ニッサン スカイライン 250GT (2005/7/9)

 

 


MARK X


レガシィB4


BMW116i


BMW120i


BMW320i

 


最近のニッサンの上級車に共通の顔つきだ。ティアナやフーガと共通のイメージを持つフロントデザインはスカイラインとしての個性に乏しい。

現物は写真で見るよりも欧州車的なスタイルに見える。マークXのように明らかに欧州の有名ブランドに似せたリアビューに比べれば遥かに個性があるが、これまたスカイラインらしさは無い。伝統の丸目四灯のテールランプを欲しがるのはオヤジ趣味か?

以前は輸入車主体だった B_Otaku の試乗記も、最近は国産の代表車種を極力取り上げるように努力をしているつもりだけれど、中には当然取り上げるべきメジャーな車種が取り残されているのも事実だ。そんな中に、国産スポーツセダンの代表格で、人によっては「輸入車より良いくらいで、しかも価格が安い」という、国産擁護派の要であるスカイラインがある。現行型の発売は2001年6月だから既に4年が経過して、言って見れば末期モデルとも言えるので、今更試乗も如何かと考えたが、マークX、レガシィB4に乗って、スカイラインに乗らないのは納得がいかないというスカイラインファンの要望(クレーム?)もあり、今回の試乗となった。

スカイラインに一部の愛好家が特別な思い入れを持っているのは、スポーツセダンとしての、その長い歴史にあるのだろう。
スカイラインという名前のクルマが始めて世に出たのは1957年で、メーカーは戦前の航空機産業の代表的企業だった中島飛行機が解体され、その一部が富士精密工業として平和産業である自動車産業に転進した、その後のプリンス自動車だった。因みに、中島飛行機から分離した他の企業に富士重工業がある。スカイラインもレガシィも、元を正せばルーツは戦前の航空機技術が元になっている訳だ。これは海外でも同様で、あのBMWも戦前は航空機エンジンメーカーだった点では日本もドイツも事情は同じで、敗戦で航空機技術を他に生かすしかない名門企業が選んだのが自動車産業だったという事か?
この初代スカイラインをベースに1960年の全日本自動車ショー(東京モーターショーの全身)で発表されたのがスカイラインスポーツで、これは日本で始めての高級パーソナルカーだった。その後1962年から販売されたようだが、当時としては185万円とあまりにも高価だったために、僅か60台ほどで生産が打ち切られた。

プリンススカイラインスポーツ(1962)
GB4型OHV4気筒、1862ccエンジンを搭載
デザインは当時世界でも超1流のデザイナーだったミケロッティによる。このスタイルを見ると、今から40年前とはとても思えないほど近代的だ。
価格は185万円で、クーペ以外にコンバーチブルもあり、こちらは195万円。
100万円で1戸建てが買えた、当時の金で200万円近くというのは、トンでもなく高価で、結局60台で生産は打ち切られた。

2代目スカイラインは1963年発売のS50型で、これ自体は1.5ℓのセダンだったが、その翌1964年5月に第2回日本グランプリのために、S50型のノーズとホイールベースを延ばして、グロリア用の直6、2ℓのG7エンジンを強引に押し込んで100台が限定生産されたのがスカイラインGT(S54)で、その後グロリアそのままのシングルキャブと4速MTを積んだ廉価版のGT-Aが発売され、ツインチョーク・ウェーバーキャブを3連装し5MT版をGT-Bとして、カタログモデルとなった。このGT−B(S54B)はサイドのエンブレムが赤で、GT−Aの青と差別化され、その後の伝統としてGT−Rにも受け継がれた。


左がスカイラインGT-Bで1.5リッターのファミリーセダンのボンネットを延長して、グロリアスーパー6(写真右)の6気等エンジンを無理やり押し込んだ。
キャブレターにツインチョーク・ウェーバーを3連装し5速ミッションを搭載するなど、当時の市販車としては限りなくレーシングカーに近い仕様だった。

3代目は1968年9月のGC10で、テレビCFから「愛のスカイライン」とか、形状から「ハコスカ」などと呼ばれている。翌年の2月には初代GT−R、PGC10が発売され、これはミッドシップエンジンのレーシングプロトタイプであるR380の血を引く2ℓDOHC、24バルブエンジンを4ドアセダンに搭載した、正に羊の皮を被った狼だった。1970年10月には、ホイールベースを縮小した2ドアハードップが追加されて、GT−Rにも2ドア版のKPGC10が追加された。

