BMW(F31) 320d Touring (2012/10) 後編
  

スタートボタンを押してエンジンを始動すると多少の振動と音がディーゼルであることを知る手がかりとなる。この点ではクラスが上のメルセデスEクラスのディーゼルのように余程神経を集中しないとアイドリングからディーゼルエンジンであることは判らない、という状況よりも劣るのは仕方がないが、それでも日産エクストレイルディーゼルよりは静かだ。それではマツダCX-5と比べてどうかといえば、いやあ、実はマツダの方が勝っているような気もするが‥‥‥。日本の技術も捨てたものではないと感じるところだ。

ガソリンモデルと全く同じ電子式のセレクターをDに入れてから、静かに発進させてみる。低回転域の得意なディゼルエンジンらしく、極低速でのコントロールは極めて容易で、駐車場に人がウロウロしている休日のディーラー敷地内をゆっくり進んでいく。国道の手前で一時停止し、クルマの流れの切れ目と共に本線に入りハーフスロットル程度の加速をすると、流石にディーゼルらしくトルク感に溢れてる。


写真21
最近のBMWに共通のスタートボタンとその上に組み込まれたアイドリングストップスイッチ。ディーゼルでも全く変わりはない。


写真22
電子式のATセレクターも最近のBMW各車種共通のものが使われている。

320dにも320iと同様にコンソール上には走行モードの切り替えがあり、とりあえずデフォルトのCOMFORTのままで走ってみる。国道の流れに乗って60km/h程度で流している時の回転数は1,500rpm程度で320iよりも少し高めだ。前車が左折のウィンカーを出して減速したので右に車線変更すると前はガラ空きだった。この時の速度は20km/hくらいまで落ちていたのでここでフルスロットルを踏むと少し遅れてシフトダウンが起こり、回転計の針は1,500rpmとなり、そこから加速を始めるとディーゼルエンジンによるガソリン3L車以上の加速は背中がバックレストに食い込むくらいの加速をするが、エンジンの回転数が4,000rpmくらいの時にシフトアップが起こる。これがガソリンだったならば、そのまま5,000rpm以上まで簡単に吹け上がるのだが‥‥‥。この時のエンジン音はディーゼルらしい音だが決してうるさくはなく、むしろ出来の悪いガソリンエンジンよりも余程静かなくらいだったが、まあ最近のディーゼルだから驚く程ではない。更には6気筒時代とは比較にならないまでも4気筒としては充分にいい音のする320iのように官能的でもない。

ここで、この新型ディーゼルとガソリンエンジンのスペックを少し比較してみる。下の表は前編で使用した一覧表からエンジン部分を抜き出したものだ。

  

ガソリンもディーゼルも4気筒2Lではあるが、排気量を見ると従来のガソリンエンジンが1,997cm3であるのに対してディーゼルは1,995cm3と僅かに異なっているは、ホアやストロークが異なっているかであろう。ということは、両者はエンジンブロックやコンロッドからして全く別物と思ってよさそうだ。ディーゼルエンジンというのは高圧縮比であり、エンジンに要求される強度もガソリンエンジンよりも遥かに厳しく、普通はよりゴッツい構造となるから重量も大分重くなるのだが、320dの車両重量は320iと比べても僅かに10kg重いだけであり、これは大した技術だ。

そして320dの最大トルクは328iの350Nmよりも大きな380Nmを発生している。ただし、トルクというのはどのくらい広い回転域で発生するかにより乗った時の印象が大いに異る。ということで、両車のトルクカーブを下に比較してみた。

  

この図から判ることは、328iの場合は約1,200rpmという低い回転数から最大トルクである350Nmを発生しているが、320dで1,200rpmは約200Nmでしかない。しかし、1,600rpm位で328iの350Nmを追い越して、1,750rpmからは380NmというガソリンNAなら4L級のトルクを発生する。しかし、それも2,750rpmまでであり、その後はなだらかに下降している。 そこで、回転計に表示されているレッドゾーンまで回した時のトルクを見ると、328iの場合はレッドゾーンの7,000rpmで230Nmまで下がっているが、パワーは160kw(約213ps)くらい出ている。これに比べて320dの場合は4,000rpmをピークとするパワーはその後一気に下降して、4,300rpm位で特性曲線は終わっている。要するにこれ以上は保証していないのか。 ということは、320dのレッドゾーンが始まる5,400rpmどころか、ゼブラゾーンの始まりである5,000rpmまで回したとしても、殆ど意味がないことになる。要するに320dがガソリンエンジンに優っているのは1,500〜4,000rpmという狭い範囲であり、このゾーン内で使う限りは大いなるメリットがあるという事実を認識しておく必要がありそうだ。


