SUBARU BRZ R AT (2012/5) 後編

 

エンジンのスタートはSグレードがインテリジェントキーとプッシュボタンであるのに対して、試乗車のRはステアリングコラム横のキーホールに金属製のキーを差し込んで捻るという、今時では軽自動車でも珍しくなった方法で、これは86Gでも同様だった(写真21)。エンジンが掛かった瞬間にスポーティーなエンジン音が一瞬ヴォンとブリッピングしてからアイドリングに移るが、この時は何故か最初に乗ったBRZ S(MT)の方が迫力があったように思うが、もしかしたら4回目の試乗で慣れてしまい、感動も薄れたこともあるかもしれない。

本来は86 Gと同じ地味というかチャチなベースプレートやノブが付いている筈のRのATセレクターであるが、オプションを装着している為に上級のSと殆ど同じATセレクター(写真22)をDに入る。86では振動を感じたがBRZはというと、どうも86よりも振動が少ないような気がする。パーキングブレーキをリリースしてブレーキペダルを放すと、僅かにクリープするのは86と変わりない。86の時はスタート時のトルコンスリップが多くて飛び出し気味になったこともあり、今回は慎重にアクセルペダルを踏んで駐車場内を移動する。その後一般道を右折して本線に入るが、この時も飛び出さないように気をつけながらスタードさせる。そして、結果は特に飛び出しもなく、結構普通にユックリと加速するし、最初に少し踏めば多少のトルコンスリップは感じるものの、特に飛び出したりする気配もなかった。その後数分間はスタート時のスリップと唐突な繋がりに気を配りながら走ってみたが、特に嫌な兆候は出なかった。う〜ん、86 G ATの試乗で感じた飛び出しは何だったのだろう。その後も機会を見ては意地の悪い踏み方などをやってみたが、特に問題の現象は出なかった。


写真 21
インテリジェントキーとボタンによるSに対して、オーソドックスなキーを使うRのエンジン始動は、86GTとGの関係と同じだ。

写真 22-1
Sグレードではシフトノブやブーツ、パーキングブレーキレバーなどに本皮とレッドステッチが使用されている。
試乗車はオプション装着のためにRグレードでもSと同じ装備になっている。
写真 22-2
BRZ Rは本来86 Gと同じ地味というかチャチな装備となる。そして86 GTではレッドインテリアを選択すると、真っ赤なシフトノブやパーキングブレーキレバーとなる。

次に走行モードをSPORT(写真23)にしてみると、当然ながらアクセルレスポンスは突然敏感になる。この状況は86と大きな違いは無かったが、普通に走行していてもやはり86よりもトルコンスリップが少ないように感じる。86では巡航中にアクセルを踏むと回転計の針が上がるが、今回のBRZは殆どスリップせずにユックリと加速し、更にアクセルを強く踏むと一瞬遅れてキックダウンされる。

今度は2/3スロットルくらいで加速してみると、この時のシフトアップポイントはNORMALが4,000rpmでSPORTだと5,000rpmくらいになる。今度はSPORTでフルスロットルを踏んでみると、回転計の針がドンドンと上昇して、6,000rpmくらいで12時位置の小さなLEDが赤く光り、やがてレッドゾーン手前の7,000rpmくらいでシフトアップされた。7,000rpmまで回した時の音は4,000rpmくらいからビーンという共振音が益々増えてきて、これが例のサウンドシステムなのか、と思いながら更に回転が上がっていく。この段階で今回気が付いたのは水平対向のスポーツエンジンという記号からすれば、期待するほどに高回転域でのスムースさや、何処までもグングンと上がっていくような勢いがイマイチ感じられなかった。試乗車のオドメーターは2,000km強を表示していたから、マッ更のエンジンで当たりが全く付いていないとも言えない。勿論、個人オーナーが入念に慣らして、5,000kmとか1万kmくらい走行したクルマでないと、本当の事は判らないのだが、それを言ったら他車だって同じ条件だ。そうはいっても、車両価格が上級モデルでも300万円くらいなのだから、それ以上を望むほうが間違いとも言えるが・・・・。


