Porsche 981 Boxstar S (2012/12) 前編
   

ポルシェといえば911のことであり、ボクスターはボクスターでポルシェとは言わない、というのが重症のクルママニアの常識(?)と考えているが、いかがなモノだろうか? しかし、ちょっとクルマが好き、くらいの場合は911だろうが、ボクスターだろうが全てポルシェであり、下手をすればクーペのカレラよりもオープンのボクスターの方が高価だと思う、なんていうことも結構あるようだ。実際にボクスターは半分以上の部品が911と共通となっているから、一般人には区別が難しいのも納得できる。それなのに価格的には911の半値というのは何やら計算が合わないが、そんなことが許されてしまうのもポルシェならではだ。もしもトヨタがこんなことをやったらば、世間から総スカンを食らうだろう。とはいえ、マークX(2.5で約300万円)と基本部品を共有しているレクサスIS250(約400万円)は5割り増しで売っているが、こちらは別のブランドということもあるし、それでも流石に1.5倍くらいしか吹っ掛けてはいない。

それでは本題に入って、ボクスターの初代モデルである986が発売されたのは1996年で、廉価モデルとしては以前発売して成功に至らなかった914や924などと違い、外観的にも内容的にも911と多くの共通点を持っていたことから、ポルシェの廉価モデルとしては初の大成功となったのは皆さんご存知のとおりだ。しかし初期モデルは2.5L 206psという非力な点では所詮はプアーマンズポルシェ的ではあったが、2000年の後期モデルでは2.7L 220psにアップされ、またこの時には上級モデルで3.2L 252psを搭載するボクスターSも追加され、何とかポルシェブランドといえる最小限の動力性能を得たという感じだった。そして、2003年には更に改良が加えられ、評判の悪かったビニール製のリアウィンドウは熱線入りのガラス製になるなど、完成度という点では大いなる真価を遂げていった。正直言って、もしも986の中古車を購入しようという意志があるなら、極力2003年以降のモデルを選ぶべきだと思う。と、いっても2004年末には2代目ボクスターが発売されているから、986の最終型は数も少ないだろう。

2代目ボクスターである987が発売されたのは2004年末であり、大幅な改良が実施されたとは言えスタイルはキープコンセプトだし、プラットフォームなども全く新規ではなく、986の大幅改良だったようだ。それでも、初めて987に試乗した時にはその進化に驚いたのをハッキリと覚えている。そして、今回の981は、初代986からの主要コンポーネントは殆ど使用せず、完全な新設計ということだから16年ぶりにして初の全面変更という事になる。

ここで例によって新旧の違いを主要緒元で比較してみると

   

外形寸法の変化は、全長が4,340→4,374mmと+34mm、ホイールベースが2,415→2,475mmで、911の場合はホイールベースが100mmも延長されたが、ボクスターでは60mmに留まっている。エンジンはボクスターの場合排気量が2.9Lから2.7Lへとダウンされたが、最高出力は10ps増えて265psとなって、これは986のボクスターS(最終型で260ps)を完全に上回っている。そして、ボクスターSについては、エンジン排気量は3.4Lと変わらず最高出力は315psと5psのアップとなっているが、2.7L程には劇的でない。まあ、これ以上ボクスターSが強力になったらカレラ(3.4L 340ps)を脅かしてしまうという危険もあるから、この辺で止めているのだろう。

標準タイヤはボクスター/ボクスターSではそれぞれ17/18インチ→18/19インチとワンサイズづつ大きくなり、タイヤ外径も大きくなった。これはカレラ/カレラS の18/19インチ→19/20インチ と全く同じポリシーとなっている。そして、991同様に大きくなったタイヤ&ホイールを収める為にホイールアーチも大きくなり、結果的にウエストラインが高くなったのに対して全高は寧ろ低くなったから、サイドウィンドウが狭く見えるようなボクスターらしく無いスタイルになっているのも991と同様だ。

987までのボクスターは、ルーフを上げた時にルーフ全長が短いために何となくカッコ悪かったが、今回の981はソフトトップの後半がなだらかなラインとなり、よりクーペ的なフォルムとなったことが特徴的で、これで益々カレラカブリオレに近づいてしまった(写真6)。


