LEXUS GS350 F Sport (2013/1) 後編
  

GSは既にGS250とGS450hに試乗済みであり、今回の350も基本的にはインパネやメーターなども同様で、特にガソリンエンジンのGS250はメーターも全く同じで、高速道路でも100q/h制限の日本では無意味で不要と言いたがる、シロアリ役人や左翼のバアさんの圧力にも関わらず260q/hフルスケール(写真23)を採用した心意気は褒めるべきで、100km/hまで3秒程で達するというGR-Rの速度計に180km/hまでしか目盛がないという根性なしのニッサンとは雲泥の差だ‥‥と思ったが、念の為に調べてみたらば最新のGT-Rの速度計のFSは340km/hとなっていた。これぁ、ニッサンに失礼した。

走行モードはデフォルトのNORMALのままで、ブレーキを離すと僅かなクリープがあるのはトルコンATだから当然だが、そこからアクセルをそお~っと踏むがエンジンはグォンと吹け上がり、飛び出しそうになる。その為に渋滞時での発進は前車が充分に離れてからでないとヒヤッとすることになる。そういえば、GS250でも発進時の飛び出し傾向があって気になった事は試乗記にも書いたとおりだから、トヨタとしてはGSはこういう特性が良いと判断しているのだろうか。そのままバイパスを走行するとNORMALとはいえ少し踏めば直ぐに前車に追いつくのはある面運転しやすく、発進時の飛び出し以外は中々パワフルで扱いやすい。とはいえ、これは先代のGS350やクラウン3.5などと基本的に同じエンジンだから、性能だってほぼ同じであり驚く事はない。


写真21
インテリジェンとキーとプッシュボタンによるイグニッションスイッチ。右下の黄色↑は電動パーキングブレーキのスイッチ類。


写真22
ATセレクト(シフト)レバーは欧州車的な根本にブーツがあり、シフトノブはMTのような形状をしている。パターンはメルセデスのような、わずかなジグザグのある直線タイプとなっている。


写真23
GS250と共通と思える自光式メーター。以前の日本車に多かった演歌調のギラギラでなくなったのは良い傾向だ。


写真24
F SPORTに標準のアルミペダルが妙に目立つ。

そこでコンソール上のモードスイッチ(写真28)を右に回してSPORT Sを選んでみると、アクセルレスポンスが多少向上するがシフトスケジュールはあまり変わった様子はない。NORMALで50q/hの巡航時に回転計の針は1,200rpm辺りを指していたが、SPORT Sに切り替えても全く変わる様子もない。それではと、更にもう一度右に捻ってSPORT S+を選択するが、それでもシフトダウンと共に回転数が上がるような事はない。では、モードを切り替えて何が変わるのかといえば、ハッキリ判るのはステアリングの重さが変わることだ。ポルシェは別格としてもBMW各車では巡航中に走行モードをスポーツにすると一段シフトダウンされて回転計の針も500rpmくらいは跳ね上がるのだが、GSではそういうことは起こらなかった。

どうもモード切り替えといってもシフトスケジュールは大して変わらないし、ステアリングとアクセルのレスポンスは確かに向上するが、それとてSPORT S+などという大それた名前程にはスポーツしていない。ここらがトヨタのトヨタたる所以だろうが、最近のレクサスは大きくコンンフォートに振っていてFスポーツといえども、内外装が派手(スポーティー?)なだけで大した事はないようだが、まあBMWの真似ではなく独自の客層を狙うという事はいいことだと思う。なぜなら、BMWと同じスポーツセダン路線では所詮勝ち目は無いし、お買い得のパチものという評価になってしまうからだ。しかし、ここでGS250に試乗した時の状況を思い出してみると、350と違いSPORTモードにしたことで大いに変わり、NORMALなんて忘れても良い、というくらいの差があったのだが、350ではそれ程の差が無いというのは、言い換えれば3.5Lの強力なエンジンではNORMALでも充分なトルクがあるために、低回転域でも不足無く走れるのに対して、250では回転を上げてガンガンと走らないと2.5Lなりの大人しい、というかイマイチパワー不足を感じるのかもしれない。

レクサスGSはベースモデルのGS250でもステアリングホイールにパドルスイッチが組み込まれているから、今回のGS350 F Sportには当然ながらパドルスイッチが付いている(写真25)。そこで今度は、これを使ってMTモードを試すことにする。丁度片側2車線のバイパスを走行中だったために60~70km/で巡航中に左のパドルを引いてシフトダウンしてみると、レスポンスはトルコンATとしてはマアマアというか、決して速くはないがイライラする程にトロくはない。ただし、最近のDCTのように殆ど瞬時にシフトされるようなフィーリングを覚えてしまうと、GSのパドルを使って楽しむというのは無理がある。勿論特に出来が悪いわけではないが、レクサスブランドのEセグメントで3.5L、しかもF Sportなんていうやる気充分のグレード名を考えれば、やはり物足りない。しかも、3.5Lエンジンは良い意味で盛り上がらない、というか、広いトルクバンドでピークも穏やかだから高いギア位置でもそのままで加速してしまうので、Dレンジで素直に乗るのが正解のようだ。

