BMW 320i Gran Turismo (2013/8) 後編

  

ドライバーズシートに座った感覚は3シリーズそのものだが、眼前にはいつもより高い位置からの眺めが広がることでちょいと違和感があるが、10分も走れば慣れたからオーナーなら問題ないのだろう。スタートスイッチを押して電子式ATセレクターをDに入れて、センターコンソール後端のパーキングブレーキレバーを解除して走り出すまでの操作や機器類の配置は、3シリーズそのものだから、これまた何の違和感もない。

駐車場から公道に出て1/2スロットルくらいで加速すると、結構なトルク感で加速していく。あれっ、320iって、こんなにトルクあったっけ? という感じで、そう言えば4気筒の320iに試乗したのは一年以上前だったが、その時の320i(セダン)の記憶よりも更にトルクが強力になったようにさえ感じる。例によって国道で50〜60q/hでの巡航ではほとんど負荷がない、すなわち極々僅かにアクセルペダルを踏んでいるような状況では回転計の針は1,500rpm位を指している。ここで少し強めに、しかし穏やかにユックリと踏み込んでみると、ある時点でキックダウンが起こるから、シフトスケジュールは結構スポーティ−のようだが、BMWに限らず最近のクルマのシフト制御には学習機能が付いているので、大人しいユーザーのクルマはシフトダウンも控えめだが、過激なユーザーのクルマではチョッと踏み込むと即座にシフトダウンされる。ということは試乗車が過激なモードになっていた場合も考慮に入れるべきだが、最近のBMWユーザー(と予備軍)は大人しいというか、マニアではない普通の人が多いことも有り、まずべた踏みなんかしないと思うので、試乗車のシフトスケジュールが目一杯過激な方向になっていた、ということも無いだろう。


写真21
3シリーズセダンと全く同じプッシュボタンによるイグニッションスイッチ。


写真22
これまた3シリーズに共通のレバー式パーキングブレーキ。

写真23
センターコンソールはセダンとの区別が全く付かないくらいに同一となっている。

今度は巡航中に走行モードをSPORTに切り替えてみる。切り替えスイッチはBMWに共通のATセレクトレバー右横にあり、厳しく言えば走行中に一瞬とはいえ視線を下に移動するというのは安全上、あまり好ましいとはいえない。えっ?BMWオーナーならば下を見ないでも手探りで位置が判るから問題ない、って。まあ、常にモードを切り替えて走るような過激な走り屋系ならば、そうだろうけど、最近のBMWオーナーの多くを占める極普通の大人しいドライバーは、走行モードなんて滅多に切り替えないから、感で場所が判るということは無いだろう。場合によってはSPORTモードを一度も使ったことがない、なんていう場合も結構あるだろう。あれっ、ということは、どうせ使わないのなら何処にあっても関係ない、ということにもなるかな。

話を戻して、NORMALモードで50q/h、1,300rpmくらいで巡航していた時にSPORTモードに切り替えると一瞬の後にシフトダウンされたようで、回転計は2,200rpmくらいまで跳ね上がり、60q/h、2,500rpmまで加速してから、そのまま60q/hで巡航しても2,500rpmを維持し、そこから軽負荷の巡航を続けてもシフトアップをする気配はない。

先々代の3シリーズ(E46)では、初期のモデルを除いて320iといえば6気筒2.2Lエンジンが搭載されていたのが、先代(E90)では何と4気筒2Lに格下げされ、実はこれはE46時代には318iと呼ばれていたものだったから「E90の320iなんて320iじゃあない!どうしてくれる、俺の青春を返せ」みたいな状況だったが、現行(F30)の320iは4気筒2Lとはいえターボで過給されていることもあり、動力性能的には6気筒時代の320iに近くなった感じで、特に今回のグランツリスモはセダン以上にトルク感があるように感じたから、その面でも以前の320iに近くなったということだ。めでたし、めでたし。。

写真24
メーター類も全く共通となっている。写真のセダンはデザインラインがSPORTのためにメーターに赤いアクセントがあるが、これはGTでもSPORTを選べば同様となる。

