BMW F40 118i (2019/11) 後編 その2


  

駐車場から公道に出たところで軽く加速すると、当然ながらパワフルという感じはしない。試乗した 118i (F40) のエンジンは 218i アクティブツアラー (F45) および 218i グランツアラー (F46) と全く同じで、出力とトルクも同じだ。ただし、これらは2018年の MC からで、それ以前では最高出力が僅かに低い(136 → 140ps) 事と、トランスミッションが 6AT であったという違いがある。

この MC 前のモデルではあるが、下記の試乗記も参考にされたい。
⇒ 218i Gran Turer (2015/6) 試乗記
⇒ 218i Active Turer (2015/6) 試乗記

これら 218i は低速時には意外にトルク感があったのだが、今回の 118i はそれが感じられなかった。ただしその原因は後述する乗車人数に起因している可能性が大きいが‥‥。次にフルスロットルを踏んでみたのだが、右足は必至でペダルを踏みつけているにも関わらず、回転計の指針はモッタリと上がっていく。しかも今回の試乗では運営側の新人教育の為に一人乗せて欲しいという事で4人乗車となった事から、218i の時の記憶以上に加速は悪く殆ど我慢の限界だ。

では1シリーズ同士の比較ではどうかと言えば、エンジンスペックがほぼ等しい F20 118i と比較しすると‥‥まあ F20 もアンダーパワーなのだが、もう少しマシだったような気がする。加えてトランスミッションが F20 では 8AT だったが新型は 7AT という事で、ギア比がワイドとなっている事も加速感の乏しさにつながっているだろう。
⇒ 118i (2017/9) 試乗記

では実際にボンネットフードを開けてエンジンルーム内を比較すると、エンジン自体のスペックはほぼ同一ながら、F20 の縦置 RWD から F40 では横置き FWD と全く異なる方式となったのがよく解る。そしてエンジン搭載位置とストラットタワーの中心線 (写真35 黄色線で表示) の関係をみると、F20 ではエンジンの中心位置にあるが、F40 ではエンジンは大きくフロントにオーバーハングされていた。まあこれが世間の車としては常識であり、F20 は特異な存在だった訳だが、これこそが前後重量配分 1:1 という BMW のポリシーとそれによる優秀な操舵特性をもたらしていたのだが、これで1シリーズについては遂に「普通の車」になってしまった。

そして、なる程ハンドリングコースでの惨憺たる結果は当然だったと納得できる。願わくばこれが3シリーズ以上にも展開されない事を祈ろう。

写真35
新型のエンジンは B38A15A 直3 1,499cc Turobo 140ps/4,600-6,500rpm 220N-m/1,480-4,200rpm 。

旧型では B38B15A 直3 1,499cc Turobo 136ps/4,400rpm 220N-m/1,250-4,300rpm。

エンジン性能は殆ど同じだが搭載方法と駆動方式が全く異なり、ストラットタワーの中心(黄線) に対して新型は前方にオフセットされている。

さて操舵性だが、これはもう冒頭のハンドリングコースでの体験から期待でないのは判っているが、それでもあのような極端な操作ではなく、一般道のごく普通の環境ではそれ程にトロイというものでもない‥‥と言いたいが、やっぱり BMW のブランドとしてはちょいと情けない。それでも2シリーズ ツアラーではそれ程気にならなかったのは車の性質から大した要求もしていなかった事と、あのシリーズ自体の存在価値が理解できず、言ってみればどうでもいいから気にもならなかった、というのが本音だが、ハッチバックの1シリーズでこれではチョイと考えてしまう。