今度はフルスロットルでの加速を試してみる。Dレンジで何時ものように先頭での信号待ちから青信号とともに少し前進してからフルスロットルを踏むと、回転計の針はグングンと上がって行くが、その割には静かで振動もなく実にスムースにレッドゾーン手前まできちんと上がり、シフトアップとともに一瞬回転数が下がり過ぎてから少し上げてミートするというあまり上手くないドライバーのMTみたいな繋がり方をする。実はこのフルスロットルも含めて試乗中に何となく感じたのが、変速後の回転数の上下が大きいのではないかということだったが、これに付いては後述する。


写真25
マニュアルシフト用のパドルスイッチは一見目立たないが、操作に支障は無い。


写真26
SPORT SおよびS+などの走行モードはメータークラスタ中央のディスプレイに表示される。


写真27
ブレーキのマスター・シリンダーにはバキュームサーボのブースターが見えることから、先代のようにバイワイヤーでは無いのが判る。


写真28
走行モードはATセレクター手前の回転式スイッチで切り替える。

写真29
2GR-FSE V6 3.5Lエンジンは前期型からの使い回しで、しかもクラウン3.5とも同じ。スペックはGS350が僅かに勝るが事実上は同じ。

動力性能のインプレッションが終わったところで、いつものように少しスペック的に検証してみよう。今回はレクサスGSの2.5Lと3.5L、そして3.5Lと同じエンジンを搭載しているクラウン3.5(アスリート)と同クラスの欧州車の代表としてBMW535iのギア比を比較することにする。

  

この表を作っていて初めて気が付いたのは、GS350は同じエンジンを搭載したクラウン3.5が8ATであるのに、何とGSは6ATだったということだ。となれば、前述した変速動作による回転数の違いが大きいように感じたのは、8AT搭載のBMWなどに比べてギア比が粗いから当然の結果だった。それにしても、格下のクラウンが8ATなのに、プレミアムブランドのGSが6ATというのは、ちょっとレクサスの立場が無いではないか。まあ、次回のMCで8AT化されるではあろうが、普通はGSが先で後からクラウンが追従するのが本当だと思うが。そして、この事実にGS350はMCでの8速化までは待ちというしか無くなってしまった。

GS350の乗り心地は路面からの突き上げも極僅かでしかも一発で止まるから、可成り良い部類に入るだろうし、恐らくボディ剛性も充分なのだと想像する。それどころか、F SPORTというグレード名を考えれば、もう少し硬くでもいいのではないだろうか、とも感じる。ただし、だからといって急なレーンチェンジでフラついたりという事はない。そしてGS350のステアリングはというと、走行モードがNORMALの時は極々軽い操舵力が不安を感じるくらいで、しかも妙にクイックというか、わざとらしい反応をする。そこでモードをSPORTに切り替えると幾分操舵力が増して少しはマシになるが、基本的には軽すぎる傾向であり、もう少し重くてシャキっとしても良いのではないか。

というわけで、試乗車のステアリングはNORMALでは物凄く軽く、それでいて中間付近の不感帯は少ないから、軽く手首を動かすだけでノーズが反応し贔屓目に言えばかなりクイックといえるが、なんだか足が地に着いていないような操舵感がある。といっても、サスペンション自体の接地感は決して悪くない。ここでSPORT Sモードにすると、ステアリングは幾分軽さが減り少しシャキっとするし、SPORT S+なら更に操舵力が増すのだが、それでもBMW5シリーズよりは明らかに軽い。

と思って、試乗後に資料を見直したら、何とF SPORTにはLHD(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)という仕掛けが付いていて、これはギヤ比可変ステアリング(VGRS)と後輪の切れ角を制御するDRS(ダイナミック・リア・ステアリング)が装着されている、と書かれてあった。要するに4輪操舵とステアリングギア比の可変機構という、言ってみればBMWのアクティブ・ステアリングのようなものであり、そう考えてみると試乗車の妙な特性に納得がいく。BMWも初期のアクティブ・ステアリングは違和感大有りだったが、年を追う毎に素直になってきたから、BMWに比べて経験不足なレクサスも今後は改善されていくのだろう。

  