写真23
試乗車はオプション装着のために、上級グレードのSと同じシルバーのパネル&スイッチが付いていた。
この走行モード切替はATのみで、MTには無い。

 


写真24
赤いステッチの入った本皮巻きステアリングホイールとパドルスイッチはSグレードではオプション。


写真25
BRZ Rのペダルは@が標準だが、試乗車にはオプションのAがついていた。
BRZ Sには標準でAが付いている。
86の場合も同様で、GTがAであり、Gはオプションとなる。

オートマモード(Dレンジ)の次には、マニュアルモード(Mレンジ)を使ってみる。試乗車は事実上のベースグレードであるRだからランクは86 Gと同等だが、オプションのスポーツインテリアパッケージ(3.1万円)が装着されていたために、ステアリングにパドルシフトが装着されていた。そこで、走行モードはSPORTにして、40km/h、1,400rpmから左のパドルを引くと極々短いタイムラグ(感覚的には0.2秒とか、そんなものだろう)で1,700rpmまで上がり、もう一度パドルを引くと2,200rpmまで上がり、この時のレスポンスも充分に満足できる範囲だった。とはいえ、新型911のPDKのように、MT一筋という狂信的なマニアでも、これならば2ペダルも有りかなぁ、と思う程には出来は良くない。まあ、DCTタイプではなく、トルコンATである(しかも車両価格は一桁高い)という時点で、そこまでの要求は酷ではある。次にシフトアップをやってみる。3,000rpmから右のパドルを引くとと、回転計の針はストンっというよりも、ピッと一瞬で2,000+rpmまで下がったので、更にもう一回右のパドルを引くと、今度は1,700rpmまで、またまたピッと針が下がったが、この回転計の動作はチョッと不自然で、何やら電子的に演出しているのではないか、と疑いたくなってしまう。まあ、そんなことはとも角、レスポンスはトルコンATとしては充分に速いと部類ではある。

ところで、86 Gでは速度を確認するには、メータークラスター左側の小さくて細かい目盛の速度計しか手立ては無かったが、BRZの場合は86Gに相当するRでもデジタル速度計が装備されているのは、実にありがたい。まあ、この件は既に何度も指摘してきたが、この一点だけでもBRZを選ぶ価値は充分にある(写真24〜25)。


写真24
BRZは全グレードでメーターが共通となっている。回転計の外枠がシルバーなのは単なる雰囲気の問題だが、デジタル速度計が組み込まれるのは非常に有り難い。

写真 25
86ではGTにならないとデジタル速度計が付かない。
この面ではスバルの方が多少価格が高いとは言え、安全性に関わる機器に手を抜かない姿勢は評価できる。
逆にトヨタは・・・・・?

写真26
既に見慣れた2.0L 水平対向4気筒のFA20エンジン。今のところはBRZも86も、このエンジンのみ。
 

今回の試乗車はATであるとともに、中間グレードのRであることから、前回試乗した上級グレードのSとの違いを試す良いチャンスだと思った訳で、何がチャンスかといえばSの17インチタイヤに対してRは16インチが装着されていて、扁平率もSの45に対して55だから乗り心地やレスポンスの違いを試すことができる。と、勇んで試乗車の前に行ったらば、何と試乗車にはオプションの17インチが装着されていた為に、タイヤやブレーキなどがSと同じ仕様になっていた、という話は既に前編の冒頭で触れたが、試乗した結果も当然ながらステアリングのレスポンスやハンドリングの感じも、残念ながら(?)Sと同じだった。まあ、そりゃ、そうだろう。ただし、駆動トルクがトルコンスリップで多少ダイレクト感に乏しいことが、コーナリング中の微妙なトルクによる挙動変化をも緩慢にしているような感じを何となく感じたが、まあ、そんな程度だった。そして、マニュアルモードで3〜4速くらいを使いながらのコーナーリングは、MTほどでは無いが楽しさも多少あったから、家庭の事情でMTを買えなくてもそれ程悲観する事はない・・・・・と、言い限たいのだが・・・・・・まあ、感じ方は人それぞれかと。