今度は停止からのフルスロットルを試してみる。今回は畑のど真ん中に一部完成している計画道路に持ち込んでのチャレンジで、クルマなんて全くいないので一旦停止し、走行モードはSPORTを選んで一応前後を確認してから、好きなタイミングでフルスロットル加速をする。クルマは決して不満のない程度の加速でグングンと回転数が上がってゆくが、緩い加速で感じたトルク感の割にはフルスロットルでの加速は大した事はない。なお、この時のエンジン音はBMWらしいスポーティなものだし、回転も実に滑らかでまあ6気筒2.2L程ではないにしても、以前の4気筒と比べれば格段にスムースでこれなら結構満足できるか、という状況だった。そして、回転計の針がゼブラソーン直前の6,500rpmまで上がったところで、即座に2速にシフトアップされ、その後も加速を続けたが、まあ適度なところで止めておいた。理由は勿論遵法精神の旺盛な‥‥ではなく、セダンよりも着座位置が高いからか、何となくスピード感覚が違って、実際よりも速く感じることが原因だった。


写真25
4気筒2Lターボエンジンを収めるエンジンルーム内も、写真だけで比べたらば全く区別が付かない。

現行3シリーズセダンの操舵性はBMWらしくスポーティーであり、この面では先代(E90)を凌いでいるように感じ、とりわけ同じ2Lターボでもよりハイチューンの328iの試乗結果はこれぞBMWというくらいにスポーティーなものだったが、320iについては328i程ではなかったとはいえ、充分にレベルは高かった。そして今回のグランツーリスモはといえば、結論から言えば320iセダンと比べてもステアリングの挙動は大人しいというか、多少緩慢な傾向にあるのは重量が160kgも重かったり、ホイールベースが110oも長かったりと、どう比べても軽快性では劣る方向の要素が多いから、まあ、文句は言わないが‥‥。それでも、BMWの試乗では度々使用する何時ものブラインドコーナーでは、コーナリング能力自体は結構高そうで、マトモな神経では一般道で限界に達することもないだろう。ただし、セダンに比べてアンダーステアの傾向は確かに感じるし、コーナリング中の微妙なステアリングの修正時なども反応の悪さを感じでしまう。そうは言っても並の国産セダンなどに比べれば格段に良いのだが、人間の欲望は限りないようだ。なお、重心が高いことによるコーナリング中の大きなロールや不安感などは感じられなかった。

というわけで、BMWの得意技である旋回性能という面ではセダンに劣るグランツーリスモではあるが、逆に160kgの重量増は乗り心地がより重厚に感じるというメリットもあった。サスペンションの突き上げも殆ど感じられないし、クルマ全体のフィーリングも「コレこれ、これがBMWだよね」という感じで、国産車も充分に進化したとはいえ、ヤッパリBMWには独特の魅力があるのもまた事実で、正直言って未だに日本車を一歩先、いや数歩先を行っているのを感じたのには、日本人としてはある面ガッカリだったが、やっぱり自動車の開発は甘くはない、ということだ。

最近のBMWのブレーキは以前ほど踏力が極端に軽くて喰い付くような特性ではなくなる傾向があり、今回の試乗車も同様に以前程軽くはないが、個人的には寧ろ好ましい傾向だと思っている。


写真26
タイヤはベースグレードの場合にはGTが225/55R17、セダンが205/60R16を標準装備するが、写真のデザインラインではそれぞれ225/50R18および225/50R17が標準となる。流石に160kgも車重が重いGTは、タイヤもセダンよりワンサイズ上になっている。


写真27
写真の撮影条件やスポークの位置などが良くないために比較し難いが、両車のブレーキユニットは基本的に同じのようだ。

今回も結局はBMWの乗り味とダウンサイジングエンジンの熟成を魅せつけられた結果になってしまった。しかし、3シリーズ グランツーリスモはセダンに比べて確かに乗り心地の重厚感は感じたが、それ以外では高い(450 vs 494万円)、重い(1,500 vs 1,660kg)、デカいという良いこと無しの状況で、何よりもBMWの魅力である操舵性が劣るというのがいただけない。これでは一体誰が買うのかと思ってディーラーに聞いてみたらば、本格的な商談どころか引き合いさえ全く無い状況だそうで、そう言えば試乗車のオドメーターは未だ1,120qだった。

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