BMW 523i High Line Package (2.0L Turbo) (2011/12) 後編


ATセレクター手前の(P)と表示されたスイッチを押すとパーキングブレーキが解除される。この手の電気式パーキングブレーキの場合、レバー式と同様と考えて引いてON、押してOFFと覚えれば良いだろう。駐車場内をゆっくりと移動した時の印象は、結構トルクフルな感じだ。 国道に出てハーフスロットルで加速をするが、この瞬間から2.5Lとは全く違うフィーリングを感じる。 6気筒2.5Lはアンダーパワーの傾向を少しでも出さないようにと、意外なほどに高回転域を使うシフトスケジュールと、世界的に定評のあるBMWの直6で、しかも2.5Lという少なめの排気量から、 ビュンビュンと回してシルキーシックスを堪能しまくるような設定だった。 ところが、今回の2.0Lターボは、先ずシフトスケジュールが極端に低回転を使うような設定になっていることと、ターボによるタイムラグが明らかに感じられるから、 ATの設定とエンジン特性の双方が重なって、ますますレスポンスが悪い印象となる。 なお、ここまではどちらも走行モード(正式にはドライビング・パフォーマンス・コントロール)をCOMFORTとしている。

第一印象は良くないが、そのままで流れに乗って走ってみる。速度は50〜60km/h程度で巡航していて、回転計の針は1,200から1,500rpmくらいを指している。この状態では少しくらいアクセルを踏んだところで、ほとんど反応は無い。 エンジンのスペックでは1,250rpmから既に最大トルクとなるようだから、この状態でもほぼ最大トルク域に入っているのだが、何しろギアの選択が高すぎて、駆動トルクが出ない状態だ。 5シリーズの場合、Dレンジでは選択しているギアポジションが表示されないので、一体何速なのかは判らないが後ほど計算してところでは6速だったようだ。因みに6気筒とは8ATのギア比は全く同だが、ファイナルは6気筒の3.385に対して4気筒は3.231と幾分ハイギアードで、その分同じギア位置ならば回転数は低めになる。

そこで今度は「これでもか」と踏みつけると、やや時間を置いてシフトダウンが起こり、エンジンの回転数が2,000rpmくらいまでモアーっと上がる。この時の速度は50km/hだったから計算上では4速 となり、結果的に2段のシフトダウンが行われた事になる。 それでも、3,000rpmくらいまで回転が上がればそれから先は安定した過給が得られるのか、まあまあ我慢できる程度の加速を始めるが、そうなるまでの時間はタイムラグなんていう生易しいものではい。 とはいえ、これは以前乗った前期型(5AT)のメルセデスE250(1.8Lターボ)と似ていて、E250よりミッションの段数が多いことで、ギア比が多少は接近しているから少しはマシかというところだ。E250は現在7AT化されており、ターボの過給プログラムも改善されているだろうから、最新型が523iと比べてどうなのかは知りたいところだ。
 

写真 21
右の回転計の下の燃費計はカラー液晶表示なのだろうか、イグニッションオンで表示される。
この燃費計は6気筒と4気筒で何故か目盛の向きが違う。  

走行モードがCOMFORTでは、まあこんなモノだろうといことで、今度は走行中にSPORTに切り替え てみると一瞬遅れて1段シフトダウンされたのだろうか、1,200rpm程度だった巡航時の回転数は、500〜800rpmくらいは上昇し、エンジンのレスポンスも幾分かマシになる。 ハッキリ言って、本格的なスポーツカーを購入する家庭環境にはないために、少しでもスポーツカーに近くて、しかも実用的な高級オーナーセダンとして購入するようなタイプのユーザーだったら、新523iに乗るときは常にSPORTに入れっ放しでも良いような気がする。 次に発進加速を試す為にチャンスを狙っていたが、先頭で赤信号に引っかかるということが無いままに、バイパスから外れて一般道に入ることになった。500mも走ったところで左折している前のクルマが、自転車を避ける為に一時停止状態となり、こちらも一旦停止したため、 前車の左折が完了して前が空いてからフルスロットルで発進してみた。 この時の加速感は、特に感動もないが必要最小限は確保されていて、回転計の針は追うのが大変なほど速くはないが、それ程遅くもない速度で上昇し、6,000rpm程で2速にシフトアップされた。この加速感は6気筒の523iと比べればほぼ同等、いや多少速いくらいかもしれない。 ゼロ発進の場合は最初から全開で加速するから、スロットルレスポンスの悪さというか、加速を始めてしまえばターボラグの影響を殆ど受けないために、自然吸気の6気筒版に対してそれ程のハンディがでない ことになる。