ブレーキのフィーリングも前回乗ったSと同様に、遊びが少なくカチッとしていて結構踏力を必要とするが、踏めば踏んだだけのブレーキ力は発生するから、スポーツ志向のドライバーならば苦にならないだろう。しかし、普通のドライバーには効きは悪いと判断されそうで、特にATの場合はこの心配がある。ところで、BRZの17インチは16インチに対してフロントのディスクローターの径が大きいことと、リアは17インチのベンチレーテッドディスクに対して、16インチはソリッドディスクとなるなどの違いがある。ソリッドディスクは一枚の板を丸く切ったような形状だから厚みは精々6〜10mm程度と薄く、これに対してベンチレーテッドタイプは真ん中にフィンが入っているために厚みが30mm以上あるため、両者のキャリパーは当然異なるモノが使われる。

ところで、BRZの17インチ系のフロントにはドイツのユーリッド製のパッドが標準装着されているようだ。この銘柄はスバルとしてはSTIに使っていたもので、スポーツパッド系が得意で、ポルシェにも純正採用されている。んっ、ポルシェ?そうだ、911のパッドは確かユーリッド製だったような。カレラSと似た効き味は、パッドが原因ということは充分に考えられる。


写真29
低い着座姿勢の割には前方視界は悪くない。ボンネットの峰も認識できる。


写真30
後方視界の充分な確保と、前方視界の遮断防止のためにルームミラーはフレームレスとされた。


写真31
試乗車はオプション(17インチパフォーマンスパッケージ)を装備したいたので、上級の”S”と同じ215/45R17タイヤと17×7Jホイールが装備されていた。なお、86 GTとの違いはセンターのロゴマークがトヨタの牡牛マークかスバルの6連星かの違いのみだ。

 


写真32
オプションで17インチタイヤ装着のために、ブレーキも上級モデルと同じで前後ともベンチレッテッドタイプを使用している。

 

と、いうことで、ホイール径の違いを試すという目論見は達成できなかったが、もう一つの目的であるATのフィーリングという面では、前回試乗た86 Gで疑問となった過大なトルコンスリップとヤタラと飛び出すような特性は、今回のBRZでは全く問題がなかった。そうなると、86がBRZに対して別の制御プログラムで、スロットルレスポンスを過激に見せるような素人騙しの小技を使っていたのか、それとも試乗車として初期の生産ロットのためにトルコンを含めたパワートレインがイマイチだったのか? そして、もう一つ思い浮かぶのは、試乗したドライバーの多くが目茶なベタ踏みを繰り返したために、電制スロットルの学習機能が最も過激なモードになっているのか? これらの仮定はどれも有りそうなので判断に迷ってしまう。要するに今現在では結論は出ないということだ。

しかし、BRZの場合は少し高いとは言え、排気管はRでも太く光るマフラーカッターや、デジタル速度計など、これだけは外せないというものは、ちゃあんと標準装備されている。それだけでも、マニアなら86ではなくBRZを選ぶのが正解のように思うが、物事はそう簡単ではない。クルマとしてはBRZの方が良さそうだとは言っても、実際の商談になったら、無愛想だったり、オタクっぽかったり、しかも全然売る気が無いようなセールスが多い、というイメージの販売網と、社員教育はしっかりしていて長く付き合っていけそうな販売網のどちらを選ぶか、という問題もある。少なくとも、クラウンを売っている店なら良質のセールスマンにあたる確立が高いし、マークXのお店でもまあ問題ないだろう。

う〜ん、中々むずかしい。