BMW 320i (170ps) Sedan & Touring (2010/7) 後編


試乗は最初にセダンから乗ってみることにする。

公道への出口に向かい駐車場をユックリ走行するだけでも、156psモデルとのトルク感の違いを感じることに先ずは軽く驚くことになる。そして、いよいよ公道に出てハーフスロットルで加速する段階では、14psの差がこれ程あるのかと思うくらいに改善されている ことに、再度驚いた。 そしてこの加速力は2.2ℓの先代320i(E46)を思い出すが、考えて見るとどちらもスペック上は同じ170psだったことを思い出す。 前期の150psタイプの320iでは度々ATの制御をDSモードに入れたくなる場面があったが、今度のモデルはDSモードの必要性はそれほど感じられない。
今度は40km/h程度で巡航中にキックダウンを試みると、6ATは一瞬のタイムラグの後にシフトダウンされ、回転数は2,000rpm以上となって加速を始める。 この時、E46ならばBMW独特のシルキーシックスによるウルトラスムースな高回転域を味わえるが、4気筒の新型はそれほどの滑らかさは無い。とはいっても、4気筒としては驚異的にスムースであるし、加速音も悪くない。 ここで回転計に目を移すと、何となくレッドゾーンの位置が変だ?よく見ると本来フルスケール7,000rpmのメーターに500rpm追加して、レッドゾーンが7,000rpmからとなっていた(写真22)。新直噴エンジンはトルクも増強されたが、同時により高回転で最高出力を発生する事でパワーを稼いでいるようだ。

こうなると、当然ながらミッションのギア比も変更されている。そこで、その違いを調べてみた。
 
  1 ギア比較            
      ギア       オーバーオール*
    320i
156ps
320i
170ps
320i
156ps
320i
170ps
320i
156ps
320i
170ps
320i
156ps
320i
170ps
    6AT 6AT 6MT 6MT 6AT 6AT 6MT 6MT
  1 4.651 4.171 4.323 4.323 18.18 16.30 15.72 14.94
  2 2.371 2.340 2.456 2.456 9.27 9.15 8.93 8.49
  3 1.551 1.521 1.659 1.659 6.06 5.95 6.03 5.73
  4 1.157 1.143 1.230 1.230 4.52 4.47 4.47 4.25
  5 0.853 0.867 1.000 1.000 3.33 3.39 3.64 3.46
  6 0.674 0.691 0.848 0.848 2.63 2.70 3.08 2.93
  R 3.200 3.403 3.938 3.938 12.51 13.30 14.32 13.61
  FINAL 3.909 3.909 3.636 3.455   *ギア比×ファイナル  

 
  2 速度比較              
      回転数と速度(km/h)   最高出力(rpm)速度(km/h)
      1500 rpm   6400 6700 6400 6700
    320i
156ps
320i
170ps
320i
156ps
320i
170ps
320i
156ps
320i
170ps
320i
156ps
320i
170ps
    6AT 6AT 6MT 6MT 6AT 6AT 6MT 6MT
  1 10.2 11.4 11.8 12.4 43.6 50.8 50.4 55.5
  2 20.0 20.3 20.8 21.9 85.4 90.6 88.7 97.7
  3 30.6 31.2 30.8 32.4 130.6 139.4 131.3 144.6
  4 41.0 41.5 41.5 43.7 175.1 185.6 177.1 195.1
  5 55.7 54.8 51.0 53.7 237.5 244.6 217.8 240.0
  6 70.4 68.7 60.2 63.4 300.6 306.9 256.8 283.0
  タイヤ半径 0.328 0.328 0.328 0.328 0.328 0.328 0.328 0.328

結果を見ると、6ATについてはギアレシオ自体が全く異なる事から、エンジン改装に伴ってATも新設計されたと推定される。ファイナルは全く同一で、オーバーオールでは新型が多少ハイギヤードな設定となっている。最高出力回転数がアップされ、ギア比もハイとなっている新型は、各ギアでの最高速度は当然アップしている (表の太字部分)。要するに、より伸びるということだ。オーバーオールがハイになったという事は、トルクとしては厳しくなるはずだが、実際に乗った限りでは156psタイプよりも明らかにトルク感があったということは、新エンジンが、低回転域からトルクが出ている事の証明 となっている。
さらに上表で1,500rpm時の速度を比較すれば、実は殆ど変わらないのが判る。要するに定速巡航時は新旧殆ど変わらない回転数で、目一杯引っ張った時は新型の方が良く伸びるという、中々絶妙な設定となっている。

