【速報版】Toyota Crown Royalsaloon (2013/1)

  

昨年の末に発売された新型クラウン(S210)については、今年の初めに日記で写真と共に内容を説明したが、今回は少しでも早く試乗結果をお伝えするべく速報版ということで、走行時のインプレッションを主とし、クルマ自体の解説は最小限としたので、車両の詳細は1月2日よりの日記を参照願いたい。

とはいえ、試乗前の最小限の知識として新旧の違いを主要緒元で比較してみると

   

アウターサイズはほぼ同じで、勿論ホイールベースも同じ。エンジンはといえば、2.5も3.5も其々使い回しで、2.5の場合は性能が僅かに上がっている程度で、3.5は全く同じだ。ミッションは3.5の場合、6ATから8ATと変更されたが、2.5は同じ6ATのままとなる。なお、旧モデルではラインナップされていたロイヤル系の3.0Lモデルは今回廃止となり、ロイヤル系は2.5Lのみとなった(ただし、強いて言えばハイブリッドがある)。

今回の試乗車は最も売れ筋と思われる中間グレードのロイヤルサルーン(409万円)で、この下にはナビなどを省いたベースグレードのロイヤル(353万円)、上には主にリアの装備を高級化してショーファードリブンを考慮したロイヤルサルーンG(482万円)がある。実は新型クラウンを屋外で見るのは今回が初めてだったが、こうしてみると話題の(評判の良くない)ラジエターグリルもそれ程目立たないし、誰が見てもクラウンという雰囲気が出ている。やはりクルマというのは実際に走る状況で見ないと本来のデザインが伝わらないようで、室内の展示車を見ただけでは判断を誤りかねない。もっとも、トヨタを叩いてナンボ、という3流ライターからすれば、どんなグリルにしようとも難癖つけるのは同じかもしれないが。

そして、先ずはドアを開けて室内を見回せば、如何にもクラウンと言いたくなるベージュの内装にベロア(カタログでは単に"ファブリック"と標記されている)のシートという演歌調のインテリアが目に入る。おおっ、これぞクラウン、とオヤジたちが喜びたくなる一瞬だ!

なお、ファブリック(fabric)とは織物の事だから、演歌調だろうが欧州調だろうが、モケットだろうがジャージだろうが、み~んなファブリックであり、そういう意味ではレザーかファブリックかという程度の区分だ。同様にレザーというのも本皮も合成皮革も含んでいるようで、アルカンターラやレザレットもレザーということになる。

写真1
アイボリーの内装は一際クラウンらしさを強調しているように見える。


写真2
シートはこれぞクラウンといいたくなるような、毛足のあるベロアの表皮を使っている。


写真3
ドアインナートリムは木目”調”パネルやステッチなど、結構高級感があり、これはベースグレードのロイヤルでも同様だ。

インパネもシート同様に如何にもクラウンという感じで、言ってみれば演歌調のジャパンオリジナルであり、昨年FMCされたレクサスGSの欧州調とは対称的だ。そしてシートに座るとやっぱりクラウンであり、以前ほどは酷くないが何となく柔らか目でシャキッとしないシートと化繊で毛足の長めなベロア調のシート表皮の感触など、欧州車命のドライバーにはチョット受け入れ難いものがあるかも知れないが、それも座った瞬間だけで、慣れればそうでも無さそうだ。ただし、長距離の運転での疲れなどはそれなりにあるのは覚悟が必要だ。

センタークラスターは形状、配置、配色、質感ともクラウンであり、最近大幅なマイナーチェンジでインテリアを大幅に変更したレクサスLSが欧州調になったが、クラウンはシート同様にジャパンオリジナルがみなぎっている。

写真4
これまた如何にもクラウンらしいインパネで、欧州調に舵を切ったレクサスとは対称的だ。


写真5
ドカーンと立派なセンタークラスタもクラウンらしい。


写真6
時代遅れのゲート式ATセレクターとギンギラギンのフェイクウッドのパネルなど、コンソールもクラウンの伝統を守っている。

エンジンの始動は当然ながらインテリジェントキーとプッシュ式のスイッチ(写真7)であり、このスイッチはインパネの右端にある。このボタンを押すと回転計の針が800rpmくらいを指すが、クラウンだけあって振動は殆ど感じられないしエンジン音も聞こえない。ATセレクターはコンソール上にあり、その形状は時代遅れのジグザグゲード式で、言ってみればメルセデスが30年以上も前に始めたものだ。このセレクターをガチャガチャと動かしてDに入れる。

