BMW M135i 試乗記 特別編 [BMW M135i vs Porsche Cayman 中編] 特別編へようこそ。何時ものように、このコーナーは、この先の記事を冷静に読める知識と教養を身につけている読者のみ閲覧ください。従って、この先に何が書かれていようが、笑って受け流す事が出来ない方はTOPページに戻るかブラウザを閉じてください。 M135iのドライバーズシートに座ると、そのフィーリングは116iを始めとする1シリーズハッチバックと変わらない。それもその筈で、インテリアは基本的に1シリーズのM Sportと同じだから、このフィーリングだけを味わいたいのならば550万円も出してM135iを買わなくても328万円の116i M Sport で十分という事になるのがM135iの辛さだ。 それではケイマンはといえば、シート座面は床から幾らも無いくらいに低く、しかも床面自体も一般の乗用車と比べればかなり低いから、結果的に着座位置の低さは相当なもので、シートに座ってドアを閉めようとすると路面が妙に近いのを感じる。今更言うまでもなくケイマンはBピラーより前は殆どが911と共通だし、プラットフォームもリアのエンジン搭載位置などが違うが前半は全く同じだから、M135iがより安い116iと共通なのとは全く反対に、Caimanはより高価な911と共通となっている。 最近はどうだか判らないが少なくとも10年位前まではイカれたアンちゃんのクルマ、いわゆるヤン車は車高を極端に下げるいわゆるシャコタンとともに、シートは目一杯後退させてバックレストも寝かせて、はるか遠くのステアリングホイールは手を目一杯伸ばして操作するというスタイルで、これでマトモな運転なんて出来るのだろうか、という余計な心配をしたくなるくらいだった。しかし考えてみれば、F1やルマンなどに出場しているレース専用車の運転姿勢は、確かにバックレストは寝ているし、腕も伸ばしている。
そしてバックレストを寝かして足を前に真っ直ぐ伸ばした場合はといえば、乗用車ではペダルが前の方にあるために逆に足が伸びきらなくなってしまう。そのためにはペダルが遠くにあれば良いわけで、下の写真を見ればM135iはドアの前端とペダル踏面がほぼ同一であるのに比べて、Caymanはドア位置よりも奥にペダルがある。このためにCaymanはバックレストを寝かせて腕を伸ばして、足は真っ直ぐ伸ばすというレーシングカーに近い運転姿勢がとれる、というかそれが本来のスタイルとなる。 そのようなことから、M135iに乗り込むのは1シリーズと同じで普通の重要車に乗るという感じだが、Caymanの場合は右足を軸にして左足をインパネ下の奥深くに入れて、中腰で低いシートに尻をのせながら右足を車内に引き込んでからペダルの位置まで足を入れるという動作となり、慣れないとすごく乘り辛いが、これがまた尋常ではないクルマに乗るんだというワクワク感を演出している。 ![]() さて、其々のシートに収まってエンジンを掛けるのだが、その方法もM135iが1シリーズそのまま、というよりもBMWサルーンに共通の位置と形の押しボタンを押すことになる。勿論、インテリジェントキーを車内に置いておくのは言うまでもない。そしてCaymanはといえば、電子キーにも関わらずインパネ右端のキースロットに挿入して右に捻るという、機械式キー時代の儀式を踏襲しているのはポルシェの拘りというものだろ。なお、RHD(右ハンドル)車は右手で操作する位置にあるが、LHD(左ハンドル)車ではインパネ左端にあるキーを左手で操作することになる。この理由はといえば伝統のルマン24hレースでは、その昔ドライバーがクルマの反対側に整列して、スタート合図とともにクルマに駆け寄り、飛び乗ってエンジンを掛けてスタートするとう通称ルマン式スタートというのがあって、その為にポルシェのイグニッションキーはシフトレバーと逆の手で操作して、ギアを1速に入れるのとエンジンをスタートさせるのを同時に行うという必然なら生まれたものだ。しっかし、大昔に廃止されたルマン式スタートの為の配置を今だに固執しているのも、ポルシェならではというところだ。こういう歴史を知らないで、カッコつけてLHDを買ったら、なんと左手でイグニッションをONにするということに気が付いて、不満たらたら、何て事になる訳だ。 まあ、それでもオーナーになったユーザーなら多少の不満を言うのも判る気がするが、オーナーでもなく買う気もない連中が訳も知らずに批判しているのは恥ずかしいものだが、本人はそんな理由があったことは露知らず‥‥‥。 ![]() エンジンが始動してアイドリング中の挙動はM135iのの場合、BMWサルーンと変わらないのはエンジンが同じだから当然だが、サルーンとしてみればBMWのエンジンは音もスポーティーだし、アイドリングも無振動というわけでもない。ただし、これは車種や時期で大きく変わり、例えば2代前のE46の場合、M3を別とすれば最も強力なエンジンを搭載していた330iの場合、アイドリングはブルブルと震えながら排気管からはデロデロ‥‥という、これこそイカれたアンちゃんが改造したクルマみたいな音がした。しかし、E90でははるかに大人しくなってしまったし、そればかりでなくBMWの全てのモデルが時と共にマイルドになりつつあるのは寂しい限りだ。 それではCaymanはといえば、BMWよりはアイドリング時の振動があるが、これも一時期ほどではない。エンジンの固定は普通はゴムなどのインシュレーターを挟んで振動を吸収するのだが、これはエンジン自体がトルクでグラグラと揺れることになる。普通のクルマで空ぶかしした時の状況を見るためにボンネットカバーを開けた状態では、目の前のエンジンはトルクによりグラッ、グラッと傾く筈だ。そしてこれは、トルクの一部が逃げてしまうことで、アクセルレスポンスがリニアではなくなってしまう。そこでポルシェの場合はエンジンマウントを他社よりも硬いものを使用してアクセルレスポンスの向上を図っているが、その分だけアイドリングでの振動は多いことになる。特に、先代911(997)のカレラS のアイドルなんて、あの金庫の中で運転していると例えられていた超高剛性のボディーがエンジンの振動を直接ドライバーに伝える独特の感覚があって、これがまた何とも言えない魅力だったが、現行型(991)ではこれまた残念な事に大分マイルドになってしまった。 次にATセレクターはといえば、M135iはフロアーコンソール状に3および5シリーズと共通の電子式レバーが採用されていて、このレバーは単なるスイッチだから手を離せば中立位置に戻る。そしてCayman はといえば、ポルシェに共通の直線式で911とほぼ同じものが使用されているが、これらは機械式となっている。なお、Caymanはクラッチ付きの3ペダルMTも選択できるが、M135iの場合は少なくとも日本ではATのみしか設定がない。最近はめっきりと少なくなってしまったMTだが、欧州ではマダマダ主流なのに日本では設定が無いのは、日本ではMTが売れないというのが理由だろう。
次にATセレクターをDレンジに入れて、ブレーキを踏みながらがバーキングブレーキをリリースするが、これも両車は方式が異なり、M135iはオーソドックスというか時代遅れのレバー式で、Cayman はダッシュボード下端のスイッチで操作する電気式となっている。 |
そしていよいよ走りだすのだが、今回比較している2車は一般のクルマ好きからしたらば可成り理想に近く、とりわけCaymanの場合は平民でも買えるスーパーカーという感じがするし、それが新型981ではより顕著になった訳で、正直言って最初はこれ程詳細にというか、長くなるとは思ってもみなかったのだが、書いている途中で、あれこれ色んな事が脳裏に浮かんでいるうちに、どんどんと長くなってしまった。 ということで、今回は急遽中編を加えた3回構成にすることにしたので、この部分は中編となる。従って、実際の走行は後編にて。 |