ニッサン FUGA 350XV (2005/2/26)


250と大きな違いが無い外観。XVの場合はホイールも同じ。

こちらは250GT。XVとはバンパーのエアインテークとラジエターグリルが多少異なるが、イメージとして大きな違いはない。

昨年10月に250GTに試乗した際、中々の好印象だったが果して売れ行きが内容に結びつくかが心配だった。しかし、その後好調な売れ行きで街中でも結構見かけるようになった。この試乗記サイトでも、フーガはアクセス数で堂々の1位となっている。

そこで、今回は上級グレードである350に試乗した。 試乗車は最上級グレードの350XV VIPで価格は493.5万円(消費税含む)。だだし、このグレードは後席にパワーリクライニングや各種コントローラをアームレストに内蔵したりと、オーナードライバーには不要な装備があるため、実質的にはベースグレードの350XV(420万円)でも変らない。この350XVは前回試乗した250GT(367.5万円)に比べて約50万円高い。GTがスポーツに振ったグレードでクラウンで言えばアスリート相当なのに対して、今回のXVはコンフォート志向でクラウンロイヤルがライバルというところだ。ただしクラウンの両グレード程の違いは無く、XVとGTの外観はフロント回りが多少異なる程度だし、また250と350も概観上で大きく違うことも無い。さらに、ホイールもGTスポーツパッケージの19インチ以外は全て同一となる。この点はGTとXVでホイールのデザインくらいは変えても良いのではないかと思うが。


確実に識別するにはエンブレムを見るしかない

ドアを開けると250GTに比べて、より高級感のある室内が目に入る。250と350の内装には大きな差はなく、むしろGTとXVでシート材質等が異なるようなので、GTの標準内装がチャチだということだろう。今回の350XV VIPは標準の布製シートが装着されていたが、以前見たレザーシートの方が高級感があったので、3.5ℓらしい質感を求めるなら36.75万円の本皮パックがお勧めだ。またGTのブラックの内装よりも、XVのアイボリー(ニッサンではシルキーエクリュと呼ぶ)の内装のほうが、フーガには似合っているような気がする。


色が違うだけでもGT系より豪華に見える内装。シートがオプションの本皮だと、より豪華に見える。高級車らしい内装を求めるなら迷うことなく本皮仕様を選んだほうが良い。

試乗車は350XV VIPというグレードのため、リアパワーシートやアームレストに各種のコントローラを備える。オーナードライバーには無用の長物だ。

前回の試乗車の黒い内装よりも、このアイボリーのほうがフーガのキャラクターに合っているようだ。

シートの座り心地やダッシュボードの眺めなどは、250GTと基本的には変らない。
足踏み式のパーキングは、踏み込む度にオン・オフとなるタイプだ。どちらかというと、リリースレバーで解除する方式のほうが安心感があるのだが。

ブレーキを踏みながらセレクターをDに入れ走り出すと、流石に3.5ℓのトルクは2.5ℓとは異なり、少し踏んだだけで、この大柄なクルマをグイグイと加速する。やはりパワー(トルク)は有るに越したことはないし、大パワー車というのは一種の中毒のようなもので、普通の走行では2.5でも十分と判っていても、やはり余裕のあるエンジンは気持ちが良い。数分間は適当に流れに乗って走ったので、今度は空いた道に入りスロットルを踏み込んで見ると、5速ATはキックダウンが多少遅いのは250と同様だ。もう少し機敏でも良いと思うのだが。世間では評判の悪いVQ3リッターエンジンだが、それでも回転計の針は大きなストレス無しに6200rpm程度まで上がってからシフトアップした。確かに4000rpmあたりを越えた頃から結構な音量と、しかも質感も良くないエンジン音が室内に轟くが、これは我慢の限度内だ。また、低速でのグイグイとくるトルク感に比べて、高回転側ではイマイチだから、回転が上がるにつれて回転計の針の動きがドンドン速くなり、チョッと油断するとトンでもない速度に達してしまう、BMW530などとは明らかに異なる。ただ、不思議な事に、250GTの時感じた高回転でのイマイチ感は、今回それ程感じなかったのは、やはりプラス1ℓの余裕により、高回転でトルクが落ちると言っても絶対的には結構なトルクがあるので、意外と良く感じたのだろう。大トルク車は七難隠す!と言うことか。