次に同じくSPORTモードで、定速巡航からキックダウンによるシフトダウンと加速を試してみる。速度は同じく50km/h程度で、この時の回転計は1,600rpmを指している。ここでスロットルペダルを思いっきり踏んでみると、COMFORTよりは大分素早いが、それでも決して速いとは言えないタイミングでシフトダウンが起こり、それからクルマは加速に入る。 ゼロ発進でも同様だったが、新型4気筒ターボエンジンの吹け上がりは4気筒ということを考慮すれば文句無くスムースで、6,000rpmまで何のストレスも無しに吹け上がる。しかし、加速時の官能的なエンジン音と、絹のような滑らかさといわれるくらいスムースな6気筒搭載車と比べると、当然ながら4気筒の音だし、スムースさだって完全バランスの直列6気筒と比べるのは可哀想というものだ。 まあ、それは最初から想像はしていたから、これはこういう物だと居直るしかない。
 


写真 22
ATセレクター右横のドライビング・パフォーマンス・コントロールのモード切替スイッチ。
 

 


写真 23
モード切替時に一時的にセンターのオンボードモニターに表示される。
 

 

そして今度はSPORT+モードを試してみる。SPORTモードで巡航中にSPORT+に切り替えると、回転数は殆ど変らないしシフトダウンも起こらなかったが、これは速度 などの条件にもより、場合によっては一段シフトダウンされることもあるが、概ねシフトスケジュールに関しては大きな変りは無かった。それでは、このSPORT+で何が変化するかといえば、ステアリングレスポンスであり、これは後ほど ハンドリングの項目で詳しく説明する。

5シリーズには今回からCOMFORTモードよりも更に燃費重視のECO PROモードというのがある。まあ、結果は想像がつくので乗り気はしないがモード切替をしてみると、巡航時の回転数は1,100〜1,200くらいまで下がって、案の定スロットルレスポンスも恐ろしく悪く、すこしくらい踏んでも反応しないし、スロットルペダルを蹴飛ばすように踏んづけてもシフ トダウンする気配すらない。 それでも踏み続けるとかすれば、何らかの反応をするのかもしれないが、もう苛々してやってられないので、即座にこのモードでの走行は中止した。

ここで、再度6気筒版との比較をまとめると、新型は適度な動力性能ではあるが、何しろスロットルレスポンスが自然吸気の6気筒と比べると悪いのは当然で、どんなに頑張ってもターボラグはゼロにはならない。そして、そのターボラグが原因だろうか、ATミッションのレスポンスも特にシフトダウンの時はエンジンのレスポンスに合わせて動作を遅らせているような感じがする。 更に6気筒版はシフトプログラムもチョッとスロットルを踏むと即座に反応してシフトダウンして絶対的なトルク不足をカバーするような設定で、実にスポーティーというか気分が良かったのだが、新型では全く違うクルマというくらいに変ってしまった。
 


写真24
当然ながら前後方向に短い直4 2.0Lは、重量バランスでもメリットがありそうだが・・・・。  


写真25
ボンネット裏面の防音材はちゃあんと金を掛けている。
 

 


写真26
エンジンの隙間からもターボユニットは見えない。
 

 

今回のMCで5シリーズにもアイドリングストップ機能が搭載された。試乗中は邪魔臭いのでオフにしておいたが、一通りの走行が終わって帰路に着く時に試してみた。この機能はデフォルトがオンで不要な時はスタート/ストップスイッチの下にあるスイッチを押すことで一回ことにオン/オフを繰り返し、機能OFF時にはインジケーターが点灯する (写真27)。その後は特に意識せずに走行していたが、やがて信号待ちで停止したら多少の時間を置いてエンジンがストンっと止まった。最初は発進時に極普通にブレーキからアクセルへとペダルを踏み代えると、セルモーターの音はグーくらいでエンジンが始動した ので、アクセルに足を載せた時には既にエンジンは始動していた。次に意地悪く極力速い踏み代えをやってみたら、アクセルを踏んだ段階では未だエンジンが始動していなかったが、一瞬遅れてエンジンが掛かりその一瞬後に車はスムースに前進した。すなわち、エンジン始動時にアクセルペダルを踏んでいても、急に飛び出すことは無いように電子的に制御されているようだった。これで少なくともヴィッツのよう に飛び出しで青くなる事はないが、まあ考えて見れば120万円のビィッツと600万円の523iでは金のかけかたが違うのは当然だった。
 


写真27
アイドリングストップ機能のオフスイッチ(黄←)。

 


写真28
アイドリングストップの表示は燃費計の部分に表示される。
 

 

