Volkswagen Golf GTI (2014/3) 後編
  

今さら言うまでもなく座り心地の良いシートに身を委ねて、さてエンジンの指導だが、数ヶ月前に試乗したHighline を思い出してステアリンコラム右側面のキーホールに視線を移すが、ここにはブランクパネルがついていた。そこで、インパネに何やらボタンが有るはずど探すが‥‥無い? 実はセンターコンソール上のATセレクター右奥にある決して大きくはない丸いボタンがスタートスイッチだった。このボタンは径が小さいのみならずシルバー仕上げで文字が良く見えないなど、まあオーナーなら特に問題はないが、何も知らずに初めて乗るとちょっと面食らってしまう。

ATセレクターはといえば、これはオーソドックスなティプトロタイプだから、何の違和感もない。このセレクターをDに入れて、さてパーキングブレーキはといえば、Highline と同じでセンターコンソールのATセレクターの手前に電気式のスイッチがある。この形状はBMW5シリーズなどとほぼ同じだから解りやすい。それにしても、BMWでは5シリーズ以上でないと付かない電気式のパーキングブレーキがCセグメントのゴルフに付いている事実は、フォルクスワーゲンが何故この部分に予算を奢ったのか不思議だ。

ゴルフのトランスミッションはディアルクラッチ(DCT)タイプでVWではDSGと呼んでいるもので、このGTIと更に高性能なRには6速タイプが装着されていて、それ以外の中クラス以下のモデルには7速が使用されている。既に3月14日の日記で取り上げたが、7速は乾式タイプでドイツのシェフラー社製であり、これが1速に上手く入らない場合があり現在リコールとなっている。そして、このミッションはフィットハイブリッドでも使用しており、勿論フィットもリコールとなっている。まあ、この件については特別編で少し面白そうな情報を出そうと思っているので、それまでしばしお待ち願いたい。

走りだすためにブレーキからアクセルに踏み代えるが、そのペダル類はGTIに伝統的なアルミの(たぶん)スポーツペダルが付いている。それでDSGの発進は違和感もなく、特に気にしなければトルコン式のATとの差が判らない程度にまで進化している。公道に出てハーフスロットルで加速した瞬間に強力なトルク感を感じ、同じゴルフでも前回試乗したベースグレードのTrendlineは当然としても 中間グレードのHighlineと比べても別モノであることを感じる。そのまま速い流れの国道バイパスを巡航するが、その時の回転数は1,500rpm前後で、これは世間一般のクルマと変わることはない。次に発進した時には後続車がいなかった事もあり40q/h、1,200rpmくらいというほとんどアクセルを踏まずに惰性で巡航して、そこから徐々に速度を上げていくと2,000rpm、45q/hくらいでシフトアップされるようだ。今度はそこからフルスロットルを踏んでみると多少のタイムラグの後にシフトダウンし、回転計は2,800rpmを指し、その後は強力に加速していく。


写真21
Hihgline がオーソドックスな金属キーであるのと違い、GTIのスタートボタンはコンソール上のATセレクター右にある。


写真22
ATセレクターは直線パターンのティプトロタイプ。


写真23
パーキングブレーキは新型ゴルフに共通のコンソール上にある電気式で引いてON、押してリリースというのはレバー式と方向を合わしているのだろう。


写真24
GTIにはスポーツベダルが標準で付いている。このペダルはBMWのMモデルよりも立派に見える。

ところで、GTIのメーターは一見するとhighline 以下のモデルと共通のように見えるが、よくよく見ればスピードメーターのフルスケール付近では単に目盛り間隔が違うだけで、事実上は同じメーターユニットを使っている。最近のデジタル技術ならばこんなことは簡単だし、同じハードウェアでフルスケールを変えるという差別化が出来る事になる。

それでステアリング特性はといえば、何やら妙に軽くて中央付近の不感帯も実用車としたら少ないから、本当に手首だけの操作でキュッと車線変更が出来るが、それでも車自体の安定性は充分だから、決して危険なことはない。それと共にブレーキ踏力はかなり軽い部類で、しかも喰いつくような効き方というちょっと前のBMWに似ているから、慣れないと不要な減速をしてしまう。従って、クルマの操作は本当に力が要らず、手首で操舵して足でチョンと踏むだけのブレーキ操舵ということになり、しかも前述のようにチョツト踏めば強烈な加速(トルク)感をもたらす。

 
写真25
メータークラスター内はゴルフとしてほぼ共通となっているが、速度計のフルスケール(FS) などは異なる。その速度計はといえば、220q/hまでは同じで、FS付近になると突然目盛り間隔が変わる。