写真1
一見して判る違いはリアフェンダー前端部のエアインテイク形状くらいで、後は並べてみないと分かり難い。


写真2
リアはフロント以上にキープコンセプトとなっている。


写真3
真正面から比べるとヘッドライトの形状が結構異なっているのが判る。


写真4
リアはテールランプ形状などが異るとはいえ、極々控えめな変更だ。ウエストラインが高くなった981は987のような異様な低さを感じられない。


写真5
もう一つの大きな違いは、クローズド時のルーフ形状で、新型はよりクーペ的になった。

写真6
全長が4,340→4,374mmと+34mm、ホイールベースが2,415→2,475mmで+60mm延長された。
これにより、981のオーバーハングはより短くなったが、写真で見れば991同様に切り詰められたのは、その殆どがフロントであることが判る。
また、991同様にウエストラインが上がったために987より腰高で車高が高く見えるが、実は全高は1,295→1,282と13mmも低くなっている。

981のヘッドライトは987と同様にボクスターのアイデンティティである三角形であり、これが911系の丸型との大きな識別点だったが、今回は更に丸みが少なくなり、より三角形に近くなった。ヘッドライトは今回の試乗車であるボクスターSにはバイキセノンライトが標準装備されているが、ポルシェ・ダイナミックライトシステム(PDLS)はオプション(12.4万円)となる。なお、ベースモデルであるボクスターではハロゲンライトが標準となりバイキセノンライトはPDLSとセットで27.6万円のオプションとなっていて、ライトのみのオプション装着は出来ないようだ。リアビューはテールライトの形状が変わったことが987との識別点だが、それとてもよ~く見ないと判らない程度の違いだ。しかしリアにはもう一つの大きな特徴があった。それはトランクリッドのエンブレムで従来は単に"Boxstar"とか"BoxstarS"と表記されていたのが、今回からはその上段に"PORSCHE"という文字がデカデカと追加された。なお、この違いも991と全く同じとなっている(写真10)。

エクステリア上でサイドビューの最大の識別点といえば、リアフェンダー前端にある大型のエアインテイクで、これはドアにエアの流れのための絞り込みを付けているなどカレラGTを彷彿させるダイナミックだデザインだ(写真9)。このソフトトップの形状変更と大型のサイドエアインテイクで、997の何となく安っぽい雰囲気が完全に払拭されて、991に迫る雰囲気、いや991以上の高性能を予感させるくらいに進化しているのは、987ユーザーから見るとちょっと悔しいかもしれない。

写真7
911系の丸型と異なり三角計のヘッドライトを持つボクスターだが、981ではより丸みが少なくなった。写真のボクスターSにはバイキセノンライトが標準となるが、ベースモデルのボクスターにはハロゲンヘッドライトが標準となる。

写真8
テールライトの形状も変わっているが一目で判る程ではない。


写真9
981の最大の特徴はカレラGT並の大型エアインテイクだ。


写真10
991と同様にリアには大きなPORSCHEのエンブレムが追加されている。

フロントのラッゲージコンパートメントは元々カレラとボクスターは共通のために、今回も981と991は同じだった(写真11)。そしてリアのトランクはというと、987に比べて少し狭くなっている(写真12)。長手方向が狭いのはルーフ後端を延長してカッコ良くなった代償だろう。まあ、この部分は元々大した物は入らないので、多少狭くなっても影響はないだろうが。

サイドウィンドウは従来通りに、ドアを開閉する時には少し下がり閉めた時点でルーフ側の隙間に喰い込む形で、サッシレスの欠点を補っているのは従来どおりだ(写真13)。ところで、この写真を整理している時に981のソフトトップには987のようなサイドウィンドウが食い込む部分のアルミ製の枠というか雨樋というか、その手の部品が無くなっている(写真14)のに気が付いた。987の雨樋を見た時には、流石にポルシェと感心したのだが、981ではこれが無いのでマルでフェアレディZのようになってしまった。何か理由があるのか、それともコストダウンなのか?


写真11
フロントラッゲージコンパートメントのスペースは一見変わらないように見えるが、987にはボックス内にも収納があるのに対して981ではそのボックスが無いためにスペースは減っている。


写真12
リアのトランクは元々大したスペースはないが、981は前後方向に狭くなっているのはソフトトップが後方に伸びた結果のようだ。


写真13
サイドウィンドウは閉めた後にガラスが上がってルーフ側に喰い込み、サッシレスの欠点を補っているのは従来通り。


写真14
987にあったソフトトップのフレームというか雨樋兼用(?)のアルミ製の枠(写真右の↓)は、なぜか981では省略されている。

987の標準シートがバックレストの角度調整のみが電動だったのに対して、981では上下も電動化された点が異なるが、シート表皮は987時代と変わりは無く、サイドに合成皮革を使ったパーシャルレザー仕上を標準シートに使用している。勿論ポルシェの事だから多くのオプションが用意されているが、これらを文章で表現しても判り辛いので下表に整理してみた。あれっ? この表って、カレラSの試乗記で使った物と全く同じでは? という疑問が湧くだろうが、そうです、新型の場合は911とボクスターは何とシートを完全に共通化したらしく、オプションの種類も価格も全く同じ! まあ、同じものだから価格が同じでも当然ではあるが。