写真23
試乗車のデザインラインはMODARNである為に、ライトブラウンのメーターパネルが使われているのもガソリンモデルと同じだ。

写真24
唯一の相違点は低回転型のディーゼルらしくレッドゾーンがガソリンモデルに対して1,600rpmも低いが、実際には4,500rpm以上回しても意味がない。
 

今度は320dと320iのギヤ比の違いについて調べて見ることにする。BMWのガソリン4気筒エンジン搭載車種である1、3、5シリーズについてギア比と速度を下の表にまとめてある。

  

表から判ることは、8速ATミッションのギア比は全て共通であることで、それぞれの車種への適応はファイナルギア比を変更することで賄っている。そして、320dの場合は320iの3.154に対して2.813という高いファイナルギア比によって、12%のハイギアードとなっている。これはディーゼルエンジンが低回転域に特性が偏っていると共に高回転域が使えないからであり、同じギアポジションでも320iよりもエンジンの回転数を下げている。ただし、その分だけ駆動トルクが減ってしまうが、元々320iに比べて最大トルクでは40%も優っているから、結果的にハイギアード化による駆動トルクの低下は無いことになる。それでも、320dの場合は、最大トルク発生回転数の4,000rpmまで回したとしても、1速では36q/hしか出ないことになり、結局ドライバーは伸びが足らないと感じる訳だ。ということは、グイ〜んと引っ張るのが好きなユーザーには320dは向かないということになる。

話を走行時に戻して、次にモード切り替えスイッチ(写真26)をSPORTに切り替えてみると、当然ながらレスポンスはより良くなり、巡航時の回転数も2,000rpm位を常用するようになる。エンジンのレスポンスも向上したように感じるしディーゼルエンジン特有の太いトルクもより顕著になる。そこで信号待ちからフルスロットルの発進を行なってみると、1速での強力な加速と共に回転計の針は一気に跳ね上がるがCOMFORTと大して変わらない4,500rpm強で2速にシフトアップされる。この時の速度は約40km/hだから、やはりもうひとつ伸び欲しいところだ。要するに強力なトルクはガソリン3L級をも凌ぐ程だが伸びか無く、ガソリンエンジンならば6,500rpmくらいまでは加速していくところだが、ディーゼルの悲しさでガソリンならばこれから伸びて行くというところでシフトアップとなってしまう。言い換えれば高回転域まで引っ張るような運転をしなければ320dの動力性能は充分に満足できるくらい強力で、320iどころか328iをも上回ることになるのは前述のギア比の検証と全く一致している。

今度はSPORTモードのままでATセレクターを左に倒してマニュアルモードを選択してみる。試乗車にはステアリングにパドルシフトは装着されていないから、セレクターレバーを前後させることで変速操作を行う。パターンはBMWに共通の引いてアップ、押してダウンであり、先日乗ったVW up!とは逆となっている。したがって、どちらの場合でも乗って直ぐには頭で確認することが必要となるし、それでも途中で混乱する場面がある。これはISOなどで共通化を考えてもらいたいものだ。マニュアルシフト時のレスポンスはトルコン式ATとしては標準的だから出来の良いDCTには敵わないが、VW up!のシングルクラッチセミオートと比べれば少しはレスポンスが良いというくらいだ。

そして最後に、今までどのクルマでも使い物にならないのが当たり前のECOモードを一応試してみる。一般道で40〜50q/hで巡航中の回転数は1,200rpmくらいで、そこから少し踏んだくらいではシフトダウンは起きないが、トルコンのスリップで1,500rpmくらいに回転数が上がり、これは320dのディーゼルエンジンが328iの最大トルクを追い越して強大なトルクを発生している回転域であり、踏めばムクムクと加速する。その具合は、町中の遅い流れならば充分な程度であり、ECOモードが使いモノになるという珍しいパターンだった。

エンジンに関しては最後にもう一つ、最近のBMWにはM5にさえ標準装着されているアイドリングストップについて触れてみよう。ディーゼルエンジンはガソリンに比べて圧縮比が高いために、再始動時のショックではどうしても不利になる。それで320dはといえば、普通にブレーキペダルから踏み変えての発進ならば、再始動時に多少のショックはあるが殆ど問題にはならないだろうという程度だった。そこで今度は、意地悪試験として目一杯素早くペダルを踏み変えて見たが、多少の遅れとともにエンジンが始動して、その後はちょっとはショックはあるが決して飛び出したりすることもなく、まあ合格としよう。ただし、人によっては多少気にするかもしれないレベルではある。


写真25
回転計内下部に組み込まれた燃費計は、ECO PROモード時には表示が変更される。


写真26
走行モード切り替えは他のBMWと全く同じで、ディーゼル特有の違いは無い。

写真27
直4 2.0L ターボディーゼルの型式はN47D20Cとガソリンモデルとは全く別のもので、外観上も全く異る。最高出力184ps/4,000rpm、最大トルク380Nm/1,750-2,750rpmという強力なトルクを発生する。


