Mercedes Benz E350 BlueTEC Wagon(2010/10) 後編 ⇒中編へ戻る


試乗車のエンジン始動は当然ながらプッシュボタンと思いきや、なんとキーをダッシュボード右端のシリンダーに挿して回すタイプだった。ただし、流石に電子キーではある(写真46)。キーシリンダーの右にはライトスイッチがあるが、何とOFFのポジションがない!そう、ライトはドライバーの意思でオフには出来ず、必要な暗さとなったらば自動的に点灯するのだった。この徹底さをみると、メルセデスも少しは以前の思想に戻ったのだろうか。
新型EクラスのATセレクターは廉価版のE250(写真44)を除いて、ステアリングコラム右に出ている短いレバーを使用する(写真45)。ニュートラル位置から下に下げるとDとなり、上に上げればRで、 ポジションの表示は正面にある速度計の下半分のスペースを使ったディスプレイに表示される。この表示はオーソドックスなフロアセレクターのE250とは異なり、コラムシフトのパターと相関性のある表示となっている(写真43)。このコラム式のセレクターをDに入れてブレーキを踏みながら、パーキングブレーキのリリースは何処かと探せば、ダッシュボード右端のライトスイッチの下にあるレバーが引くことでリリースされる。この方式はメルセデスが長年採用しているもので、同じ足踏み式でも押すたびにON/OFFを繰り返す国産車でお馴染みの方式とは格が違う。と、いってもクラウンにはEクラスと同じリリースレバーの方式が採用されているが。

フートブレーキペダルを放すとクルマはクリープによりゆっくりと動き出し、右足を更に踏むとスムースに走り出して駐車場をゆっくりと、しか し敏感過ぎる事も無く、落ち着いて徐行しながら手口へと向かう。 国産車のように飛び出すことも無く、すでにこの段階でこれぞメルセデスという感覚に浸る事が出来る。そういう意味ではガソリン以上にメルセデスっぽい。表通りに出てハーフスロットルで加速すると、僅かにディーゼルの音を轟かせながら充分な トルク感でグイグイと加速する。 この低速からのトルク感は伊達に55.1kg・mという強大なトルクを発生するターボディーゼルを積んでいるわけではないな、と感じる瞬間だ。

このクルマにはモード切替があって、デフォルトはC(コンフォート)に設定されていて、コンソール上の切り替えスイッチ(写真47)を押す毎にCとS(スポーツ)を繰り返す。Cでは2速発進でシフト ポイントも早めであり、巡航中は1,200〜1,500rpmという低い回転数を維持するようにドンドンとシフトアップしていく。 そして、巡航中にスロットルを強く踏んでキックダウンを誘うが、直ぐは反応せずにワンテンポ、いやツーテンポ以上遅れてから控えめにシフトダウンが起こる。
今度はSモードに切り替えてみる。Sモードでは発進が1速からで、シフトアップポイントも高回転側となり、またキックダウン時のレスポンスも素早くなるというので早速試してみる。 まずは発進の際に1速を使用するので当然ながら加速は良いし、フルスロットルを踏むと確かにCモードよりは高回転側まで加速する。ただし、強大なトルクはあるが、回転数自体はガソリンよりも低いために伸びは無い。この辺はディーゼルの宿命だと諦めるしかない。勿論、普通に世間一般の流れをリードするには何の問題もない。

回転計のゼブラゾーンは4,200rpmからであり、しかも最高出力は3,400rpmで発生するから、加速時には回しても精々3,500rpm程度であり、最大トルクの発生が1,600〜2,400rpmということを考えても、ガソリン車のようにスポーツモードで2,500rpmなんて常用したらば、既に最大トルクから外れた範囲で巡航する事になってしまう。 そんな訳で、2,000rpmでの巡航でさえ相当な高回転というイメージになる。この巡航状態からキックダウンしてみると、Cモードの苛々するくらいのレスポンスの悪さはなくなって、まあ標準的なタイムラグの後にシフトダウンが起こる。 E250を除くEクラスはATセレクターがステアリングコラム上にあるためにマニュアルモード用のパドルスイッチ(写真45)が付いているが、今回は時間的に試す余裕が無かった。というよりも、低回転型のディーゼルエンジンでマニュアルシフトをするメリットも余り感じられないということもあるし、マニュアルを使おうという雰囲気にもならなかった。