このGC10系は、確かにフラッグシップのGT−Rこそ、レーシングエンジンを積んだセダンというマニアの垂涎となって当然の内容だったが、ベースモデルのGTはといえば、既にプリンス自動車はニッサンと合併(事実上は吸収)し、ボンネットにはセドリック用のL20型そのものが、しかもシングルキャブレターのままで搭載されていた。

実は当時の同級生で、父親が東証一部上場企業の社長というお坊ちゃんがいて、免許取得と同時に当時若者の憧れだったGTの2ドアハードトップを買ってもらった。勿論B_Otaku も試乗させてもらったが、愕くなかれエンジンのレスポンスの悪さと、外見に似合わないトロイ加速に軽快とは無縁な操舵性など、このクルマに皆が憧れるのが信じられなかった。当時のB_Otaku はブルーバード(510)SSSに乗っていたが、末期モデルの1800SSSはGC10に比べて、遥かに軽快でエンジンも良く回った。要するに、当時のスカイラインはGT−Rは別格として、実際に街中にあふれていた車は只のイメージ商品で、本当のマニアは相手にしない代物だった。これはフェアレディZとも共通するところで、当時のニッサンはある面では上手い商売をしていたことになる。

そして、4代目スカイラインは1972年9月発売のGC110で、GT−Rは翌年1973年1月に発売されたが、世の中は厳しい排気ガス規制が実施された時代で、僅か数ヶ月で販売終了となってしまった。GC110は通称「ケンメリ」と呼ばれたが、これはテレビCFでテーマソングと共に今でいうイケメンのカップルが現れ、この二人がケンとメリーという設定だった事から始まったものだ。GT−Rとは無縁なトロイ乗用車をGTという名前と、クルマとは関係ないルックスの良いカップルをイメージさせるという販売手法で、世の中のミーハーな若者の軽い財布の中身を根こそぎ持って行ってしまった訳だ。


左が初代GT−R、ただし初期は4ドアのみで、2年後に2ドアハードトップが追加された。
写真は2ドア版KPGC10。通称ハコスカ。
右はスカイラインとしては4代目、GT−Rとしては2代目のKPGC110。通称ケンメリで、GT−Rは排気ガス規制により僅か数ヶ月、生産台数197台で姿を消したので、今では幻のGT−Rとなっている。

スカイラインはフラッグシップであるGT−Rがあってこそ通常のグレードが生きるのに、GC110の途中からはGT−R無しという厳しい現実に、その後のスカイラインは以前の人気を取り戻せず、GT−Rの復活は1989年の8代目のR32までお預けとなった。このBNR32こそ未だにマニアの間で絶大な人気を誇るR32GT−Rで、程度の良い中古車は今でも恐ろしい値段が付く。だだし、このR32は軽量コンパクトなボディからくるメリット以上に、ファミリーカーとしての後席の狭さなどが指摘され、R33では肥大化による旋回性能の低下なども指摘された。確かに、生産台数からすれば極少ないGT−Rのために、量販グレードの実用性を無視することは販売上難しいのだろう。
10代目のR34でも、GT−Rは設定されていたが、結局2代目と同様に排気ガス規制により、その歴史を閉ざすことになる。

ところで、スカイラインマニアの聖典ともいえるR32GT−Rは、本当に凄いクルマなのかという疑問に対しては、あくまで個人の見解としてだが、市販のまま、ノーマルの状態では使い物にならないクルマと言いたい。あのクルマは、そのままレース用としてのベースになるスペックを持つことを誇りにして、持つ喜びに浸るクルマで、実際にド・ノーマルに乗ってみれば、低回転のトルクの細さや、4WDによる強いアンダーステアなど、かなり手を入れないとマトモな走りはしないし、第一に街乗りには何のメリットもないクルマだ。
何やら言ってはならない事をバラしてしまったが、知っている人の間では公然の秘密だから、まあ許してもらおう!
んっ?そこで頷いているアナタは、もしかしてショートサーキットの走行会でカプチーノやダンガンに追い掛け回された経験があるのでは??


マニアの定番R32 GT−R
ところがノーマルでは思ったほどには速くはない。アクまでベース車と思ったほうが良い。
最近はそろそろ代替の時期に来ているので、オーナーは次に何を買うかで悩むだろう。

最終型とも言えるR34 GT-R
程度の良いものなら、新車当時より高価で取引されている。しかし、このスタイルはオヤジには恥ずかしいものがあるし、ガキでは手が出ない程に高価で、一体誰が買ったのか?

