Toyota Land Cruiser Prado TZ (2011/2) 後編


エンジンの始動はFJクルーザー がコンベンショナルな金属キーを使用したのに比べて、プラドは文化的なインテリジェントキーとスタートスイッチを使用する(写真31)。プラドのエンジンはFJクルーザーと全く同一だが、アイドリング中のエンジン音は気のせいかプラドの方が静かなような気がする。この辺はヘビーディーティーなFJクルーザーと幾分コンフォートなプラドの性格の違いだろうか。 ミッションも基本的にはFJクルーザーと共通の筈だが、FJクルーザーが今では珍しいジグザグゲート式ATセレクターを採用しているのに対して、プラドは最新の直線式で、ポジションもP→N→R→Dで、Dから右に倒してスポーツモードになり、押してアップ、引いてダウンのマニュアルモードにもなるという、最近流行のティプトロタイプとなっている。 また、4WDモードについては、 FJクルーザーがもう一本のノブで2/4WDの切り替えや副変速機のLo/Hiを選択するという、これまたコンベンショナルで確実な方法を採用しているのに対して、プラドはセンタークラスター下端のダイヤルとプッシュスイッチ(写真35)を使用する。この面でも、両車の性格の違いを反映している。

走り出した瞬間に感じるのは、FJクルーザーと同様に強力なトルク感だ。それは、FJクルーザーと同じエンジンとシャーシを持っているのだから当然でもあるが、FJクルーザーの車体重量が 1,940kgに対してプラド(4.0TZ)は2,160kgとその差は220kgもある。 その割にはプラドの動力性能も中々だと思っていたが、どうやらプラドはFJクルーザーに対して常用回転数が高めの設定になっているようだ。 実際に巡航中に多少の上り坂など少しでも負荷がかかり、アクセルを少し踏み込んだ状態での回転計の針は2,000〜2,500rpmくらいを指している。そして、アクセルもオフに近い完全な巡航状態で、やっと 1,200rpm程度になり、この時にはメータークラスター内にグリーンのECOマークが点灯する。
それにしても、巡航中の速度とギアポジションの関係から、どうも駆動系がFJクルーザーよりもローギアードのような気がする。そこで、後ほどギア比を調べてみたが、5速ATのギア比も最終減速比も両車は同じ。 ところが、標準装備のタイヤがFJクルーザーの265/70R17(タイヤ径802.8mm)に対してプラドは265/65R17(タイヤ径723.3mm)で、プラドはFJクルーザーに対して約10%程エンジン回転数が上昇することになる。 と、文章で書いても判り辛いと思うので以下の表にまとめてみた。

  1 ギア比較            
      ギア       オーバーオール*
    LAND
CRUISER
 PRADO
FJ
CRUISER
LAND
CRUISER
200
LEXUS
RX350
LAND
CRUISER
 PRADO
FJ
CRUISER
LAND
CRUISER
200
LEXUS
RX350
    5AT 5AT 6AT 6AT 5AT 5AT 6AT 6AT
  1 3.520 3.520 3.333 3.333 13.12 13.12 14.33 14.51
  2 2.042 2.042 1.960 1.900 7.61 7.61 8.43 8.36
  3 1.400 1.400 1.353 1.420 5.22 5.22 5.82 6.25
  4 1.000 1.000 1.000 1.000 3.73 3.73 4.30 4.40
  5 0.716 0.716 0.728 0.713 2.67 2.67 3.13 2.67
  6 - - 0.588 0.608 - - 2.53 -
  R 3.224 3.224 3.061 3.938 12.02 12.02 13.16 17.32
  FINAL 3.727 3.727 4.300 4.398   *ギア比×ファイナル  
  副変速機 1.900 2.566 2.618 -        


  2 速度比較              
      回転数と速度(km/h)   最高出力(rpm)速度(km/h)
      1,500 rpm   5,600 5,600 5,600 6,200
    LAND
CRUISER
 PRADO
FJ
CRUISER
LAND
CRUISER
200
LEXUS
RX350
LAND
CRUISER
 PRADO
FJ
CRUISER
LAND
CRUISER
200
LEXUS
RX350
    5AT 5AT 6AT 6AT 5AT 5AT 6AT 6AT
  1 15.6 17.3 15.8 14.4 58.2 64.6 58.8 59.5
  2 26.9 29.8 26.8 25.0 100.3 111.3 100.0 103.3
  3 39.2 43.5 38.8 33.4 146.3 162.3 144.9 138.3
  4 54.8 60.9 52.5 47.5 204.8 227.3 196.1 196.3
  5 76.6 85.0 72.1 66.6 286.0 317.4 269.4 275.4
  6 - - 89.3 78.1 - - 333.5 322.9
  タイヤ半径 0.362 0.401 0.400 0.370 0.362 0.401 0.400 0.370