この頭打ち感から、ガソリンとディーゼルのギア比はどうなのかという興味もあるので、ここで下の表にまとめてみた。
 
  1 ギア比較            
      ギア       オーバーオール*
    MB E350
BlueTEC
MB E350 MB E250
CGI
BMW
535i
MB E350
BlueTEC
MB E350 MB E250
CGI
BMW
535i
    7AT 7AT 5AT 8AT 7AT 7AT 5AT 8AT
  1 4.380 4.380 3.950 4.714 11.61 12.35 12.92 14.50
  2 2.860 2.860 2.420 3.143 7.58 8.07 7.91 9.67
  3 1.920 1.920 1.490 2.106 5.09 5.41 4.87 6.48
  4 1.370 1.370 1.000 1.667 3.63 3.86 3.27 5.13
  5 1.000 1.000 0.830 1.285 2.65 2.82 2.71 3.95
  6 0.820 0.820 1.000 2.17 2.31 3.08
  7 0.730 0.730 0.839 1.93 2.06 2.58
  8 0.667 2.05
  R 3.420 3.420 3.150 3.295 9.06 9.64 10.30 10.14
  FINAL 2.650 2.820 3.270 3.077   *ギア比×ファイナル  

 
  2 速度比較              
      回転数と速度(km/h)   最高出力(rpm)速度(km/h)
      1200 rpm   3400 6000 5500 5800
    MB E350
BlueTEC
MB E350 MB E250
CGI
BMW
535i
MB E350
BlueTEC
MB E350 MB E250
CGI
BMW
535i
    7AT 7AT 5AT 8AT 7AT 7AT 5AT 8AT
  1 12.7 11.9 11.6 10.6 36.0 59.7 53.3 51.1
  2 19.5 18.3 19.0 15.8 55.1 91.4 87.1 76.6
  3 29.0 27.2 30.9 23.6 82.1 136.2 141.4 114.3
  4 40.6 38.2 46.0 29.9 115.1 190.9 210.7 144.4
  5 55.6 52.3 55.4 38.7 157.7 261.5 253.8 187.3
  6 67.9 63.8 49.8 192.3 318.9 240.7
  7 76.2 71.6 59.3 216.0 358.2 286.9
  8 74.7 360.8
  タイヤ半径 0.326 0.326 0.332 0.339 0.326 0.326 0.332 0.339

これを見て判るのは、ガソリンとディーゼルは7ATのギア比が全く同じであり、ファイナルギア比を多少変更した程度だった。そのファイナルとて、ディーゼルが 特別にハイギアードというわけではなく、オーバーオール比でみてみそれ程は変わらない。ということは、ブルーテック(ディーゼル)は3,500rpmまではE350どころか、S600並のトルクで加速することになるから、その程度の中回転域までしか使わないユーザーなら、E350以上の加速感が味わえる。逆に、グイ〜ンと引っ張る事が快感、というユーザーにはディーゼルの頭打ち感が気になるだろう。
 


写真41
メータークラスターは殆ど同じだが・・・・。

 


写真42
当然ながらディーゼルは低回転型の為に回転計の目盛は全く異なる。
 

 



 →

写真44
E250の5ATはコンソール上のオーソドックスなセレクターで操作する。

写真43
またATセレクターの違いから、ポジションの表示も異なる。


写真45
7速ATはステアリングコラム右に生えた小さなセレクターで操作する。マニュアル用のパドルスイッチも見える。
 

 


写真46
パーキングブレーキの解除はステアリングコラムの左側ダッシュボード下部のレバーによる。ライトはOFF位置が無くA(Auto)が定位置となる。
 

 


写真47
押す毎にC(コンフォート)、S(スポーツ)が切り替わるモードスイッチ。Sではシフトスケジュールが高回転寄りとなり、キックダウンのレスポンスが向上するが、エンジンやステアリングのレスポンスは変わらないようだ。
 