そして、12代目が今回試乗するV35だが、型式を見て判るようにR34の次ならR35の筈が、なぜかVで始まる?要するにスカイラインと名乗ってはいるものの、スカイラインでは無い?どちらかと言えばローレルと呼ぶべきかもしれない。なにより辛いのはフラッグシップのGT-Rが無いことだ。

試乗車は250GTで車両価格262.5万円(消費税込み)にDVDナビ26.8万円とホワイトパール塗装約3万円などを含めると約292万円となる。

外観は最近のニッサンの上級車に共通するもので、ティアナやフーガと兄弟であるのは一瞭然だが、良く見ればフーガがヤタラ背が高いのに比べて、こちらは全体に低くスポーティーに見える。全体のフォルムは短いオーバーハングと長いホイールベースという最近の欧州車的だが、かと言ってメルセデスやBMWを露骨にパクッたりはしていない。もっとも、対米輸出がメインのV35は流石に国内専用車のマークXとは違い、露骨なパクリは出来ないが。しかし、これがスカイラインであると断言できる部分も何処にも見当たらず、ローレルと名乗っても全く違和感はない。せめて、伝統の丸目4灯のテールランプを採用していれば、これぞスカイラインと主張できたような気がするが・・・・・。


同じVQ25でもフーガと違い直噴のVQ25DDを搭載。フーガにくらべて低回転はトルクが細いし吹け上がりも悪いなど良い事なし。

トランクは欧州車に比べて後端部分が幅一杯に使えるので、日本のオヤジの必需品であるゴルフバックを積むのに有利か?

発売当時Dセグメントとしては広かったリアのスペースも、今となっては特にアドバンテージとも言えない。

意外に高めの着座位置はスポーティという言葉とは裏腹に低重心のミニバン的だ。それにしても、国産車丸出しの化繊モケットのシート表皮は、このクルマが単なるお買い得のオヤジ向けハイオーナーカーであることの証拠か?

運転席に座ってドアを閉めると、なにか不自然な?そう、スポーツセダンを主張するには着座位置が不自然に高いのだ。高い着座位置と言えば最近のセダン、例えばBMW5シリーズなども確かに低くは無いが、それとは違い、何というかペダル関係やステアリングの位置関係まで含めて何か変なのだが、まあ、これは慣れれば何とか成るかもしれない。さらに、スポーツセダンを名乗るにしては、ステアリングの前後調節機能が無いなど、素人が気が付かない部分は平気で手抜きをするあたり、スカイラインを育ててきた大御所が知ったら何と思うだろう。
メリットとしては、高く盛り上がったボンネット両端の稜線が車両の両端を認識するのを助けることで、車幅感覚は極めてつかみ易い。


昨年のMC時に初期型に比べれば、大分マシになったダッシュボード。
しかし、欧州プレミアムセダンの上級モデルにある独特な高級感や、廉価版の質実剛健さ等は感じられない。実質はV35の3.5ℓである。米国で人気のインフィニティG35の内装もこんな物なのだろうか?

室内の雰囲気は昨年末のマイナーチェンジで、以前の安っぽさは改善されたが、最近の欧州車の独特の雰囲気に比べれば、なんとも無個性だ。ただし、カタログを見たらタン色本皮シート(BMW等のように、シワが入った本皮)と木目調(本物ではない)パネルをあつらえた「リミテッドレザー」というバージョンが40万円高であるようだ。写真で見る限りは結構欧州車の上級モデルっぽいが、如何にも偽者丸出しの、こんなバージョンを用意する発想が情けない。


