BMW M2 Coupe (2017/1) 前編 その1

  

既に本サイトでは何度も述べてきたが、BMW M2 クーペは 1 & 2 シリーズ初の本物のMモデルであり、サイズ的には初代 M3 である E30 に近いもので、モデルチェンジの度に肥大化して今では軽量小型スポーツなんてとても言えないくらいに重く大きくなってしまった M3 に代わって、本来の M の持ち味を持っていそうだと期待できるクルマだ。ということで、これは試乗するっきゃ無いだろう。

その前に先ずは M2 クーペのベースとなっている 1 & 2 シリーズの変遷を簡単に纏める事にする。

初代1シリーズは 2004年に発売された E87 (写真1) で、BMW 初のCセグメントでしかもハッチバックという出で立ちだが、そこは BMW らしく RWD 方式を採用していた。従って同じCセグッチのベンチマークであるフォルクスワーゲン ゴルフとはカテゴリーが違うクルマであり、ユーザーとしては価格が高くても当たり前、と思ってくれるかどうかは判らないが、何れにしてもプレミアムブランドらしいクルマである事は間違い無い。

E87 のエンジンラインナップは何れも4気筒の 1.6L (116i)、2.0L (118i、120i) そして直6 3.0L の130i というもので、中でもこの小さなCセグハッチに 3.0L を押し込んだ 130i は注目の的であり、これがその後発展して M135i、さらにはクーペボディの2シリーズにも横展されてM235i 、M240i と進み、最後には今回の M2 へ至った事になる。おっと、ここで今回このサイトではたぶん初めて使う "横展" という表現だが、これは業界用語で横展開、すなわちベースモデルを元に各種のバリエーションを増やしていく事で、それを略して 横展 (よこてん) と言っている。これを何げなく使うとプロっぽいのでお勧めだ。

この 130i には標準で M Sport パッケージが装着されていたが、同時期に他のモデルにもオプション設定されたから、これを装着すれば 116i だって動力性能はともかく見た目は十分にスポーティーなBMWとなる (写真2) 。更に E87 発売から4年後のマイナーチェンジのタイミングではクーペ (E82 写真3) とカブリオレ (E88 写真4) も加わったが、はっきり言ってCセグハッチベースのクーペでは何となく寸足らずでクーペらしき優雅さは感じられず、決してカッコ良いとはいえない代物だった。まあカブリオレについても同様の事は言えるが、こちらはオープンということで短い全長が目立たないし、キャンバストップを上げてもクーペよりは寸詰まり感が無くて、いくらかはマシだった。

これら初代1シリーズの高性能版やクーペ、そしてカブリオレについては以下の試乗記も参照願いたい。
BMW 120i Cabriolet 試乗記 (2009/10)
BMW 130i 試乗記 (2005/12)
BMW 135i Coupe 試乗記 (2008/4)

しかしこうしてみると結構ここ一番の車種には試乗していたんだ、と自分を褒めておこう。


写真1
初代1シリーズ (E87 2004-)。


写真2
E87には 116i でも内外装がスポーティーな M Sport パッケージが用意されていた。


写真3
後期モデルのタイミングで追加されたクーペだが、短い全長から決して優雅とはいえない (E82 2008-)。


写真4
クーペよりも一足先に発売されたカブリオレ (E88 2007-)。

次の2代目1シリーズ (F20 写真5) は 2011年に発売され、そのスタイルはキープコンセプトだが見るからに安っぽかった先代に比べれば多少立派になった事と、フロントでは独特のウェッジ型ヘッドライトが特徴的だった。そして 2012年にはMモデルと標準モデルの中間となる M パフォーマンスの初のモデルとなる M135i が発売される。このMパフォーマンスモデルは今では 2シリーズを始め多くのシリーズでもラインナップされるようなったのはご存知と思う。なお M135i については
BMW M135i 試乗記 (2013/9)
にて。