次にパーキングブレーキをリリースするために、インパネ下端にあるであろうリリースレバーを探すが‥‥‥無い。クラウンは伝統的にプッシュ式のパーキングブレーキをレバーを引いてリリースするメルセデス方式を採用してきたが、何と今回からは安物のミニバンみたいなプッシュ/プッシュ方式というのだろうか、踏む度にオン/オフと繰り返すタイプに変更されてしまった(写真8)。

ブレーキペダルから足を離すと、クルマは極僅かのクリープで微速で動き出すので、アクセルを穏やかに踏むとクルマは穏やかに前進する。公道に出て適度に加速すると、トルク感も充分で、その割には先日乗ったレクサスGS350のように飛び出したりすることもなく、極々スムースでジェントルなレスポンスであり、これぞクラウンというところだろうか。40~50q/hで流れる典型的な日本の一般道では、巡航時の回転計の指針は1,500rpm以下を示すのは最近の国産車に共通の状況だが、ここでフルスロットルを踏んでみると、結構迅速なレスポンスでシフトダウンして加速に入る。デカイ図体の割には2.5Lの自然吸気という今時の標準では決してパワフルとは思えない仕様ではあるが、想像以上に活発に速度を上げていく。この加速感は直列6気筒を搭載していた初期のF10 BMW523iと同等以上、いや上回っているかもしれない。そして加速時のエンジン音も静かだし何より6気筒らしいスムースな回転に高級感を感じるのは、やっぱり日本の高級車クラウンだということだ。

ところで、クラウンの運転席に座って気が付くのはボンネットの先端がしっかりとみえることだ。最近のクルマはプリウスに代表されるようなボンネットが全く見えないクルマが多い中でも、クラウンはシッカリと必要な機能は押さえているようだ。


写真7
エンジン始動は当然ながらインテリジェントキーとプッシュスイッチを使用する。


写真8
クラウンの伝統である足踏み式と手動リリースのパーキングブレーキ、と思ったらば、今回からプッシュ/プッシュタイプに格下げとなった。


写真9
メーターは当然ながら自光式だが、以前のようにパチンコ屋のネオン的下品さは無くなったのが救いだ。


写真10
最近のクルマには珍しくボンネット先端を確認できるために、大きなボディの割りには取り回しが良い。

最近のクルマ、特にクラウンクラスになれば普通は走行モードを持っていて、これをスポーツとかエコとかに切り替えることで、走行特性が大きく変わるが、今回のクラウンのモード切り替えは先代と同様にコンソール上に‥‥‥無い?それではとインパネを探してみるが、やはり見当たらない。もしかして、この機能を省略してしまったのか?? 結論を言えば、センタークラスターのエアコン調整用の画面の下にある「車両設定」というスイツチを押すと、エアコン用の画面から各種設定用に切り替わり、このひとつに走行モード切り替え用の画面があり、このディスプレイにあるECOとか POWERという表示をタッチすると切り替わるのだった(写真11)。これは、予備知識なしで単独試乗したらば、恐らく解らないだろうから、確認しておいて良かった。

そこで早速POWERと書かれた部分をタッチすると表示はブルーからグリーンに代わりモードが解ったことが判る(写真12)。このPOWERに入れた直後にシフトダウンされて回転計の針も上がるかと思ったが、何も起こらなかった。そういえば先日試乗したレクサスGS350 F Sportも、速そうなグレード名にも関わらず、モードをSPORTに変えてもシフトダウンはしなかったから、オヤジ御用達のクラウン ロイヤルサルーンでシフトダウンしなくれも当然といえば当然で、まあ、これがトヨタの方針なのだろう。それではPOWERは何が違うかといえば、スロットルレスポンスが多少良くなった気がする程度だった。これならばNORMALモードでも大して変わらないような気がする。続いて使えないので有名なECOに切り替えると、確かにスロットルレスポンスは悪いし、シフトダウンは中々起こらずに1,000rpmくらいまで回転が下がっても、そのままだったりするが、その割には意外と使い物になるというか、元来1,200rpmくらいの低回転でもユックリなら結構スムースに加速できるような特性だったから、のんびり走るにはそれ程気にならないのは、以前よりも設定が上手くなったのだろうか。