実質的にローギアードなプラドは、走行中のエンジン音が結構盛大で、400万円という価格から想像するような高級車的静けさを求めると、ちょっと違うぞ、ということになる。 今度は、例によってフルスロットルを踏んでみると、勇ましいV6のビートを発しながら強力なGを感じるくらいの加速感で一気に5,000rpmまで上昇して2速にシフトアップするのだが、その時の速度は50km/h程である。2速での加速も強力で、あっという間に危ない速度に到達したので加速を中止する。 普通は一般道でのフル加速は1速までがいいところで、2速にアップしてからは直ぐにお終いになるのだが、プラドは前述のようにトータルのギア比が低いので2速でもある程度の加速が出来る。

次にATセレクターをSに入れてみると、高めの回転数は更に高くなり、少しアクセルを踏むと2,500〜3,000rpm程度を維持するが、元々結構高い回転数を常用するプラドの場合はSモードといっても500rpm程度しか上がらないことから、劇的な違いというのは感じられない。 Sモードに入れた次は、マニュアルモードを試してみる。SモードからATセレクターを前方に押すと殆どタイムラグを感じさせずにシフトダウンが起こる。走行中、ガチャガチャとアップ/ダウンを繰り返してみたが、やはりレスポンスは非常に良い。
 


写真31
エンジン始動も今では当たり前になったスマートキーとプッシュボタン方式による。

 


写真32
トヨタらしい自光式のメータークラスター。

 


写真33
ATセレクターは FJクルーザーのジグザグ式と異なり、現代的な直線パターンのティプトロタイプ。
FJクルーザーのように別にトランスファーレバーは無い。
 

 


写真34
写真はTZ-Gのために電子制御サスペンションの操舵ボタンがあるが、TZには装備されない。
 

 


写真35
右のダイヤルスイッチは副変速機の切り替え(Hi、Lo)。左端はセンターデフロックスイッチ。

 


写真36
FJクルーザーより20mm狭いとはいえ、全幅は
1,885mmもあるが、ボンネット先端は目視できるので、意外にも取り回しは悪くない。
 

 

ステアリングは相当に軽く大きな巨体なのにクルクルと回るが、その軽さは何やら一昔前のパワステ的で、スタアリングインフォメーションという面では極めて乏しい。 この感覚はマルでトラックのパワーステアリングのようだ。と、思ってよくよく考えてみたらば、プラドはラダーフレームにフロントがダブルウィシュボーン、リア がリジットリンクという、正にトラックの構成だった。 だだし、軽くてインフォメーションはないが、クルクルと回せば2.2トン近い車重の”トラック”としては驚く程クイックに反応する。

プラドの乗り心地はハッキリ言って硬い。しかし、空荷のトラック的な硬さではなく、スポーツカー的な硬さといえば言い過ぎだが、硬いクルマに慣れているドライバーならば不快感は殆ど感じないだろう。 それにしても、最近のトヨタ車は日本向けでも欧州調の硬めのサスペンションが主流となったようで、ある面では日本人のユーザーも大分進歩したのかもしれない。それとともに、日本製のダンパーの性能も進歩したのだろう。

FJクルーザーの4WDシステムは、通常は2WDで走行しオフロードで初めて4WDを選択するパートタイム4WDであったが、プラドはセンターデフを持つフルタイム4WDであることが異なる。このセンターデフはトルセンLSDを使用していて通常時のトルク配分は前40:後60となる。これが旋回時には更にトルク配分がリア寄りとなり、コーナーリング特性を向上させる、というのがトヨタの言い分だ。 それでは、実際にコーナーリングを試してみよう。以前、ウィッシュの旋回特性を試して、40km/hでもヤバかったコーナーが見えてきた。この時の速度は約50k/hだったが、それまでの走行で車両安定性もシッカリしている事から、チョッと強気で60km/hまで加速してみたが、コーナーに頭を入れた瞬間に強めのアンダーステアを感じたことから、一瞬の減速をして、結果的にフロントに荷重を移した状況で旋回する。
プラドは流行のSUVというよりは、オフロードに振った作業車を豪華な乗用車仕立てにしたクルマだから、旋回性能が高い訳が無い。それを言ったらSUVだって所詮は背の高い、すなわち重心の高いクルマだから、コーナーリング性能は 決して良くない。BMWがX5を発売した当時に初めて試乗した 時は、SUVであるにも拘らずコーナーリング時に横Gを感じる程の旋回性能に驚いたものだった。 それ以降のSUVといえばX5の影響からか、X5程では無いにせよハリアー(今ではレクサスRX)などは一般向けのSUVとしては、ソコソコの旋回性能を持っているが、プラドやFJクルーザーはオフロードトラックがベースだから、乗用車ベースのSUVとは根本的に違うことは頭に入れていく事が必要だ。
 