 


写真48
ボンネットの先端はハッキリ認識できるし、お馴染みのセンターにあるマスコットは幅方向の位置を認識し易い。

 

前述のS123 300TDの5気筒ディーゼルは当然パワーは無いので加速は大したことは無いのだが、それでも一旦巡航速度に達すれば特に不満は無かった。それよりも驚いたのはステアリングが結構軽くて遊びが殆ど無い事 で、今考えてみれば当時から優秀なパワーステアリングが装備されていた事が最大の理由なのだが、とに角驚いたものだった。 その時代の国産車といえば、殆どの車がパワーステアリングは未装備で、低速域ではとてつもなく重い操舵力を必要としたから、車庫入れや縦列駐車は大変な作業で、自動車教習所の課程でもこの二つが最大の難題だったのは 、当時免許を取得された方なら判ってもらえるだろう。 勿論、一部の国産上級車にはパワーステアリングが装着されていたが、これがまた出来が悪くて、物凄く軽い操舵力は良いとしても、只単にクルクルと回るだけで、ステアリングインフォメーションは全く無く、クルマ自体の不安定な挙動と共にマトモに走れる代物ではなかった。

しかも、当時のノンパワステ車は中心付近にはハッキリとした遊びがあり、外周で20mm程は常にフラフラと反応しないから、右に切った後に左に修正しようとすると、20mm分を過ぎてから初めて左方向に操舵する。その遊びの部分は操舵力は全く必要としないから、今度は右に修正しようとすると、また空回りの20mmを過ぎてから 急に重くなって操舵状態になる。 そんなことから、走行中はステアリングホイールを常に外周で30mm以上を動かしていることなり、当時はそれが当然と思っていた。

こんな時代だったから、メルセデスの操舵力は寧ろ軽く感じたし、そのレスポンスは驚く程早いと感じたわけだ。そして35年ぶりにステアリングを握ったメルセデスの最新ディーゼルワゴンは といえば、適度の操舵力というか、寧ろライバルのBMW5シリーズよりも軽いくらいかもしれない。機構としてもBMWのアクティブステアリングに近いダイレクトステアリングという可変レシオの装置が装着されていることもあり、結構クイックに反応する。 ただし、約1年前に試乗したE300に比べると何となく直進性が劣るような気もする。これはどうもタイヤに原因があるようなフィーリングだった。 後ほど判ったのは、このブルーテックはメルセデスでは始めてRFT(ランフラットタイア)を採用している事だった。それでも、旋回特性自体は見事なニュートラルステアで、試乗コース途中の結構きつ目のコーナーに60km/hくらいで 進入しても、まるでレールの上を走るように綺麗に回ってしまった。 ただし、決して楽しい特性ではないから、ワインディング路を攻めて云々といような、マニアックな事を期待するユーザーには向いていない。運転を楽しむのではなく 、如何に安全・快適に目的地に着くかということを、最も重要と考えるメルセデスのワゴンだから、それに共感を覚えないと、高い割りに面白くないという事になってしまう。

最近のEクラスのサスは結構柔らかめで、前回試乗したE300も駐車場の段差を斜めに降りた時など、一瞬車がピッチングを起こす傾向があり、まあこれはある面高級車っぽさもあり決して悪いとは思わなかったが、今回はもっと硬めでよく言えばスポーティーだが 、悪く言えば乗り心地が硬く高級パーソナルカーであるEクラスのイメージとは少し違い、BMW的という感じだった。 メルセデスのワゴンは伝統的に重積載によるリア車軸への重量増加を考慮して、リアにはエアサスによる自動車高調整機構を備えている。エアサスと聞くと柔らかくてフワフワに感じるかもしれないが、メルセデスのワゴンは35年前の300TDも硬めのサスだった 。しかし一度だけ5人乗車+リアラッゲージスペースに重量物を載せて走った事があ って、この時の乗り心地の良さは格別だった。 ということは、メルセデスワゴンは今でもフル積載時を本来の姿として設定しているのだろうか?とすると、殆どの場合にドライバーが一人で走るような用途には宝の持ち腐れということかもしれない。