写真11
エアコン操作画面(タッチ式)下の”車両設定"スイッチ(黄→)を押すと画面が変わる(写真12)。


写真12
車両設定ボタンを押すと、走行モード切り替えなどの画面に変わる。

写真13
レクサス GS250やマークX 2.5と共通の4GR-FSEエンジンだが、エンジンカバーの色や形状はそれぞれ多少異なっている。

このように実用車として考えれば、2.5Lでも特にパワー不足とは感じない2.5ロイヤルサルーンだが、さてハンドリングはといえば、今回は特にハンドリングをテストするようなコースも時間も無かったが、途中2車線の地方道にあるいくつかのクーナーを回った時の感覚では、ロールもアンダーも少ないし、結構安定しているのはクラウンロイヤルというオヤジセダンの代表的車種だという先入観があったからかも知れないが、思いの他マトモだったのに驚いた。そして操舵感は中心付近の不感帯も適度だし、操舵力も軽いながらもレクサスGSのように軽すぎることもなく、勿論ステアリングインフォメーションを期待することは出来ないが、これまた普通の用途には丁度良いというフィーリングだった。そんな状況だから、最初に予想したように緊急時にグイッとステアリングを切っても思ったほど反応しなくてビビることも無さそうなのは、ある面では先代より進化したというか、先々代の初代ゼロクラウンに少し戻ったというか、まあ先代の反省をしっかりしたとも言える。

ブレーキについても、極々普通の鋳物の片押しキャリパーではあるけれど、きちんと仕事をしているようで、これまた一般的な用途では特に文句はないし、適度に軽くて良く効く。スペックをみるとロイヤルはリアがソリッドディスク、すなわちディスクローターに放熱用のフィンの無い、単なる鉄板(材質は鋳物だが)みたいやヤツだけれど、それ程の負荷でもなさそうなロイヤルならば、これで充分なのだろう。日本には速度無制限のアウトバーンが無いどころか、180km/hなら余裕で巡航できる国産車が多いのに未だに高速道路でも100q/hに制限されているし、新たに作った第2東名すらシロアリ官僚の横槍で100q/h制限にしてしまったという国だから、トヨタはその辺を考えて上手くコストダウンをしているということだ。


写真14
ロイヤルサルーンのタイヤは215/60R16と大人しいサイズが標準装着されている。


写真15
ブレーキはオーソドックスな鋳物の片押しキャリパーで、ディスクローターはフロントのみベンチレートタイプを採用し、リアはソリッドディスクとなる。

クラウンロイヤルなんて聞いただけでフワフワ、ユラユラの糞クルマ、なんて思っているア・ナ・タ。一度騙されたと思って試乗してみては如何でしょうか? もしかすると、自慢のE36は元より、E34よりも良かったりするかもしれませんぜ。勿論、ヤッパリ古くてもBMW、クラウンとは比較にならない良さがある、と感じれば、それはそれで目出度いことだから、貴重な経験をしたと思えば損はない筈。

な~んて偉そうなことを言って、お前自身はクラウンを買う気があるのか?と言われそだが、今回試乗したロイヤルサルーンの車両価格は409万円だから、同価格の輸入車ではBMW3シリーズ(450万円より)は買えないので、120i M Sport(397万円)がほぼ同額となる。ロイヤルサルーンよりも安いベースグレードのロイヤル(353万円)ならば120iのベースグレード(367万円)よりも安い訳で、ロイヤルの予算では116i M Sport(338万円)にナビ(25万円)を付けると‥‥‥やっぱり、予算が足りない。まあ、ロイヤルも実はナビが付いていないので、今の話には多少誇張というかインチキがあるが、それにしても買い得といったらクラウンが圧倒的だ。それで、乗り味に我慢出来るかといえば、自腹で買うのはやはり考えてしまうが、会社の経費で買って仕事に使う状況ならこれでも良いかな、なんて思っている。正直言って還暦を過ぎると疲れやすくなるから、何より楽なのが良い。まあ、シートの出来を考えると本当に楽かという疑問もあるが、運転自体は楽ちんだ。それに仕事によっては客先に120i M Sportなんかで乗り付けたらばアホだと思われるが、クラウンロイヤルなら何の問題もない。そう、仕事にはクラウンで決まりかな。