タイヤサイズは新旧の 118i M Sport を比べると先代 (F20) ではフロント225/45R17 リア245/40R17 という BMW の M Sport ではお馴染みの前後で幅が違う組み合わせだが、新型 (F40) では前後とも 225/40R18 を使用している。この理由を考えるとF20 はRWD の為に駆動力を伝えるリアタイヤの幅を広くしているのだろうがMモデル、いやせめてMパフォーマンスモデルならとも角も、118i で245 幅はオーバースペックだ。すなわちこれは見かけが目的であり性能的には疑問があるが、これがここ20年来の BMW の商法であり、その昔は批判的だったメルセデスも最近では AMG マークの大径ホイールを付けたモデルを販売しているくらいだから、理屈は別として商売としては BMW が正解だった事になる。

その大径ホイールに対してブレーキがショボいのも BMW の特徴だったが、最近の新型車では M Sport の場合はフロントに対向ピストン (オポーズド) キャリパーを使うようになってきた。これは1シリーズでも同様で、新型は 118i でも M Sport ならばフロントに対向4ピストンキャリパーを使用している。

ただし、今回のモデルに付いていたキャリパーを見ると、ピストン径と同じと思われる円形の窪みがある (写真37) 。そこでこれを指で確認したところ、恐らくブランクプラグだろうと推定できる。すなわちシリンダー加工を容易にするために穴加工を片側から貫通してしまい、その穴を後から別部品で塞ぐの方式であろう。

これはレクサスなどに使用されているアドヴィックス製キャリパーが採用している方法だが、シールの変形などがあればペダルストロークは増えるとか、何よりプラグからの液漏れの心配などあまり嬉しい方式ではない。ただし、レクサスの場合はフルエレキのブレーキスステムも多く、この場合はドライバーが踏んでいるペダルは単なる電子信号の発生器であり、ここは上手く誤魔化せ、もとい、カバーできるという裏技がある。

とまあ堅い事は抜きにして実際のブレーキ性能は BMW らしく軽い踏力で良く効くが、逆にオポーズドらしいフィーリングというのも感じられない。というと、オポーズドのフィーリングって何なんだよ? と言われそうだが、これは片押しに比べてパッドとローターの隙間を狭く出来る事から、ペダルの遊びが少ない独特のフィーリングにし易い事だ。ただし最近のオポーズドは片押しと変わらない遊びのものが多い事も事実だ。


写真36
試乗車のタイヤは 118i M Sport に標準の225/40R18で前後同一サイズ、
F20 は同じ M Sport でも Fr:225/45R17 Rr:245/40R17とホイール径はワンサイズ小さいが前後で幅は異なる。

写真37
新型ではフロントに対向4ピストンキャリパーが奢られているが、このキャリパーはシリンダ加工時に穴を貫通させて後にブランク部品 (黄色←)で蓋をしている。

新型1シリーズは開発コードが ”F40” である事からも判るように、3シリーズ以上の最新モデルのように "G” ではない。それどころかコード体系からして2シリーズ アクティブツアラー (F45) / グランツアラー (F46) のベースモデルとも言えるものだ。ただし発売時期が最も後であることから、内装や機器類は最新のモノが使用されているが、エンジンは 218i アクティブツアラー (とグランツアラー) と同じであり、ホイールベースやトレッドからしてもプラットフォームも同じだろう。

これを鉄っちゃん (鉄道マニア) 風に表現すれば40年前の東武5050系、即ち当時としても旧式な吊りかけモーター式台車に新しいボディーを載せて、一見新型の冷房車両だが走り出すとグィーンという古くさい音がする (加速も乗り心地も悪い) というのと同じじゃねぇ、何て言いたくなる。

今回の 118i では、パワー不足はエンジンがそのような仕様なのだから当然であり、それが嫌なら M135i を選べば良いだけだが、問題は FWD 化により前後イーブンの重量バランスを放棄した事による旋回特性の劣化であり、これは結構厳しい。ただし、FWD とはいえもう少し何とかなりそうだが、それにはもう少し経験を積むしかなく、少なくとも次回の MC までは待つ必要がありそうだし、できれば次期 FMC ならだいぶん改善されているだろう。

そして 118i のライバルはズバリ‥‥メルセデスベンツ A180 という事になる。これについては近いうちに特別編で比較する予定だ。