メーターも特に個性はない。欧州車から始まって国産車でも採用されている、インフォメーションディスプレイというかオンボードコンピュータという類のものは付いていない。

試乗車にはオプションのDVDナビが装着されていた。

ATのセレクターはP、R、N、DでDから左の倒してマニアルモードと、最近の流行の方式だが、今時4速でしかもトロいミッションはマニアルモードのメリットが殆ど無い。

ブレーキペダルは幅が大きい、左右の足で使える米国式で、やはりスポーツドライブするクルマでは無いということか。

走り始めると、まず第1印象としてエンジンの反応の鈍さが感じられる。決して低回転でのトルクが細すぎる訳では無いのだが、スロットルペダルに対して反応が遅い。さらに、スポーツサルーンどころかコンパクトカーだって今時は使わなくなった4速ATが、これまたトロイときているから困ったものだ。右足でスロットルペダルをコレデモか、とばかりに踏んづけても、少し回転数が上がっているとキックダウンを受け付けない。1000rpm代ならシフトダウンをするが、今度は回転が上がるにるれて、エンジンの音も、振動も酷いし、オマケに回転の上がり方も遅いという最悪の特性が暴露される。しかし、同じ2.5ℓのフーガは、爆発的なトルクはないが、必要十分なトルクと適度なレスポンスに、スムースとは言えないまでもストレス無くレッドゾーン直前まで吹け上がったのに、スカイラインは如何した事だろう。と、調べて見れば、フーガのVQ25DE(EGI)に対してスカイラインはVQ25DD(Di)、すなわち直噴だった。一時期は各メーカーが競って採用していた直噴方式も、フィーリングの悪さから今では絶滅の一途をたどっているようだ。
しかし、スカイラインは北米でインフィニティブランドで人気があるが、このトロさは問題にならないのかと思って調べたら、北米向けは3.5のみで、2.5は国内専用だった。そして、3.5はフーガと同じVQ35DEを積んでいた。何の事は無い、国内用廉価版の2.5は旧型のエンジンとATで誤魔化していたのだ。

この情けない動力性能に対して、操舵性はと言えば、これは結構良い。ステアリングは適度に軽く、中心付近の反応もまあまあで、この面ではスポーツセダンとしての面目は立っている。乗り心地も決して悪くはなく、確かに欧州車的な安定性も持っているが、BMWのような剛性の塊のような特性とは異なる。
そこで、この結構イケル操舵性を確かめるべくコーナーを攻めてみると、なんと前述したATの出来の悪さから、思ったギヤを選択できないために、コーナーに入る時点で最適な回転数にするためのギヤの選択はおろか、進入速度の調整すら出来ない。ATをマニアルモードにしても、ワイドレンジの4速ミッションの欠点をカバーするためか、余程回転が落ちていないと、シフトダウンを受け付けてくれない。したがってコーナーの頂点を過ぎて、いよいよ加速に移ろうにも、回転計の針はなんと2000rpmをさしたままで、シフトダウンをする気配を見せない。一昔前はATでスポーツ走行は不可能と言われていたが、このクルマは未だにマトモにコーナーを攻めることは出来ない一時代前の性能だ。やはりマニアはMTを選ぶべきと思って価格表を見たら、2.5はこのトロイ4速ATしか設定が無かった。

ブレーキも悪くはない。最近のニッサンのブレーキは欧州車的に食いつき感があり、結構安心して踏めるが、このスカイラインも国産車としては良い部類に入るだろう。また、車両の挙動まで含めたブレーキ性能も国産車としては安定している。


標準の205/65R16タイヤとアルミホイール

フロント、リアとも同一サイズのタイヤとホイールを装着する。この位置から見ると、フロントオーバーハングが欧州車のように短いのが判る。

曲がると止まるは、まあ合格。ところが肝心の走るがあまりにも情けない。やはりクルマと言うのは走ってナンボだから、これでは世間も納得しないだろう。その証拠に2005年の1月〜4月の国内販売台数は2765台で、マークXの3万475台は別格としても、レガシーB4の6290台にも大きく水を開けられている。レガシーB4は最も欧州車的な国産車として、欧州車から国産車への出戻りユーザーにも人気がある。スバルの販売網を考えれば、この実績はやはり内容の良さをユーザーが評価しているからだろう。ミニバン全盛の今、あえてセダンを選ぼうというユーザーは、やはり見る目が厳しいのか。スカイラインの販売実績は、この事実を端的に表している。

今回の2.5はボロボロだったが、それでは350ならどうなのだろうか?V35スカイラインが発売された時の各種雑誌の評論では、BMW3シリーズの半値で、性能は同等以上という触れ込みだった(当時は350はなく300GTだったが)。ところが、昨年末のマークXの特集本では比較したスカイライン350GTは結構厳しい評価だったし、同時に比較した2.2ℓのBMW320iに箱根ターンパイクで追い回されたとまで書かれている。確かに、この話は本当だろう。旧320iは低速からの十分なトルクと共に極めてスムースな6気筒エンジンと、素早いレスポンスと走り屋の気持ちを理解したようなシフトスケジュールによって、国産の2.5ℓなど足元にも及ばない性能を誇るから、スカイラインの3.5ℓをターンパイクで追いかけたというのは真実だろう。
それにしても、雑誌の評論と言うのは発売した時にはベタ褒めだったクルマが、末期になるとコロっと寝返ってしまう。まあ、あの人たちも商売だから、色々大変なのだろうが・・・。

関東の近郊都市へ行けば、町にはBMW3シリーズが溢れているのに、スカイラインは殆ど見ない。街じゅうの皆が見栄を張って、内容的には同等なクルマに2倍も払っている?
いやいや、そんな事を本気で思っているのは、若いときからスカイラインに憧れている、「いつかはスカイライン」のシルフィ・オヤジくらいなもんだろう。