BMW 523d (2017/3) 前編 その2

  

室内を見るためにドアを開けようとグリップハンドルを握った瞬間に、何やら先代よりガッチリとしているような気がするが、兎に角それを引いてドアを開けると、う~ん、やっぱりドア自体もガッチリとして、気のせいかドアが分厚いようにも感じて、これはマルで一昔前の7シリーズのようだった、とあくまで感じただけだが‥‥。さてそれでシートを中心として外から見たインテリアを比べると‥‥実は大きな違いは無い (写真11) 。前述のように今回のクルマは展示車と試乗車の2台共 M Sport なのだが、展示車のシートは標準のアルカンターラ/ファブリックコンビで、試乗車はオプションのダコタレザーだった。

それで写真の新旧比較ではどちらも標準シートで比べると、室内全体を見た時には大きな違いが無いと感じたが、シート部分を拡大してみると先代 F10 は表皮自体は似ているが、それ以上に座面両サイドの張り出しが大きく、よりスポーツ度が高いというかサポート重視であり、新型は逆にコンフォート志向のモノが標準となっている (写真12) 。要するに M Sport といっても年々大人しくなって来ている訳で、コテコテのカーマニアからするとチョイと寂しいものもあるが、今や BMW なんて郊外の住宅地では街中に溢れている今日此の頃だから M Sport だって単に少しスポーティーな上級グレード、という程度だ。とはいえ住宅地に溢れているのは多くが3シリーズであり、流石に5シリーズとなるグッと少なくはなる。確かに今回の試乗車である 523d はベースグレードでも約700万円もするし、5シリーズでは最も安い 523i でも 617万円だから、クルマの価格は年収の3分の1が適正と言われている事を考慮すると必要な年収は約 1,800万円となり、給与所得者では医師や一流商社マン、外資系エリートなど、何れにしてもエリートで無いと買えない事になる。あれっ、いや待てよ。あの勝手に電波を出して貧困家庭からも強引に受信料を脅し取る皆様の公共放送なら、下っ端のチンカス職員でも 1,500万円くらいいくんかな?

話を戻して、次にオプションのレザーシートを比較してみると、表皮自体に大きな違いは無いが形状は標準シートと同様に F10 の方が両サイドの張り出しが大きい (写真13) 。シートの調整は流石にこのクラスならばパワーシートだが、シート側面の調整スイッチと同じパネルにある3シリーズなどでお馴染みのポジションメモリ−スイッチが見当たらないのは残念ながら5シリーズは標準ではポジションメモリーが付かない‥‥なんて事がある筈も無く、これはドア側に付いている。なおドアシルプレートというかドア枠の下端にあるプレートは M Sport ではお馴染みの ”M" ロゴが付いているが、新旧を良く見るとプレート自体のデザインは多少変わってはいるが、だからどうした? というレベルだ (写真14) 。

写真11
写真はどちらも標準シート装着車で、これも一見するとよく似ている。


写真12
M Sport に標準のアルカンターラ/ファブリックの標準シート。シート表皮は似ているが左右の張り出しが新型は穏やかになっている。


写真13
オプションのレザー表皮でもサポート形状は新型の方が穏やかだ。


写真14
シートの調整は当然ながら電動式でそのスイッチの場所も変わりはない。サイドスカットルにはお馴染の "M" ロゴをつけたプレートが目に入る。

次にドアのインナートリムを比較すると詳細なデザインでは当然ながら先代とは異なるが、基本的な雰囲気に変わりはない (写真15) 。拡大してみると先代よりも更に高級感が増しているようにも見えるのはステッチがより凝っている事も原因だろうか (写真16) 。なお、M Sport の標準シートがアルカンターラコンビの為にドアトリムもアルカンターラかと思ったが、レザーシートと同じくレザー仕上げだった。実は個人的には F10 M Sport に標準だったアルカンターラとファブリックというシート表皮と同じドアトリムが実に良いと思っていた (写真17) 。

なお前項で触れた5シリーズに於けるシートポジションメモリのスイッチについては、新旧共にドアトリムに配置されているが、その場所については新型では変更されている (写真18) 。なおこのスイッチはこのようにドアトリムにある方が直接目視出来る点で3シリーズのようなシート下部のベース側面に比べて操作性は格段に良いが、当然ながらコストもアップするだろう。


