35では、全く人気のないオヤジグルマに落ちぶれてしまったではないか。
そういう意味では、レクサスGSだって5シリーズと戦うのは厳しい。トヨタはF1にも参戦しているのだし、他社のコンセプトをパクル・・・・おっと、参考にするのが実に上手いから、V10の5ℓを開発してGSに載せる事を考えないのだろうか?

と、いうわけで、今回の慣らし運転編はこれでお終い。次回は慣らし運転も済んで、500psのパワーとF1サウンドを堪能した試乗記をお届けしたいとは思うが、そんな運転を安全かつ合法的に出来る場所などあるのだろうか?そんな疑問と共に、今後色々と計画を練って行こうとは思っているところだが・・・。
こんな時、つくづくドイツ人が羨ましい。