VW GOLF GTI(2005/6/17)
この試乗記は2005年6月現在の内容です。現在この車種は新車販売が終了しています。



 


BMW120i


マツダ アクセラ


ボルボ S40


ニッサン ティーダ


他のGOLFと異なりグリルからバンパーにかけて伸びるデザインが特徴だ。これはアウディとも共通している。

リアからはGTI独特のデザインというのは見当たらない。

1950年代末、風邪で熱を出したりして通院するがのシンドイ時などは、近所の開業医が往診と言って、家まで来て診察してくれたものだった。ある時、当時小学生だったB_Otaku が運悪く日曜日に発熱で寝込んでしまったのだが、行きつけの開業医は親切にも休日の往診をしてくれた。自宅の枕元で注射をされて、意識モウロウの中で聞こえてきたのは父親の「おっ!、先生ワーゲン買ったんですか」という声に続いて、嬉しそうな先生の声とともに、家の前でクルマ談義が始まったようだ。薬が効いて眠りに入った後の状況は、母親から聞いたところによれば、その後、父親の2CV(シトロエン)と先生のビートルを比べて、ああでもない、こうでもないと延々やっていたそうだ。高熱にうなされながらも、耳に入った二人の会話から、VWというのは如何に凄いのかというのを脳みそに焼き込まれたようなものだった。

当時の日本車はといえば、主力はニッサンオースチン、日野ルノー、いすゞヒルマンなど海外メーカーのノックダウンから、そろそろ日本のオリジナルモデルへ転換しようとしていた頃だった。


左:開業医のH先生が往診に乗ってきたVWビートル。空冷リアエンジン。
  60年代はビートルと国産車の差はかなりあったようだ。
右:B_Otakuの父親が所有していたシトロエン2CV。友人から中古で安く買った
  らしいが、あまりの故障の多さと維持費に耐えかねて1年余りで売却した。
  空冷2気筒エンジンで、当時すでにFFだった。

時は過ぎて1970年代の後半、社会に出て間もないB_Otaku が、外注先の鉄工所にチョクチョク顔を出していた頃、そこの女性社長(ご主人が亡くなったので奥さんが引き継いで経営していた)の言うことには、嫁にいった長女の一家が外車を買ったので、お披露目を兼ねて家族で来訪するとの連絡があり、ソワソワして待っていたら、やがて現れたのは軽自動車の親戚のような小さくて安っぽいクルマだったとか。少なくとも200万円の外車という情報から女性社長が想像したのとは、まるで違うクルマだったそうだ。これこそ、初代ゴルフだったのだ。

この初代ゴルフのバリエーションにGTIというスポーツグレードがあったのだが、残念ながら日本には輸入されておらず、多少の数は平行輸入されたが、値段は300万円を超えていた。マニア向けの自動車専門誌では、ドイツでテストしたGTIが絶賛されて、あのウルサイ編集者があれだけ褒めるクルマとは一体ナンなんだとも感じたけれど、当時B_Otaku は若くして会社経営で成功した友人の所有するメルセデス300TD※1にいたく感動していたから、正直言ってゴルフが幾ら良いと言われても興味がなかった。

※1 メルセデス300TD:メルセデスのワゴン。当時の国産車の常識では信じられない安定性だった。
   この話の詳細はBMW525iツーリング試乗記を参照されたい。


初代のゴルフT(1974〜1983)

2代目のゴルフU(1983〜1991)

3代目のゴルフV(1991〜1997)

4代目のゴルフW(1997〜2003)

その後のゴルフは順調に成長し、今やカローラと並んで世界の大衆車市場のトップブランに成長したし、日本でも輸入車では販売量でNO.1の座を維持しているなど、VW社の大黒柱といえる。このゴルフも他車同様にモデルチェンジのたびに大きく、豪華になっていった。

さて、本題のGTIに戻って、ゴルフTで絶賛されたGTIは、Uではマイルドになってしまい、V、Wともにグレードとして設定されていたが、初代のカッ飛びスポーツの面影は全く無くなってしまった。ところが、新型のXに新たに加わったGTIは初代のコンセプトに戻った久々のマニアックなモデルとで、カタログでも”甦った伝説のホットハッチ、GTI”と言っているから、これは本気という訳だ。最も、今までのはカッコだけでしたとも白状したようなものだが・・・・。


ショールームに展示されていた白いGTIは、走り屋にとって嬉しい6MTでRHD(右ハン)。輸入車のMT、しかもRHDは数少ない選択肢だ。

こちらは1.6のゴルフEの展示車。フロントのデザインが異なるのが判る。普通のゴルフはこの形だ。

200ps、28.6kgmを発生するGTIの2.0T-
FSIエンジン。

こちらは115ps、15.8kgmを発生するゴルフEの1.6ℓエンジン。ある面、フロントの軽さからくる軽快な操舵性を期待できる・・・・かも?