なお、6MTについてはミッションのギア比は全く同一でファイナルのみが 3.636 → 3.455と、これもハイギアード化されている。実は今回のパワーアップの恩恵は、マニア向けの6MTにこそあるような気がする。なぜなら、ATの場合は一生フルスロットルを踏まないオバちゃん(オッちゃんも)ユーザーも結構いるようだから 、そういうユーザーにとっては150ps版だって十分だったのだ。

エンジンが新型になったと共にステアリングも従来の油圧式から電動式に変更された。最大の理由は省エネが目的で、常にポンプを駆動している油圧式に対して、アシスト時のみ電気を食う電動式の効率の良さが魅力となる。 加速時のトルク感が増えたのは、エンジンのパワーアップ以外にもパワステポンプの負荷などが減ったことも理由かもしれない。実際にステアリングを握ってみれば 、油圧式との違いは一目瞭然で、まずは操舵力が減少したことに驚く。BMWのステアリングはズッシリと重いのが最近の定番だったが、実はE46時代の2001年モデルでは操舵力が劇的に軽くなった と思いきや、次年からは 再度元に戻ってしまった事があった。 そういう意味では益々2.2ℓに改装された当時の320iを思い出す。

電動パワステ化での心配はフィーリングの悪化だが、それに関しては心配には及ばない。BMWといえば高級ブランドの中でもスポーティなイメージで、勿論そのとおりなのだが、ステアリングについては 意外にも中心付近では多少ダルい傾向がある。 したがって、国産のハイパフォーマンスカーであるスカイラインGT−R(R32〜34)やランエボなどの殆ど遊びがないガッチガチの特性に比べれば、中心付近の微妙な不感帯があり、これはM3とて例外ではない。 さて、このパワステのフィーリングを一言で言うならば、動力性能と同じでE46の再来というか、非常に似た操舵感が得られる。この軽いステアリングでのコーナーリング特性もまた極めてニュートラルで舵を切っただけ、切った方向へ曲がっているような感覚が得られる。 これはE90になったことでE46から失われたものが帰って来たという感じで、ここまでE46的になったのは偶然ではなく、BMWの狙いなのではないかと思ってしまうくらいだ。

BMW、取り分け3シリーズのコーナーリングの特徴は、何度も述べているようにニュートラルな特性と共に、実は国産車に比べれば意外にもコーナーリングの限界速度自体は大して高くないという実態もある。 しかし、その面で今回の新型はコーナーリング速度自体も結構高いのはE46との違いで、伊達に10年間の月日は流れていない。ただし、ステアリングホイール を通して手に伝わるインフォメーションについては、E46が路面のペイントまで感じるくらいに多大な情報を伝えていたのに対して、どうもそれほどでは無いような気がする。 ただし、人間の感覚は時と共に美化される傾向もあるので、国産車を含めて全体にレベルアップした最近の傾向もあり、今E46に乗ってみたらばそれ程大したことはないのかもしれないが・・・・。
 


写真21
ATセレクターも変更はない。iDriveは標準装備。

 


写真22-1
メーターも従来から変更は無い3シリーズ共通のもの。ただし、回転計のレッドゾーンは異なる。


写真22-2
156ps版のレッドゾーンは6,500rpmで、新エンジンより500rpm低かったことになる。

 

E90になって失われたもののもう一つは、ランフラットタイヤ(RFT)の標準装着による乗り心地の悪化だったが、 今回のMCにより乗り心地も大幅に改善されていた。 すなわちRFT独特の突き上げが殆ど消えて、しなやかな乗り味が感じられ、これまたE46時代の完成された乗り心地が戻ってきた、と思えるくらいの出来だった。

ブレーキについては、BMWといえば多少カックン気味の極めて軽い踏力が特徴的だが、今回は多少重くなっている。そして、踏み始めの反応しないストローク、すなわち遊びストロークが短くしかも重くなっているから、フィーリング的には少し前のメルセデスに近づいた。 しかし、本家のメルセデスはといえば、現行Cクラス(W204)ではBMW的な長めで踏力が殆ど必要のない遊びがあるようになったので、何とフィーリングが逆転してしまった。更に減速度を増すために強く踏み込んだ場合も以前より重めではあるが、踏力に比例して減速度が上がるので、個人的には今回の改変を好ましく思っている。 そして、その原因を考えてみれば、マスターシリンダーやキャリパーなどメカ系の改良もあるのだろうが、それよりも感覚的にはパッドの摩擦材質が変更になったのではという気がするが、定かではない。