写真37-1
V6 3,955cc 276ps/5,600
rpm、38.8kg・m/4,400rpmを発生する1GR−FEエンジン。
FJクルーザーと全く同じエンジンだし、エンジンルーム内の配置も殆ど同じ。

写真37-2
FJクルーザーのエンジンルーム。確かにプラドと同じなのが判る。


写真38
ブレーキのマスターシリンダーにはバキュームブースターが見えない。ブレーキバイワイヤ??

 


写真39
昔に比べてバッテリーの容量は少なめで、30D26Lが塔載されていた。

 

 

ブレーキは停車中だとストロークが短いが、走行中では初期の遊びストロークが長く感じる。それでも効き自体は悪くない。ところが、軽く減速した時に停止前に 何故かペダルに軽い振動を感じたし、ブレーキを踏み込んだときのフィーリングも何となく違う。試乗終了後にボン ネットを開けてみて、ブレーキのマスターシリンダー付近を見たが、バキュームブースターが見当たらない(写真38)。 これはもしかするとブレーキバイワイヤー方式を採用しているのだろうか? 実はトヨタは、この方式については多くを語らないし、カタログでも触れていない。天下のメルセデスが失敗したような高度な技術を、何故にアピールしないのかが不思議だが、メルセデスの失敗のイメージがあって、世間では未完成で危険なシステムと誤解されると返って逆効果なので、今の時点では伏せておこう、という考えなのだろうか?


写真40
標準装備は265/70R17タイヤとアルミホイールの組み合わせとなる。

 


写真41
フロントブレーキはFJクルーザーと同系の鋳物製対向4ピストン。

 

85万円の純正ナビは考えないことにしても、試乗したTZの車両価格は410万円と決して安くは無い。それでも、同時期に試乗したパジェロ3.2ターボディーゼル エクシードの412万円と同等だし、出来としてはプラドの方が間違いなく良い。といっても、プラドも大したことは無いが、パジェロの出来が悪すぎるということか。

プラドのメリットは意外にも、3列シートを装備していることかもしれない。子供が中学生以下で、特にスポーツクラブに入っている場合は、試合の遠征などで”クルマ出し当番”が回ってきた時には、3列シートで7人くらいのれるミニバンが無いと、子供の肩身が狭いという。しっかし、ねぇ、「ミニバンだけは乗りたくねぇなぁ」というオトウサンでも、プラドならばミニバンに比べればはるかにマニアックだから、3列シート車が不要になるまでの繋ぎとして、ミニバンの代わりにプラドを選ぶのも良いかもしれない。そして、プラドを選ぶなら、価格的には315万円からラインナップされている2.7Lが買い得だろう。とはいえ、実際に試乗していない2.7を勧めるのも気が引ける し、データーで見る限りでは動力性能の悪さは覚悟が必要だろう。そういう意味では、TZと同じ4.0Lエンジンを搭載していて、価格は314万円というFJクルーザーが文句無く買い得だが、事実上の2ドアであり、3列シートでミニバン的な用途 として全く使えないFJクルーザーでは、比較の対象にはならないかも知れない。
これは、もう、子供が早いところ中学生になるのを心待ちにするしかない。そして、よ〜し、その時はスポーツセダンを買うぞ!と心に決めてはみたものの、いざその時になってみれば、高校受験のために毎月の塾代はかかるは、春、夏、冬の休みには特別講習でナン10万円も必要だし、それで 入学したのが私立高校ならば、授業料やら修学旅行(当然海外!)の積み立て金などで毎年100万円も消えていく。公立なら授業料は安いのでヤレヤレ、なんて安心していたら、学校の帰りに進学予備校へ通わないと、とてもではないがマトモな大学には受からない 現実があった。というわけで、やっぱりオトウサンのクルマ代は捻出不可能、って事のようだ。ちっくしょう、誰が必死で働いて稼いでいると思ってんだ、何て叫びたくなるのも当然だが、それでも、好きなクルマは買えないのだった。