動力性能と共に関心があるのは操舵性で、特に大きな6気筒から小さな4気筒への変更によるフロント重量の減少は、より軽快なハンドリングをもたらすのではないか、という期待がある。 6気筒の523iの車両重量は1,770kgで、これに対して4気筒ターボは1,750kgとその差は僅かに20kgしかないが、ボンネットを開けてみると、こんなエンジンで天下の5シリーズを動かそうなんてバチがあたるんじゃぁないか、なんて思ってしまうくらいにコンパクトで、しかも短い分だけ後方に搭載されていて、6気筒に比べて如何にも重量配分が良さそうに見えるから (写真24)、ある面期待をしながら乗ってみた。先ずは巡航時のステアリングレスポンスだが、例の走行モードをCOMFORTにしていても極々自然で適度に不感帯はあるがレスポンスは充分で あり、ステアリングの遅れでイラ付いたり、運転が辛らかったりすることはない。次にSPORTに切り替えると少しクイックになって、これは中々具合が良い。そしてSPORT+はといえば更にクリック方向にいくのだが、動力性能と同様に多少のアップくらいで 、少なくとも恐ろしいくらいにクイックになるという事は無い。 5シリーズといえば、先代E60の発売と同時に日本向けには標準装着となったアクティブステアリングが、初期のものはヤタラとクイックで普通のドライバーには危険なんじゃあないか、と思うくらいだった。何しろ、コーナーでの操舵角はF1マシン並だというくらいに、本当に少し切るだけでコーナーリングが可能だった。しかし、そのE60も年毎に穏やかになって、最終モデルでは特に指摘されなければ気が付かない程度まで自然になっていた。まあ、その代わり一部のマニアは嘆いたかもしれないが。 そして、F10ではインテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(前後輪統合制御ステアリング・システム)という長い名前のシステムとなっていて、これは4輪操舵で60km/hを境に特性が変る。詳細は既に523i(6気筒)の試乗記で解説したのでそちらをご覧頂きたいが、これは例の特別編なので、毒舌が嫌いな方にはお勧めいたしません。なお、今回はエンジンの特性を試すのに神経を集中していた事もあり、特に 4輪操舵による違和感を感じたりする事はなかった。

今回は時間に余裕があったために何時もの”秘密のハンドリングコース”に行ってみた。このコースは5シリーズでは528iとアルピナB5(これを5シリーズと言って良いのか 疑問もあるが)でも走っている。 ATをマニュアルにして走行モードは勿論SPORTとし、4速主体で最初のコーナーに入っていく。同じコースを528i(当然6気筒版)で走った時は驚く程のニュートラルスエアで本格的なスポーツカーも真っ青のコーナーリング速度で旋回できたが、今度の523iはそれとは少し違うようだ。確かにアンダーステアは弱くてコーナーリング速度も速いのだが、 前回の528i程のニュートラル感が無いのはどういう訳だろうか。 そして6気筒より本来フロントが軽いはずの試乗車だが、528iの方が軽快だったのは気のせいだろうか?勿論、今回の523iだって決して操舵性が悪いわけではないのだが、如何してもターボラグを感じてしまうエンジンと共に、全てが微妙にレスポンス の悪さを感じることが、どうしても気になってしまう。

ブレーキについては直6版と全く同じフィーリングでホイールを覗くと目に入るキャリパーやブレーキディスクも変わりがないようだ。
 


写真29
5シリーズは3シリーズ以上に高めの着座位置だから、ボンネットの先端も確認できる。
 

 


写真30
ブレーキキャリパーとディスクは6気筒から変更は無さそうだ。
 

 

歴代5シリーズのベースモデル(一般的には525iと呼ばれていた時期が長い)は如何してもパワー不足で、5シリーズの車格からいって少し物足りないところがあり、そこでもうひと頑張りして530iくらいは欲しいが予算が・・・・・なんて悩んだものだった。 ところが、F10ではベースモデルが2.5Lの523iとなり、車名からして如何にもパワー不足の感があったのだが、イザ試乗してみるとあっと驚くハイレスポンスと新型8ATによるきめ細かいシフトとNORMALモードでも高回転側を積極的に使うシフトスケジュール により、これで充分ではないかと思わせるようなクルマだった。歴代5シリーズのベースモデルでこれほどまでに満足感の高いモデルは初めてだったが、逆に言えば3Lの528iとの差が判らないし、その価格差を考えたらば523iがベストバイとなってしまった。 これはユーザーにとっては実に嬉しい限りだが、商売としては決して得策ではないのではないか。言ってみればポルシェの場合だったらカレラと同等の性能を持つケイマンを発売したようなもので、これを判っているからこそポルシェはワザとケイマンの性能を落としている訳で、良心的と商売上手の妥協点というのは営利企業であるからには必要なのかもしれない。

話を5シリーズに戻すと、ベースモデルとしての出来の良さが歴代最高だった523iは僅か1年ほどで、ベースモデルらしくイマイチの4気筒版にスイッチしてしまった。まあ、BMWとして4気筒ターボの5シリーズという量産車としては始めてのチャレンジだから、将来的には間違いなく改良されていくだろうが、少なくとも1〜2年は様子見を決め込むのが良さそうだ。 そして、もしも馴染みのディーラーに6気筒の523iや528iが売れ残っていたら、速攻で買うのが得策かもしれない。新車がなければ程度の良いアプルーブドカーという手もある。えっ、スゴーイ値引き6気筒モデルがあって、速攻で買おうとしたのだけれど、財務大臣の許可が下りなかった、って。だ っから女は駄目なんだ。あれっ、もしかして、そこで怒っているのは女性の読者??

         
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