Suzuki Swift Sport (2018/1) 後編 その2


  

ところで先代 (ZC32S) スイスポとのフィーリングの差について、もしかしてギア比が大きく違うのではないか、との疑問もあり以下の表で比較してみた。

これを見れば何と新旧スイフトの 6MT のギア比は全く同じだし、更にファイナルギアまで同じだった。ついでにタイヤサイズも同じだから両車は回転数に対する速度も同じで、と言う事は最高出力まで回したとして1速の場合は新型が 44km/h に対して先代は 57km/h だから、これはもう感覚的には伸びがマルで違うのは当然だった。

と言う事で動力性能に関しては新型だけで評価すれば決して悪くは無いのだが、先代があまりにもフィーリングが良かった事からどうしても評価が下がってしまう。

ここでエンジンルームの中を見ると当然ながらエンジンの見掛けは全く異なるが、最近は樹脂製のトップカバーが掛っている事が多く、エンジンブロックなどは見えないので本当はどのくらい違うのかが判らない (写真45) 。そしてエンジンルーム内はシャーシー構造の一部も見える事からストラットタワー付近を拡大して見ると、先ず新旧共にフロントフェンダーは簡単にフレームに止まっているだけで強度材としての機能は無いように見える (写真46) 。それでもストラットタワー自体はある程度シッカリと作ってあるようだ。元々他車と比べると軽量なスイフトだが新型は更に 70s も軽量化されて1トンを切ると言う驚きの軽量設計だが、成る程フェンダーなどを見ると軽そうというかチャチいというか、まあそれでも走行中に特に剛性不足を感じるという場面は無かったが、勿論剛性感の高さも感じなかった。

写真45
新型 (ZC33S) のエンジンは K14C 4気筒 1.4L ターボで 140ps/5,500rpm 230N-m/2,500-3,500rpm と欧州製ターボに比べて最大トルクの発生回転数の幅が狭い。

先代 (ZC32S) は M16A 4気筒自然吸気 1.6L で 136ps/6,900rpm 160ps/ 4,400rpm と高回転型で、スポーティーなフィーリングでは新型よりも勝っている。


写真46
新旧共にフロントフェンダーはフレームに止まってるだけで強度材としての機能は無いように見える。
それでもストラットタワー自体はある程度シッカリと作ってあるようだ。

それでは操舵性は如何だろうか。先ず直進時のステアリングはドッシリとしていて良く言えばもっと大きな上級車的だし、悪く言えば軽快感が無いし決してクリックでは無い。これも先代スイスポの圧倒的なレスポンスと比べてしまうからだが、まあそれはそれとして、今度はコーナーリングを試してみる。と、言っても今回の走行コースではそれ程本格的なコーナーは無かったのだが、それでも途中いくつかのブラインドコーナーがあって、そこでの結果はアンダーステアは感じるがスポーツハッチとしてはまあまあ合格というところで、これまた先代のように MT を無暗にシフトしたくなるような楽しさは感じられなかった。

スイスポのタイヤは新旧共に 195/45R17 と同サイズだが、見た目では新型の派手なホイールが目に付く (写真47) 。そして乗り心地はといえばこれは決して悪く無く、言い換えればこれもホットハッチ的なガキっぽさが無く、大人向けに躾けてあるという感じがして、ガッツンと来る先代よりも乗り心地は向上しているがホットハッチらしさといえはやはりガッツンを選びたくなる。

最後にブレーキについては非常に軽くてペダルにチョイと脚を載せただけでガッと喰い付く、少し前の BMW のようだ。これだと3つのペダルを駆使する所謂ヒールアンドトウをする場合につま先にチョッと力が掛っただけで不要な減速をしてしまうなど、この手の MT ホットハッチとしてはイマイチなのだが、実はこの点に関しては先代も同様で、言い換えればスポーツ度抜群の先代でただ一つ惜しいのが、このブレーキの特性だった (あっ、ペダル配置もあった) 。まあこの主な原因はパッドの特性であり、要するに社外品のスポーツパッドに換えれば解決できる可能性は高いが、この世界は玉石混合で下手をするとインチキ物を掴まされる事もあるので注意が必要だ。

そのブレーキのユニットをホイールの隙間から眺めてみると、どちらも前後共片押しのシングルキャリパーでリアがローターの頂点位置に取り付けられているのも同じだった (写真48) 。なおリアのパーキングブレーキはどちらもキャリパーに組み込まれている通称P付きタイプで、パーキングブレーキ用のドラムを持たない為に駐車ブレーキとしての保持力がどうしても劣る事と、ブレーキパッドにパーキング時の摩擦係数が高い材質を使うために、高速走行時の特性では多少劣る事も考えられるが、まあ実用上の問題は無い。それよりも、この方式は国産では某専門メーカーが独占に近く、自社の直系メーカーから購入するホンダは特許を逃げた構造だし、さてスズキのキャリパーは何処から買っているのだろうか。


写真47
タイヤは新旧とも 195/45R17 だがホイールデザインが大きく異なっている。


写真48
新旧共に前後共片押しのシングルキャリパーで、リアキャリパーがローターの頂点位置に取り付けられている。

新型スイスポは良く言えば大人向けに進化したという事で、コテコテの走り屋系ドライバーからすれば残念な面もあるだろう。従って未だ何処かにありそうな旧型の売れ残りに期待するか、新品同様の中古でも探すという方法もあるが、普通のクルマ好きがチョッとスポーティーな下駄代わりとして街乗りにでも使うには寧ろ新型が向いているだろう。勿論その用途には AT の方が適しているのは言うまでも無い。結局これはターゲットユーザー層の違いであり、新旧スイスポの関係はポルシェ 911 で言えばターボと GT3 と同じだ。えっ? 911とスイスポと同列に扱うなんて、大体オーナー層が全くちがうだろう、って、まあ確かに常識的にはそうだが‥‥非常識っていう場合も、あっいや単なる戯言だが‥‥。