 

注記:その後ボクスターの場合、標準のスポーツシートの表皮が本皮/人工皮革ではなく、アルカンターラ/人工皮革であることが判明したために、上記の表をここに訂正いたします。

という訳で、シートの解説に付いては991試乗記を参照願いたい……といいたいころだが、それでは不親切なので、カレラS試乗記より以下に転載する。

スポーツシート・プラスの場合、サイドサポートは標準に対してより固く深くなっている。また、メモリー付きの場合はシートポジションに加えてドアミラー、ステアリングホイール、ライト、ワイパー、クライメー トコントロール、ドアのロック、そしてメーターパネルの設定を記憶させることができる。更に上記シートにはシートヒーター(7.4万円)、シートベンチレーション(16.4万円)がオプション装着できるが、何故かこれらのオプション価格は991より少し安い。とはいえ、エレクトリックコントロールスポーツシートにシートヒーターとシートベンチレーションを装備するとシートのオプション代だけで63.8万円となる。

写真15
シートの形状は987から大きく変わってはいない。写真は981がオプションのエレクトリックコントロールスポーツシート、987が標準のアルカンターラ/レザレットのコンビシートだが、標準シートも悪くはない。


写真16
レザーシートを比べてみると、レザー表皮の微妙な材質や座面の継ぎ目などは異なっているが、987の場合は時期によっても違う可能性もあり、一概に比較はできないのがポルシェの難しさだ。


写真17
試乗車のレザーシートはオプションのシートベンチレーションが装着されていたので座面に通気穴が開いていた。


写真18
991と共通のシートはバックレストを前に倒せるが、リアシートの無いボクスターではあまり意味は無い。

981の内装色は標準として4色、スペシャル/ツートンとして2色、ナチュラルレザーに4色という選択肢がある。その中で今回試乗した981の内装色はルクソールベージュという明るい、しかし汚れやすそうな色で、これは前回試乗したカレラSと同じだった。ポルシェの試乗車の内容というのは、ディーラーが選択するのではなく、輸入元が各種の状況を考慮して仕様を決めて配布されるということだから、981/991ではこのベージュをメインにアピールしたいのかと思ったが、実は単に最初の輸入ロットだっただけかも知れない。

981のインパネデザインは991とほぼ同一だが、例によって天板から逆スラントでドライバー側に降りてくる911系に対して、ボクスターはなだらかに下降しているのは先代と同様だ。そして、新型のコンソールはPanameraから始まったセンタークラスターの高い位置から大きく傾斜して繋がっているデザインとなっていて、よく見ればこのナビからコンソールにかけては991と同じで、おそらく同じ部品が使われているであろうと思われる。

写真19-1
981のインパネはPanameraに始まる新世代ポルシェの流れに従っている。そして基本的なスタンスは991と共通しているし、共通部品も多そうだ。

写真19-2
2代目987のインパネは初代986から大幅に進化したと思ったが、こうして981と比べてみると、それでも未だ古臭い。


写真20
この角度からは991と同様にカレラGTに始まりパナメーラで量産化された大きく傾斜したコンソールのデザインが解り易い。

写真21
センタークラスターのデザインも991と同様に987に対して全て変更になっている。インパネは先代と同様に911系の逆スラントとは異なり、上部からドライバーに向かって傾斜している。またスポーツクロノのストップウォッチの位置も少し低くなった。

写真22
987ではコンソール上のPDKセレクターの手前には手動式の駐車ブレーキレバーがあるだけだったが、981ではスイッチがズラっと並んでいるのも911系(991)と同様だ。そして、パーキングブレーキも電気式となった。