乗り心地の硬さと共に走行中は路面の細かい振動を常に拾う傾向があるのはRFTの悪癖だろうか。そういえばBMWもRFTとしては驚異的に良好な乗り心地となったのは極最近だったから、メルセデスももう少し経験が必要かもしれない。 RFTの弊害はもう一つあり、それはディーゼルエンジン塔載車としては例外的に静かな室内に、路面によってはヒューン+ザーッというタイヤノイズが聞こえてしまう事だ。これがディーゼル丸出しのエンジンで常にカタカタ・ガーっといっていれば目立たないのかもしれないが、なまじっか静なのが仇となってしまった 。

ブレーキは軽い踏力で食いつくように効く、言ってみればBMW的な効きだが、BMWとの違いは遊びが少ない事で、これは中々出来が良い。先代W211は先進のブレーキバイワイヤ方式であるSBC の不具合続出で、急遽モデル後半には普通のバキュームサーボに戻したが、その時点ではメルセデスらしい遊びの殆ど無いフィーリングは完全に何処かへ行ってし い、初期のフィーリングが実に悪いものとなってしまった。 新型のW212には既にE300とE250に試乗しているが、E300は今回に近い良好なフィーリングだったが、E250は先代の後期型のような遊びの大きい、不正確なものだった。キャリパー自体はE250、E300そして今回のE350BlueTECも見た目には 殆ど同じに見えるのだが?

Eクラスの取り回しについては、その外観からは想像できないくらいに小回りが効くし、見切りも非常に良い。ある時期のメルセデス、すなわち先代Cクラス(W203)ではボンネットの先端が下がってしまい、中央のメルセデスマークも上1/3しか視認できなかったが、新型Eクラスはボンネットの先端までハッキリと見ることが出来るし、先端のマークもほぼ全部が見える(写真48)。


写真 49
エンジンの上部カバーを外してみると、内側には防音処理が施してある。
これがディーゼルエンジン独特のノイズを遮音している。
 

写真50
V6 3ℓターボディーゼルは211ps/3,400rpm、55.1kg・m/1,600〜2,400rpmを発生する。
写真は上部カバーを外したところで、多くの補機類や複雑なパイピングでギッシリと詰まっている。


写真 51-1
E250には16インチ9スポークホイールと235/55R16タイヤが標準となる。

 


写真 51-2
E350BlueTECには17インチ5ツインスポークホイールと245/45R17タイヤが標準となる。

 


写真 51-3
AMGスポーツパッケージを装着すると18インチAMGツインスポークホイールとフロント245/45R18、
リア265/35R18タイヤが標準となる。
 

 


写真52
キャリパーはE250もE350BlueTECも双方とも前後にアルミの片押しキャリパーが装着されている。写真はAMGスポーツパックの場合でフロントキャリパーにはメルセデスのロゴが付くが単なるカバーが付いているだけだった。
 

 

Eクラスワゴンの販売実績では、半数以上が今回のE350BlueTEC(ディーゼル)で、残りの多くがE250だそうで、V8のE550は当然としても、一見売 れ筋と思われるE350(ガソリン)や買い得感のある中間グレードのE300などは殆ど売れていないらしい。 確かに中速回転域までならS600並みのトルクを発生するディーゼルエンジンの魅力はあるが、高回転まで引っ張った時の気持ち良さ は味わえないし(大体において高回転まで回らない)、静かとは言ってもそこはディーゼルの素性を完全には隠せない事を考えると、あと50万円出せばガソリンの3.5リッターが買える、とは考えないのだろうか。 これはある面で、Eクラスワゴンのユーザーが先進的な考えであることを意味しているかもしれない。それでも、乗り出し価格では900万円程になるディーゼルワゴンを買える幸せな人には、確かに良い選択には違いない。それに、ガソリンよりもリセールも良さそうな気もする。

さ〜て、ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が 気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。今回は650万円のEセグメントワゴン選び、ということで、輸入高級ワゴンの中ではベースグレードである4車種を比較してみる。  

特別企画「650万円のEセグメントワゴン選び」に進む

Topページに戻る