写真26
ATセレクター左上という使い難いし目視も出来ない場所にあるMODEスイッチ。


写真27
ステアリングのパドルスイッチはチャチいし短くてドライバーから殆ど見えないが、指で位置を覚えれば問題はない。


写真28
MODE切り替えをONにするとディスプレイ(タッチパネル)にはモード選択画面が表示される。


写真29
個別モードでは内容のカスタマイズが可能となっている。

ひと通り感覚を掴んだところで、今度は走行モードを切り替えてみる。切り替えにはセンターコンソール上のATセレクターの左側(写真26)という、手探りではとても使えないし、目で見てもセレクターレバーに隠れているし、しかも走行中に操作するには視線移動が大きすぎるという何とも使いづらいスイッチを押すと、正面のタッチパネルにモードスイッチが表示されるので、これで切り替える(写真28)。モードにはコンフォート、ノーマル、スポーツ、エコそして個別という5つがあり、当然ながらスポーツを選択する。これにより、先ずは軽すぎたステアリングが多少重くなるのが即座に感じられる。ソレと共に巡航時でも回転計の針は2,000rpm以上に上がる。そこで、シフトアップのポイントを探るために発進から少しゆっくりと加速をしてみると、回転計の針は徐々に上がって遂には4,000rpm に達しても未だシフトアップが行われず、4,200rpmくらいになっていきなり指針がビョンと2,800rpmくらいまで下がって、やっとシフトアップが起こったのを感じ取った。こういう具合に、このモードは高回転を維持するという面では随分とスポーティな設定になっていた。

先ほどの5つの走行モードの中に”個別”というのがあったが、これはユーザーがカスタマイズ出来るモードで、写真29のようにステアリングやエンジンや横滑り制御などを個別にスポーツかノーマルに設定を選べる。これにより、あるユーザーはエンジンはスポーツでレスポンスを上げたいが、ステアリングは軽いノーマルにする、などという事ができる。

写真30
Hihglineと比べると同じ直4ターボエンジンとはいえ 1.4L → 2.0L、140ps → 220ps、 25.5→35.7kgf-mと強力なGTIは外観上も全くことなる。

動力性能の良さは解ったが、それでは操舵性や旋回性はどうかといえば、まあ最初に結論を言ってしまえば元々FFのお手本のような特性のゴルフGTIであるが、新型は益々素直になって、言ってみれば正常進化というところだ。既に述べたように特にノーマルモードでは操舵力がかなり軽いこともあるが、ちょっと速めのコーナリングでも殆どニュートラルで難無くクリアしてしまう。ところで、ニュートラルステアとかアンダーステアと表現しているが、どんなクルマでもその気になればアンダーステアを出すことは出来るし、アンダーが強めのクルマでもそれを殺す走り方は当然有るわけだが、常日頃このサイトの試乗記で言っているアンダーステアというのは、極普通のドライバーが少し速めの速度で旋回した時にステアリングを切った割に曲がらなければアンダーだと表現しているので、その辺を突っ込めばいくらでも難癖は付けられる訳だ。まあ、これについても詳細は特別編にて、今までに寄せられたアホなご意見メールなども紹介しながら楽しく解説しようと思っている。

話を戻して実際の試乗インプレッションを続けると、途中ある程度のコーナーが連続する地方道へ行ってみた。コンソール上のセレクターをSにして、更に前後に動かすとマニュアルモードになるのは電子化される前のBMW等でお馴染みの方法だから、欧州車オーナーなら何の問題もない。更には標準装備のステアリングパドルも使えるし、ポルシェのPDKとは言わないまでも、DCTタイプのミッションはトルコン式のATとは一線を画すレスポンスとダイレクト感であり、この面ではトルコンATのBMW M135iよりも明らかに勝っている。

流石は世界のベンチマークというか、スポーツハッチの本家本元であるゴルフGTIだけあって、その安定性や旋回性は只々恐れ入りました、と言うしか無い。マニアを自認しているなら、一度はこのクルマの試乗をしてみることを薦めたい。ただし、以前から言っているように、個人的には決して好きなクルマではないのは、あまりにも優等生的だからというのが理由だが、今度の新型は楽しさもちゃあんと備えていた。


写真31
GTI の標準タイヤ標準は225/45R17だが、写真のクルマはオプションの225/40R18が付いていた。


写真32
ブレーキは歴代GTIで採用している、例によって赤く塗装されているが中身は普通の鋳物製片押しキャリパーが見える。

結局、予想していたとおりに正常進化というか、増々優等生としての資質を高めて、しかも操る楽しさまで実現してしまった新型GTIの価格は事実上据え置きの369万円。おっと、この価格は3月末までで、4月からは消費税が3%アップの8%となるから379.5万円だが、クルマの場合は既に取得税として5%を支払っていたから4月からはこの取得税が5%から3%に減るが、いや、まてよ。エコカー減税で取得税が免除や減税の場合は‥‥等など、まったくややこしいことになった。それで、本題に戻ると、GTIは確かに優等生ではあるが、ステータスという面ではBMWに敵わない。そのBMWの1シリーズならばグレードによってはGTIと価格的に被るわけで、性能的には多少劣るとはいえあちらは紛うことなきキドニーグリルが付いたプレミアムブランドだ。

ということで、これは勿論特別編で扱うべき内容だからも試してみたいと思っている。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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