981のセンタークラスターというよりも、寧ろコンソール前端というべき位置にあるエアコンコントロールパネルは991と共通で、ドライバーからみて約45°の角度となるディスプレイは987の垂直な取り付けに対して見易さで大いに勝っているのも991と同じだ(写真23)。987ではセンタークラスター下端に強引に並べられたPASMやスポーツモードなどのスイッチ類は981ではコンソール上のPDKセレクター後部にズラリと並んだスイッチ郡に配置されていて見易さでは大いに向上したのも、これまた991と同じで、要するに新型のセンタークラスター~コンソールについてはカレラ(991)とボクスター(981)で全く同じ部品を使用していることになる(写真24)。986ではコンソール上のPDKセレクターの手前には手動式の駐車ブレーキレバーがあるだけだったが、981ではスイッチがズラっと並んでいるのも911系(991)と同様だ。そして、パーキングブレーキも電気式となった。


写真23
オートエアコンのコントロールパネルの配置は全く異なっていて 981の場合はセンタークラスターというよりも、コンソール前端というべき位置に配置されている。そしてこれも991と同じ。


写真24
987ではセンタークラスターの下端にあって見辛いし使い辛かった走行関係のスイッチ類は、981ではコンソール上にまとめてズラッと並ぶスイッチエリアに配している。そしてこのスイッチも基本的に991と同じものだ。

先代987にも装備されていたカップホルダーは、当然ながらな987にも装備されていて、その内容は991と同じものだ(写真25)。そして、ここ日本では絶対に必要となるETCユニットも991同様にグローブボックスに仕込んである(写真26)。ただし、987の場合はルームミラー付け根のセンサーユニットに小さいインジケーターがあり、ETCがスタンバイの場合はブルーのLEDが点灯することでドライバーが確認できたが、今回のETCユニットにはそのような機能は無かったから、走行中にETCがスタンバイしているかを確認する方法が判らない。いや、もしかしたら何かがあるのかもしれないが……。

ソフトトップの開閉方法は987までの手動でのロック/解除(写真27)から、981では自動ロックとなったために、操作は開閉スイッチのみとなった(写真29)。その開閉スイッチも987はコンソール後部の判り辛く操作性も悪いものから、コンソール上の集中スイッチ中央部の操作しやすい場所に移動された(写真28)。なお、このスイッチ位置は991カレラの場合にはサンルーフの開閉スイッチとなる。


写真25
997と基本的に同じ構造のカップホルダー。 991と同様にポルシェブランドにしては剛性はなく、弱そうなのが気になる。


写真26
グローブボックス内に配置されているETCユニット。これも991と同じだ。

写真27
987はルーフをオープンするには、先ず手動のロックを外す必要がある。方法はロックボタンAを押してからレバーBを上に上げるとロックが外れる。


写真28
電動ルーフの開閉スイッチの位置は987ではコンソール後端の解りづらい位置にあったが、981ではコンソール上のスイッチボックス中央となった。


写真29
981の電動ソフトトップは987の手動と異なりロックは自動化された。

981になって大きく変わったのはインテリアデザイン、取り分けドアのインナートリムは全く雰囲気が変わってしまったのは991と997の関係と全く同じで、987ではドア側面に配置されていたサイドウィンドウのスイッチやサイドウィンドウ先端に配置されたサイドミラーの調整スイッチなどは、981ではドア側のアームレストに組み込まれたことで、世間の常識と同じになったのも991と同じだ(写真30)。

その新しいパワーウィンドウスイッチを見ると、先端に何やら今ままでのポルシェとは違うスイッチがあるが、実はこれはサイドミラーの折り畳み用で、なんと遂にボクスターも(勿論カレラも)世間並みにミラーが畳めるようになったということだ(写真32、33)。


写真30
911系と同様に987時代は価格の割りにチャチだったドアのインナートリムは、981では値段相応の高級感を醸し出している。


写真31
911系と同様に987ではドアのインナートリムに付けたれていたパワーウィンドウスイッチは981ではアームレストに組み込まれ、 このアームレストには電動ミラーの調整スイッチも組み込まれている。なお、987ではミラー調整スイッチはサイドウィンドウ先端に小さいパネル上にあり、言い換えれば電動ミラーの付け根にスイッチがあったわけで、これは本来理に適っているのだが・・・・・・。


写真32
ドアアームレストのミラー調整スイッチには見慣れないマークのスイッチがあり、これはもしかして電動でミラーが畳めるのか?→→


写真33
今回から、やっとのことで人並みにミラーが畳めるようになった。

今回の試乗車である981ボクスターSは、前回の991カレラS程にはオプション満載ではなかった(といってもシートだけで60万円以上のオプションがついていた)が、それは今まで見てきた内装の場合で、走行に関する装備は結構オプションが装着されていたようだ。これについては実際の試乗の場面で説明することにして、この続きは後編にて。

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