写真15
ドアのインナートリムは詳細なデザインでは異なるが、基本的な雰囲気に変わりはない。


写真16
拡大してみると先代よりもステッチがより凝っていて高級感が増しているようにも見える。

写真17
先代 F10 M Sport に標準だったアルカンターラを使用したドアトリムは実に良い雰囲気だった。


写真18
シートポジションメモリーのスイッチは5シリーズではドアトリム側に配置されているが、位置は新旧で多少異なる。

フロントダッシュボードの全景も一見キープコンセプトとなっているが、センタークラスタートップのディスプレイは最近のトレンドである液晶パネルのみが飛び出したような構成となっている (写真19) 。確かにこの方法はドライバーの視線移動が少ないのは間違いなく安全上好ましいが、このタイプを初めて見た時にはまるで10年程前に流行ったカーショップで安売りしていた後付のナビを彷彿させてイマイチ好きになれなかったが、 慣れてきた事とその後デザインが上手くなって違和感が減った事などで、この5シリーズでは十分に我慢できるレベルになっている。

そしてセンタークラスターも先代と変わらず、各種機器類を極力上方に集中しこれまた視線移動を最小限にするというコンセプトで、実はこの面では5シリーズは他車 (社) よりも先行していた。そのセンタークラスターに配置されたオーディオとエアコンの操作パネルも先代と同じ位置にあるが、ユニット自体は変更されている (写真20) 。BMW ではお馴染みのコマンドダイヤルとディスプレイで各種操作が出来る方式は今でこそ他社でも多くのクルマに採用されているが、5シリーズは E60 時代に他社に先駆けて採用した iDrive と一体になったシステムが今に続いている訳で、そういう面でも E60 は同時代の7シリーズ (E65) と共に BMW が高級車の世界でメルセデスベンツに追いつくべく本気になったもので、事実その後5シリーズもEクラスと市場を二分する迄に至った訳だ。その面では当時は5シリーズに次いで独特のモノを持っていたアウディ A6はその後鳴かず飛ばずの閑古鳥状態で、国内でのブランド展開を機に一気にメジャーになろうとしたレクサス、そのEセグメントセダンとして5シリーズやEクラスのライバルとなるべく頑張っていたレクサス GS は結局これら2巨頭に刃が立たず、国内では5やEからの乗り換え需要については完全に諦め状態のようだ。とはいえ国産車のファン、というか普通のユーザーからすれば GS は大いなる憧れでもあるらしく、レクサス各車の中でも人気モデルだという。

写真19
フロントダッシュボードの全景も一見キープコンセプトだが、ディスプレイがトップボードから飛び出したような方式となった。

写真20
センタークラスターも極力上方に集中し視線移動を最小限にするというコンセプトに変わりはない。なおユニットは変更されている。

今度はダッシュボード右端を比べると、ここは例によってドイツ車で統一されているダイヤル式ライトスイッチがあるが、これまた詳細なデザインは変更されている (写真21) 。国産車オーナーがドイツ車に乗った時に違和感のあるひとつがこのライトスイッチであり、国産車ではステアリングコラムの右側のウィンカーレバーと一体になっているから、思わずその辺を探してしまうだろう。更にウィンカーレバーも国産車の右側に対して左側にレバーがあるから尚更混乱してしまう。このウィンカーレバーについては以前から論争の元となっていて、要するに国産車派からすれば欧州車の代名詞というか一種の差別化に感じてしまうのだろう。その意味ではフォグライトなんかも同様で、実際今では眩しいフォグライトなんて無いのだが、これまた欧州車の代名詞的なものとして腹が立つアイテムのようだ。ただし、ディスチャージランプが普及した今ではフォグランプ、というかドライビングランプを常用するメリットは全く無くなってしまった。

フロントのセンターコンソール後端にリア用のエアアウトレットを配置するのは今や国産車も含めて当然となっているし、5シリーズも当然ながらそのような構造になっているが、G30 ではここに小さいながらもダイヤル式のリア用エアコン調整ユニットが付いている (写真22) 。5シリーズは確かに高級だがそれはパーソナルカーとしてであり、ショーファードリブンを想定している7シリーズとは違って特等席はあくまで前席であり、リアパッセンジャーに対する待遇もフロントより劣るのが普通だったが、今回の処置は少しはリアにも光を当てた、ということか。

写真21
ドイツ車で統一されているダイヤル式ライトスイッチだが多少のデザイン変更はある。


写真22
センターコンソール後端のエアアウトレットは G30 では下端にリア用のエアコン調整ダイヤルが仕込まれている。


ここまでのところは見た目では正にキープコンセプトで「5シリーズはこうあるべき」というBMW のメッセージが感じ取れる。しかしE39 から E60 に劇的に変化した時期もあったわけで、そのE60 の鷹の目などアグレッシブな顔は先代では大分弱まり、今回は3/4シリーズに近い最近のBMWに共通する顔つきに変化しているから外見的には3シリーズの兄貴分に見えるが、まあ元々その通りのポジションなのだだから決して間違いではない。

それで、本命の走行性能については後編にて。

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