リアの外観上の最大の違いは排気管
 

その新型ゴルフGTIは、グリルからバンパーにかけて伸びるデザインが他のグレードと異なり、イメージとしてはゴルフというよりアウディの系統といえる。先代のゴルフWでは、GTIも他のグレードもこれ程の外見の違いは無かったから、新型に対するVWの姿勢が理解できる。フロントシートに座ってみると、多少アップライトの着座姿勢は、良く言えばホットハッチの雰囲気ムンムンだが、悪く言えば所詮は大衆車ベースで、本格的なスポーツモデルとして生まれながらの血統書付きとは違うということが思い知らされる。座り心地はゴルフ特有というか、レカロ系の硬くて平面的な座面を持ち、好みもあるが、シートに関しては昔からBMWの標準グレードより疲れが少ない傾向があった。何処の部品メーカーも大量に生産される新車に装着する部品をカーメーカーに納めてこそ経営が成り立つ訳で、スピードショップなどのいわゆるアフターマーケットはオマケのようなものだ。だから、レカロ社がVW車用のシートを大量に生産して納めているであろうことは容易に推測できる。


上:りアは流石にFFだけあって、特に前後方向に十分な空間がある。BMW1シリーズはもとより、同じFFのボルボS40/V50よりも明らかに広い。

右:フロントシートはサイドサポートに優れたスポーツシートだが、シート表皮の柄は好みが分かれそうだ。
 

リアラッゲージルームは十分ではあるが、Dセグメントセダンに比べれば当然狭い。

VWマークがリアゲートのロック解除になっている。
BMW1シリーズと同じ方式は最近の流行か?

リアの空間は流石に経験があるゴルフらしく幾らFFとは言え、特に前後方向は非常に広い。これに比べるとBMW1シリーズは駆動方式からの不利な点もあるが、遥かに狭し。もっとも、ボルボS40/V50も1シリーズ以上に狭いが、ニッサンティーダのようにゴルフに迫るリアスペースのコンパクトカーもあるから、今やスペースの面では国産車のレベルもかなりなものだ。

ハッチバックのデメリットとしては、独立したトランクスペースが無いことだが、それはとも角ゴルフの場合は、リアシートのスペースを稼いだ代償は荷室の狭さにシワ寄せが来ている。そうは言っても、このクルマで接待ゴルフはやらないだろうから、大きな問題でもないし、その気になればリアシートを畳んでステーションワゴン(というよりライトバン!)的な使い方をすれば解決することだ。

フロントのダッシュボードは昔のゴルフに比べれば、日本人の感性を逆なでするような安っぽさは無くなった。とくにGTIはゴルフの中では高価格車だから、まあまあの内装だし、スポーツグレードということで水平なシルバーのトリムがあるあたりはBMWのスポーツグレード等を意識しているのかもしれないが、そのトリムは細く、中途半端な雰囲気はVWが所詮大衆車であることを思い知らされてしまう。


GTIの内装は決して豪華ではないが、それでも昔に比べればゴルフも安っぽさがなくなった。

こちらはゴルフEで、こうしてみると可也チャチだ。展示車にはオプションの純正ナビがついていたが、これまた安っぽいマニアルエアコンとの組み合わせはアンバランスだ。
 

他のグレードと大きく違うのは、右にあるフルスケール300km/hまでの速度計。

GTIは左右独立で温度調整できるオートエアコンが装備されている。成る程、高級車必須の仕掛けだが、温度表示の液晶の質感はまるで安物電卓のようだ。

それでは、いよいよ走り出して見よう。
第1印象は、流石にトルクがあると感心させられる。ちょっと右足に力を込めれば、フロントからはキュッというタイヤのスキール音が発生する。4気筒2リッターターボというスペックからは低回転側のトルク不足なども想像できるがGTIは停止状態からの加速でも、全くトルク不足を感じない。慣れてきたところでフルスロットルを踏んで見ると、流石はターボで4000rpm当たりからはグングンと加速し、アッというまに6500rpmのレッドゾーン直前まで達した。この時のエンジン音も決して不快ではなく、音量も程々で、街中でもヒンシュクを買ったり、運転していて恥ずかしくなるようなことは無い。
この4気筒はBMW120iなどに比べても、スムースさでは決して引けをとらないばかりか、ターボによる高回転での加速感など、当然ながらNA(ノンターボ)のBMWを凌いでいるし、ターボの使いにくさも感じられない。現在発売されている世界の4気等2リッタークラスの中でも最良のエンジンと言って良いだろう。