この F20 をベースとしたクーペ (F22 写真7) および カブリオレ (F23 写真8) は2シリーズと呼ばれる事になりクーペは 2013年 (日本では2014年) 、カブリオレは2014年 (日本では2015年) より発売されたが、このフロントフェイスは 1シリーズとは異なっていた。しかし 2015年に実施された1シリーズのフェイスリフトでは2シリーズと同じフロントフェイスとなり、前期型のウェッジタイプのヘッドライト等は廃止となった (写真6) 。結局1シリーズの後期型の顔つきは、より3シリーズに近いイメージとなり、1シリーズゆえの安っぽさが大いに解消された。

しかーし、1シリーズベースのクーペおよびカブリオレの筈だった2シリーズに、何故かアクティブツアラーとグランツアラーという多目的車で、しかも RWD の F20 ベースでは無く FWD の、言ってみればミニの兄貴分とでも言いたくなるようだモデルも2シリーズを名乗ってしまったので、折角の綺麗な商品体系が崩れてしまった。
BMW 218i Active Tourer試乗記 (2014/12)
BMW 218i Gran Tourer 試乗記 (2015/6)

これって以前にトヨタがカムリベースの FWD ワゴンをマークUのワゴンとして販売していたのを思い出した。そしてこれを買う多くの無知なユーザーは、これがマークUベースのワゴンだと信じていたのだった。この話には更に続きがあって、その後トヨタは底床ミニバンとでも言うべきオデッセイのライバルのようなクルマにマークX ジオと名付けたのだった。ジオは勿論 FWDでしかもエンジンは4気筒だった。どんなクルマかは
TOYOTA Mark X Zio 簡易試乗記 (2007/9)
にて 。


写真5
2代目1シリーズ(F20 2011-)。


写真6
2代目後期型ではフェイスリフトが実施され2シリーズと同じ顔付となった (2015-)。


写真7
1シリーズベースのカブリオレ (2014-) は2シリーズとなった。


写真8
クーペ同様に1シリーズベースのカブリオレ (2015-) も2シリーズとなった。

そして今回の主役である M2 クーペ (以下M2と表記) は日本では 2016年1月より DCT のみが販売され、その年の10月の一部変更では MT も追加設定された。こうなると同じ2シリーズクーペのMパフォーマンスモデルが気になるが、これは2016年9月にそれまでの M235i からエンジンが変更となって M240i となった。ただし、今現在 (2016年2月) 日本中のBMWディーラーを検索しても M240i は試乗車は勿論のこと展示車も全く見つからない状態で、要するに実際には未だデリバリーされていない状態と推定される。なおディーラー試乗車については何れも M235i を使用している事からも、M240i は事実上未発売なのだろう。それとも極少数の最初の入荷分はどうしても優先すべきお得意さんに納車された、何て事も考えられるが。

そこで先ずは M240i と M235i を比較すると両車の排気量はリッター表記ではどちらも 3.0L ではあるが、厳密にはそれぞれ 2,997p3 と 2,979 p3 であり、エンジン型式も B58B‥ と N55B‥ と異なっているからこれは全く違うエンジンと判断できる。それでは M2 のエンジンはと言えば勿論Mモデルだから "S" で始まる‥‥というのは自然吸気の時代で、M2 はターボモデルだから N55B30A であるが、これはMパフォーマンスモデルの M235i の N55B30B とは違、あれっ? 最後の識別桁がA (M2) とB (M235i) 以外は同じって事は殆ど同じエンジンで、多分過給を上げるのが主でそれ以外に違いがあっても極僅かだろう。

それでも新型Mパフォーマンスの M240i と M2 では流石に M2 の方が 30ps しか、もとい30ps もパワーアップされているし、トルクに於いては M240i の500N-m に対して M2 では 465N-m と、んっ? M240i に負けている?? まあ、そういうわけだが、クルマというのは走ってナンボだから結論は後編まで持ち越そう (汗

というようにイントロはこれくらいにして次は実際に M235i との比較に進む事にする。この先はその2にて。

⇒その2へ