足踏み式のパーキングは、踏む度にオン・オフを繰り返すタイプ。

シフトレバーを右に倒すとマニアルモードになり、押してアップ、引いてダウンとなる。

250系と比べて、ハッキリと違いがあるのは、ステアリングの軽さだ。250はどちらかと言うとBMW旧5シリーズ(E39)的な適度な重さがスポーティな運転には適していたが、この350はジャガーSタイプやクラウンマジェスタなどの軽さに近い。それ以外は250と同様に国産車としては中々良い出来栄えで、ジャガーSタイプ辺りとも良い勝負だろう。少なくともボルボV70辺りと比べたら、格段に良い。

途中、いつものコーナーがある旧道で試してみると、350XVは、新型5シリーズ(E60)辺りと同等の速度で、なんの不安も無くクリアしてしまった。ところが、人間の感性というのは複雑で、5シリーズが限界の高さの中にも、今どんな状態で旋回しているのかが、ステアリングや、足回り、果ては車全体からドライバーに伝ってきて、ドライバーはクルマの実力に対して、今どの程度のマージンを取っているのかが感じ取れるのに対して、350XVはクルマの状態が判らず、クルマに乗せられている感じがする。BMWに比べて走る楽しさが希薄だと言われるメルセデスだって、路面や車両自体からのインフォメーションは十分に伝わる。このへんは、日欧の感覚の違いなのか、それとも技術的に未だ敵わない部分なのか?

乗り心地は250GTと大きく変らず、欧州車的な少し硬めだが不快ではなく、フラットで安定した走行は国産車としては最良の部類だ。ただし、今回はフーガは2度目なので、よ〜く神経を集中してみると、同じ安定感でも5シリーズやEクラスの、地面にヘバリ付くような安定性とはチョッと違いが有るのに気付く。まあ、この辺は個人の感性の問題なので、人それぞれだろうが。

ブレーキも250GTと基本的には同一で欧州車的で好印象だ。最近のニッサンは欧州タイプのミューの高いパッドを好んで使う傾向があるが、この点ではトヨタはポリシーが異なるようだ。


タイヤは225/55R17

写真は250で全く同じ。
GTのスポーツパッケージが19インチとなる以外はどのグレードも全く同じホイールを穿く。

前回250GTの試乗でかなり良い結果となったフーガだから、今回の350XVも想像できたが、期待を裏切らない出来の良い車だった。10年前なら、メルセデスやBMWとセドリックを比較するなんて、全く無意味だったけれど、今やっと、そういうことが出来るまで、日本車も進歩した。それでは、完全に追いついたかと言えば、残念ながらノー!まだまだ、本物の持つ独特の良さには至らないし、元々金の掛けかたが違うのだからどうしようもない。
その代わり、日本車の買い得感は絶大だ。スペックで見れば似たような、フーガの350XVは420万円。対して、BMW530iはベースグレードでも708万円、売れ筋のハイラインは740万円。メルセデスE350アバンギャルドは777万円。その差は300万円以上だ。日本国内のこれら欧州車はボッタクリだという奴らもいるが、欧州価格をユーロ換算してみれば、それ程変らない。要するに、元々高いのだ。
よく、C180/C200や318i/320iなんていうのは、欧州じゃファミリーカーで、日本で言えばプレミオ程度のクルマだから400万円も出して買う奴は騙されているのだ、という輩が居るが、バカを言っちゃイケナイ。これらのクルマのボンネットを開けて見れば判るが、日本であんな設計したら、工場から原価低減案の嵐となる。実際に見てみれば、エンジン自体や補記類の材質や工作精度は眺めるだけでも楽しい位に出来が良く、しかも、全ての部品にリサイクル用の識別刻印が綺麗に入っている。全てがこの調子だから、走りも当然次元が違う。日本車でそんなことやって、値段が5割増しです、なんて言ったら誰も買ってくれないから、技術以前の問題でああいう設計はできない。

さて、本題に戻って、フーガは350もお勧めできる。250とどちらが良いかは、本人次第だろう。高級車イコール大パワーと言う人には、50万円の差は十分に元の取れる投資だろう。しかし、250も三百数十万円という価格を考えれば、実にお買い得のお勧めクルマだ。では、あと200万出す余裕があれば、525iでもE240でも好きなほうを買えば良いし、好みによってはジャガーSの2.5もある。さらに100万円出せるのなら、それらの3ℓ級の上級モデルを買えば良い。勿論、予算はあっても、そんなに出したくなければ、フーガを買っても、途中で嫌になったり、惨めになったりはしないだろうから、それもまた正解だ。

要するに、クルマなんていう物は、自分が良いと思うものを買えば良い訳で、他人様が口を出す筋合いの物ではないのだ。
・・・・・と、良いつつも、ついつい一言、言いたくなるのもクルマならではか?