同日の午後にはワゴンボディのツーリングにも試乗してみた。セダンの試乗とは別の場所で、時間もより長くとってある程度のワインディング路も走ってみた。基本的には今までポルシェの試乗に使っていたコースで、 ここは走り慣れているのと、他車との比較もできるので都合が良い。

走り始めた第一印象は同じエンジンとはいえ、セダン(1,500kg)に対して50kg重いツーリング(1,550kg)は、やはりセダンほどの軽快感は感じられないが、それでも150ps型の320iツーリングのように我慢の限界付近で、人によっては受け入れられないだろう、という程 遅くはない。その意味では、今回の170ps化は寧ろツーリングにこそメリットがあるのではないか、と思ってしまう。 だから、150ps型320iツーリングのオーナーが170ps型の試乗をするのは止めておいた方が無難かもしれない。ツーリングとセダンのギア比は6AT、ファイナル共に全く共通だから、瞬発力の違いは車輌重量の違いのみということだろうが、それにしてもたったの50kgの違いなのに何故なのだろう。 乗員の重さについては、セダンは隣にセールスマンが乗っていたが、ツーリングはセールスマンなしの単独走行。しかし、その代わりに助手(配偶者)を1名乗せていたから、それほどの違いは無いはずだ。

ツーリングの試乗コースはセダンとは異なる事と、時間的に余裕があったことから、多少のワインディング路走行もやってみた。ステアリングのフィーリングはセダンと殆ど変わらす、BMWとしては軽い操舵力だ。既に4車線国道での車線変更や右左折の挙動から、試乗車のコーナーリング能力が結構高いであろうことは把握していたので、最初のコーナーから世の中の常識では結構速めの速度で侵入してみると、何のことは無い、簡単にクリアしてしまった。セダンに比べてどうしてもリアのラッゲージ部分が重く、 回転軸に対するリアの慣性モーメントが大きいツーリングは、リアが流れ出す限界がセダンよりも低い傾向にあるが、試乗車の限界は相当高そうだし、リアの重さが逆にアンダーステアがより少ないようにも感じるのか、セダン以上にニュートラルなコーナーリングに感じる。 そして、次のコーナーでは更に速度を上げてみたが、やっぱり余裕だった。残念ながら、これ以上のコーナーリング速度のアップは”反社会的”という自主規制により、以降は同程度の速度に留めておいた。全高が少し高い以外は寸法的に近いウィッシュ20G。そう、少し前に試乗して、コーナーリング特性ではボロクソの評価となったあのクルマと320iツーリングとを比べれば、正に月とスッポン。まあ、この話はこの程度にしておこう。

写真 23-1
MC前の直4、2ℓ N46B20Bエンジンは156ps/6,400rpmの最高出力と 20.4kg・m/3,600rpmの最大トルクを発生する。

 

写真 23-2
新型の直4、2ℓ 直噴N43B20Aエンジンは170ps/6,700rpmの最高出力と 21.4kg・m/4,250rpmの最大トルクを発生する。
外観上も旧型エンジンとは全く異なる。

というわけで、今まで遅い代表のように言われてきた320iが、やっとのことで名前どおりの性能を持つようになった。動力性能は欲を言ったら限が無いが、今回の新型エンジンは、この程度の性能は欲しいというレベルを充分にクリアしている。こうしてみると、156ps版でも結構楽しめた6MTモデルが期待できる。

ここまで読んだ読者の方たちは、なぁんだ、やっぱりべた褒じゃあないか、と思われるだろう。
しかし、以上は価格を考えない場合であって、いくら独特のフィーリングといったって、布シートで4気筒2ℓのクルマが乗り出しで500万円は無いだろう、という気持ちだって当然ある。そこで、

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が 気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。今回のテーマはBMWは高いか安いか。
しっかし、飽きもせずに、またそんな話題を出してぇ。アホじゃないんか?という方々は、ここよりお帰り願うとして・・・・
あっ、それからBMWのオーナーで、殆ど値引き無しで購入された方も、読まないことをお勧めします。

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