今回の試乗コースはGS250とほぼ同じだから一般道の途中に数カ所の一応ブラインドコーナーと言えるコーナーがある。先ずは最初のコーナーが見えてきたので、モードはSPORT Sにして、しかしセレクターはDレンジのままでコーナーに備えていると、コーナー入り口の数メートル手前からクルマのノーズが見えた。あれっ、と思った次の瞬間にヨレヨレと本道に出てくるではないか。慌ててブレーキを踏み減速して後ろに付くと30q/hくらいから加速する様子も無く、コーナーをフラフラと回っている。因みに前車の後端には”CAPELLA”というエンブレムが見える。ATENZAではなくカ・ペ・ラ! やがてコーナーを抜けるとフラフラと速度が上がっていき、60q/hを過ぎてもユックリと速度を上げている。これって、要するに速度をキープできないというか、速度計を見てないというか、まあ触らぬ神に祟りなし、ということで路肩が広い部分で停車して前のクルマが見えなく無くなるまで待ってから再出発をする。

貴重なコーナーを一つ損してしまったが、まあ気を取り直して次のコーナーに少し速いくらいで進入してみると安定性自体は充分であり、一般道ではマトモに走る限りは限界なんてお目にかかることは無さそうだ。そこで次はMTモードにして4速、2,000rpm弱、60q/h位で進入すると、安定性は良いのだがコーナー途中での操舵が例の異様にクイックな特性から、カクっ、カクっという多角形のコーナーリングになってしまった。まあ、慣れの問題もあるけれど、例のLDHというヤツが余計な事をしているようだ。その後も2箇所程でコーナーリングを試したが、傾向は同じだった。

レクサスのブレーキといえばIS250を除いて、要するに3.5L以上は前後にアルミ対向ピストンのキャリパーと、フルエレキのブレーキバイワイヤーシステムを採用していたが、今回の新型はアルミ対向ピストンキャリパーは装着しているものの、エンジンルーム内を見るとバキュームサーボ(真空倍力装置)が見える(写真27)。要するにバイワイヤーをやめてオーソドックスな方法に変更したのだった。まあ、バイワイヤーのメリットがあるかといえば微妙だし、今回のバキューム方式のフィーリングが特に悪いということも無いから、気にすることではないのだが、そう思ってあら探しをすれば、先代のように遊びが少なくストロークも短い特性ではなくなっていた。


写真30
タイヤはF SPORT専用ホイールにフロント235/40R19、リア265/35R19タイヤが標準となる。


写真31
GS350にはフロントにアルミ対向4ピストンキャリパーが奢られるが、リアは普通の片押しタイプとなる。なお、前後ともキャリパーは黒い塗装がしてある。

新型GSは国際感覚となったインテリアなど、前作のトヨタ丸出しの北米クラウンから大いに進化したと感じ、発売直後に乗ったGS250の出来もまずまずだったから、エンジンが強力な3.5Lとなり、内外装や足回りをスポーティーにアレンジしたF SPORTには大いに期待していた。しかし中々チャンスがなかったころから、この程一年遅れでようやく試乗できた訳だが、GS250で好感を持った内装もF SPORTとなると、もう一捻り欲しいところだし、動力性能は勿論2.5Lより圧倒的に上だが、その割には大パワー、大トルクを生かし切っていない感じがする。しかもミッションに至ってはクラウン 3.5アスリートの8ATに対して、格上のレクサスが6ATというのはどうしたものだろうか。まあ、変速段数が多ければ良いというものでもないが、やはりステイタスというかヒエラルキーという物があるだろうに。

そしてハンドリングはといえば、悪くはないが例のレクサス・なんちゃらシステム(LHD)とかいう仕掛けが逆に足を引っ張っているようにも感じる。まあ、このシステムは今後の成熟を期待するとして、ハッキリ言って今回のGS350 F SPORTはチョイと期待はずれで、これなら2.5Lで充分という気がする。GS250のベースグレードが510万円なのに、GS350 F SPORTだと680万円だから、その差は170万円であり、まあベースグレードとケチなことを言わないでGS250でもF SPORTを選ぶと590万円だから、その差は90万円と、これでも結構な差額となる。結局GS250でもF SPORTは80万円も高いわけで、あのボッタクリで有名なBMWだって523iのベースグレードとM SPORTの差は49万円であり、しかもM SPORTのアルカンターラのインテイアは如何にもスポーティで品も良く、テラテラの本皮をスポーツで~す、なんて曰っているGSのF SPORTとは訳が違う。

という訳で、今のところはGSのベストチョイスは素のGS250というところか。ところで、今回からは完全な兄弟関係から足を洗ったクラウンだが、そうは言ってもエンジンは全く同じだしホイールベースだって同じだから、マダマダ血縁は結構濃そうだ。そのクラウンのアスリート3.5は497万円(アスリートS)~575万円(アスリートG)であり、GS350の580万円(ベースグレード)~680万円(F SPORT)に比べて80~100万円も安い事になる。こうなると俄然両車の比較をしたくなってくる。

そう、常連の読者さんなら既に予想されているように、今回の特別編はGSとクラウンを比較してみることにする。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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