今回の試乗車はミッションに話題のDSGが装着されていた。これはトルコン式のATと違ってクラッチ操作とギアシフトを電子制御するもので、言ってみればアルファのセレスピードやBMWのSMG等のいわゆるシーケンシャルシフトと同じように思えるが、大きな違いはSMG等があくまでクラッチの無いマニアル車が主体なのに対して、DSGはトルコン式のATと同様にオートマとして使うのが前提だ。
このDSGがまた良く出来ている。Dをセレクトして普通に走るぶんには、ドライバーには一般的なトルコン式ATとの違いが感じられないし、メカに興味の無い人ならこれが新機構であることすら気が付かないだろう。それ程自然で違和感がない。
唯一の違いは、走行中にキックダウンをしない程度にスロットルを踏むと、ATならトルコンのスリップにより回転計の針は700〜800rpm上昇するのが普通だか、DSGの場合は、回転が少し上がるのと多少の加速感があるだけで、このダイレクト感は丸っきりMT車と同じだ。セレクターを更に手前に引いてSモードにすると、ほぼ1段低いギヤを選択するうようになり、回転計の針は常に4000rpm程度を指す。普通のドライバーならこのSモードに全てを任せて、あとは操舵とブレーキングに集中することで、プロのレーシングドライバー顔負けのシフト操作を勝手にやってくれる。
これだけ、Sモードの出来が良いとマニアルモードの出番が少ないだろうが、折角のオートクラッチ機構だから、本来のシーケンシャルセミオートとして使って、F1ドライバーにでもなったように操作したいという気持ちになるのがマニア心だ。Dレンジからレバーを左に倒すとマニアルモードになり、押してプラス、引いてマイナスになるのは他社のトルコン式のティプトロニック等と同じだ。実際にやって見ると、レスポンスは十分でショックも無いが、この出来の良さが何やらトルコン的で、アルファロメオのセレスピードのようなショックを伴うようなラフさも方が如何にもセミオート的に感じる。
マニアルモードでのもう一つの不満は、折角のセミオートなのだから、ステアリングホイールから手を離さないで操作出来る、それこそF1ばりのパドルスイッチが欲しいところだ。これは、誰しも思うことで、来年のモデル(モデルイヤー06)ではオプション設定されるそうで、既に予約を入れているユーザーもいるとか。


6MT装着車のシフトレバーとペダル配置。国産車も含めてRHDのMTはペダル配置が不自然な心配があるが、GTIは特に左に寄っていたりすることは無い。
 
セレクターはP,R,N,DとDから左に倒してマニアルモードは他社と変らない。違うのはDから更に手前がSになること。Sに入れるにはノブに付いている解除ボタンを押しながら操作する必要があり、結構使いにくい。
 

エンジンもミッションも実に良く出来たGTIの操舵性はと言えば、これまた恐れ入るほどの出来栄えだ。適度にクイックなステアリングは、これが本当にFFなのかと疑いたくなるほどに素直で、センタリングもFF独特の強いキャスターアクションでやたら直進したがるような傾向は微塵も見せない。
今回のデーラーは通勤路の途中にあるので、勝手知ったる農道で50〜70km/hで回れるコーナーが続く場面を試して見ると、想像どうりに安定した姿勢で、しかも同クラスの他車よりも10km/h以上速く、それも余裕のコーナーリングが体験できる。
これ程の旋回性能を持つにも拘わらず、乗り心地も実に良い。今回の試乗車は走行200km程度の新車だったが、これが十分に慣らしの終った状態だったら、さらに乗り心地が良かっただろうと想像すると、この足回りの優秀さが理解できる。

ブレーキは欧州車らしく食いつき感のある、ミューの高そうなブレーキフィーリングだが、ミッションや操舵性能が他車を大きく超えている点からブレーキもトテツモもない性能を期待したが、それは無かった。外から見ると、派手なGTI専用ホイールから見える赤いブレーキキャリパーから、もしやオポーズドか?と期待したが、何の事はない、一般的なピンスライドタイプを赤く塗っただけだった。


標準装備の225/45R17タイヤ。このサイズはBMW330iと同サイズだ。ホイールのデザインはVWには珍しく、まるでイタリア車のようだ。

こちらは1.6のEに標準の195/65R15タイヤとスチールホイール+キャップの組み合わせ。廉価版らしく、ドアハンドルやモール類も素材色で塗装がない。

赤く塗装されたキャリパーをよく見れば、何の事はない普通のピンスライドタイプだ。
 

正にターボの見本のような強力で勢い良く吹け上がるエンジンと、外観からは想像が付かない安定したコーナーリング。これで336万円(DSG、消費税込み)は決して高くはない。実にお勧めのクルマだ。

と、ここまでは良いとして、それだけで済まないのがクルマという物の奥が深いところだ。
ベースがゴルフで、何しろ会社名が大衆車(フォルクスワーゲン)というくらいだから、その外観から、ノーマルは勿論、シャコタン・フルスモークにしたとしても、誰も怖がらないし、道も譲ってくれない。なにやらクルマ全体から発ちこめる高性能車独特のオーラが、全くといっていいほど感じられない。
それに、誰が乗っても速く安全に走れるということは、裏を返せば面白くない、ハラハラしない。VWはGTIをヤンチャ坊主と表現しているが、ヤンチャ坊主では物足りない層も居るわけで、そうゆう連中には、アルファロメオ、それも147GTAなんていう完全なワル!の方が勧められる。GTIならば、真面目な勉強家の成れの果て、同期の出世頭のエリートだって、ソコソコ速く走れるだろう。でも、アルファGTAは、そうはいかない。勉強サボって峠を攻めていたテクニックが役に立つ。

ところで、B_Otaku はと言えば、当然アルファ派だ。GTIを、いやVWを好む奴って、何かいけ好かない、なんて言ったら、また反感買いそうだけど・・・・。