写真28
320iのN20B20Bは184ps/5,000rpm、270Nm/1,250-4,000rpm。
これに対して328iのエンジンはN20B20Aと320iとは僅かに型式が異なり、これは圧縮比が違うことによるのだろう。
性能は184ps/5,000rpm、270Nm/1,250-4,000rpmで両車は外観上では全く同じだ。

新3シリーズ(F30)の操舵性は上級モデルの328iでは正にスポーツサルーンの本領発揮という感じで、サルーンとしては例外的にレスポンスが良いのに対して、320iの場合は大分マイルドになっていて、贔屓目に解釈すればより多くのユーザーに対応しているという感じだが、さて320dはといえばやはり320iに近く、要するに一般的な用途では充分な安定感と適度にクイックでスポーティという、これは本来のBMWのフィーリングということだ。今回はサルーンではなく後部重量がどうしても重くなるワゴンボディのツーリングであることも考慮して、もしかすると後部の慣性が大きいことの影響が出るかとも思ったが、普通に乗っていれば、このクルマがワゴンボディであることを意識することはないだろう。

今回も手馴れたコースであり、ここは本格的なワイディング路という程のものはないが、途中に適度な道幅の片側1車線の県道がある。先ずは下準備としてミッションはマニュアルモードにして、走行モードはSPORTを選択する。コーナーが見えてきたところで3速に入れると、ちょうどトルクが安定している3,000rpmくらいとなり、この回転数ではレスポンスもトルクも充分で実にコントロールし易い。最初のコーナーは少し余裕を持って曲がってみるが、弱アンダーで余裕のコーナーリングだった。そこで、次は更に速度を上げてみる。320d ツーリングの特性は、一部のBMWサルーンのようにレールの上を走るが如くニュートラルという訳ではないが、この辺は流石にBMWで、どう考えてもスポーティーさを期待できないワゴンボディとディーゼルエンジンの組み合わせという概念からすれば、充分に楽しめる。

ブレーキもホイールの中から除くキャリパーやディスクローターはセダンと同じであり、当然ながらフィーリングも同じで例によって軽い踏力で良く効くが、これまた当然ながらホイールは汚れるしパッドの減りも早いし、それどころかローターの減りも早いだろう。これが嫌なら国産車を買えば良い。と思ってレクサスを買ったらば、同じようにホイールは汚れるし、パッドやローター減りも早い。なんで、と思ったら、レクサスの採用しているパッドはBMWと同じモノだった、なんて事になる。


写真29
他の3シリーズと共通なブレーキキャリパーとディクスローター。 写真の右側がフロントだが、リアも結構大きいのは前後の重量配分が等しく、リアの負荷が大きいからだ。


写真30
運転席からの眺めも、お馴染みの3シリーズそのものだ。

 

320iに比べて僅かに20万円高いだけで、パワーは同じだがトルクは4割アップ。日本の一般道で使うには充分な加速性能で、この面では320iを完全に上回っているが、その気になれば7,000rpmまで回すことさえ可能な320iに比べれば4,000rpmを過ぎるとトルクは急下降し、5,000以上は全く意味をなさない320dは、クイ~ンと引っ張るのが大好きなドライバーには向かない。320iは以前の6気筒のスムースさは望めないまでも4気筒としては充分に滑らかで音も決して気にならないし、加速時の音は相変わらずBMWらしく勇ましい。これに比べて320dは静かといっも、ディーゼルエンジンとしてはという注釈が必要で、アイドリング時には僅かとはいえディーゼル特有の音と振動が感知できるし、フル加速の音はスポーティーとは縁遠いディーゼルの音だから、BMW=官能的と思っているユーザーからすると、チョツト違うんじゃあないの、ということになる。

ディーラーで販売状況を聞いたら、やはり主流は320iでありディーゼルの320dはマダマダ様子見のようだ。こういう点では、ディーゼルの販売割合が多かったメルセデスEクラスとの違いが際立っているが、Eクラスのディーゼルは6気筒でガソリン並に静かなことと、320dに比べて価格が300万円程高く、当然ながら個人のファミリーユーザーが多い3シリーズと多くが法人登録であるEクラスというユーザー層の違いも原因だろう。2L級のDセグメントのディーゼル車が日本で定着するか否か。近日発売されるアテンザ ディーゼルの結果とともに、今後の動向に注目したい。

追記:後日、噂のアテンザ ディーゼルに乗ってみたら、なんとディーゼルエンジンの出来ではBMWを凌ぐのではないか、何て思いたくなるくらいの出来だった。となると、やっぱり特別編で比較したくなる。というわけで。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。


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