PEUGEOT 3008 PREMIUM (2010/6)

 


背が高くなってもプジョーらしいスタイルは変わらない。
このスタイルが魅力でプジョーを買うオーナーも多いのが頷ける。

プジョー3008は、その名のとおりに308をベースにしたプジョー初のSUVで、日本でも6月から販売されている。308ベースということはCセグメントとなり、このカテゴリーではニッサンキャッシュカイ(デュアリス)をはじめとしてホンダCR−VやトヨタRAV4など、日本車が圧倒している。本来、背の高い4WDのオフロードカーは頑強なラダーフレームに悪路走行に適して極めて長いストロークのリジットアクスルを前後軸に持つ という特殊なクルマだった。 これら世界の未開の地で使われていたオフロードカーはランドローバー(後にディフェンダーと名乗る)、メルセデスGワーゲン、トヨタランドクルーザーそしてニッサンパトロールが定番だった。しかしこれらのクルマは元々は軍用車がベースだから、一般ユーザーが舗装路で使用するには極めて使いづらく、特殊なマニアしか手を出さない分野のクルマだった。しかし、日本ではバブル時代にピックアップトラックベースのパジェロやハイラックスサーフ(米国名は4ランナー)が人気となり、米国でも4ランナーやパスファインダー(ニッサンテラノ)が大人気となっていった。 そんな時にトラックベースではなく、乗用車をベースとして高い車高でオフロードカー的な雰囲気を持ったクルマとしてトヨタが発売したのがRAV4だった。ランクルやパトロール(サファリ)こそがオフローダーだと思っているコテコテのマニアからみれば、ナンチャってオフローダーのRAV4なんてトンでもない代物だと思ったようだが、世間の一般人には好意的に迎えられ、いつしかSUVという分野が確立してしまった。
なお、プジョーのSUVには既に 4007というモデルがあるが、これは三菱アウトランダーのOEM供給であり、プジョーのオリジナルとしては3008が初となる。

そういう歴史を考えれば、日本は20年のキャリアがあるわけで、プジョーが始めて出すクロスオーバータイプが果たしてどんなものか、という興味もある。


写真1
プジョーの魅力は独特のスタイルにある。このデザインセンスはドイツ人では無理だろう。

 


写真2
キャビンは上半分が大きく絞られている。その為に、室内は意外と狭く感じる。

 


写真3-1
テールゲートは上下に開く。写真は上側を開けたところ。

 


写真3-2
下段も開けると広いラッゲージスペースが現れる。底板は3つの位置に固定できる。詳細は オフィシャルフォットを参照。

 

3008は現在ベースモデルのPremium(339万円)、そしてレザーシートなどを装備するGriffe(385万円)の2グレードで構成されている。今回試乗したのはPremiumの方だった。 しかし、Premiumという名称から想像するのは可也の高級グレードだが、何故にこれがベースグレードなのかと疑問に思い欧州のラインナップを調べてみたらば何のことは無い、日本で売るのは上から2グレードで、欧州ではもっと安いグレードがあったのだった。 まあ、どうせ売れないなら上級グレードのみを売ろうか、という考えか、それとも日本では高級車のイメージでBMW辺りと同等というストーリーでプジョーファンの心をくすぐるのか。

エクステリアはこれこそプジョーの独壇場というか、最近のアグレッシブに口を開けたプジョーのトレンドそのもので、これが魅力でプジョーを選ぶ人も多いのは頷ける。こらっ!誰だ、マツダデミオみたいだ何ていう奴は!そういえば、 このクルマも口をパックリ開けているが、何故かプジョーのような魅力は全く無い。

シートに座って前後・上下・リクライニングの調整を全て手動で行う。ということは、ウィークデーにはお洒落な奥様が普段の足に使って、休日には旦那も運転するという場合は、ドライバー交代の度に自分のシート位置を思い出しながら、結局時間切れでベストポジションが見つからないという状況になるかもしれない。でも、まあ、下手にパワーシートなんが付いていると、 フランス製のコントローラーがぶっ壊れて、変な位置で動かなくなったりすると大事だから、多少の不便は我慢するべきかもしれない。

シートの前後調整は意外に手前の位置が最適となることで、このクルマの着座位置が高くて如何にもSUV的に膝から下が垂直になることが判る。勿論SUVだから当然だが、最近はSUVというよりもクロスオーバーと言われるサルーンとSUVの中間的なクルマが多い中で3008は 運転姿勢としては典型的なSUVのポジションとなる。ステアリングも上下、前後の調整が可能だから、取り合えず理想的ポジションに調整は可能となる。 と、言いたいところだが、トラック程ではないにしても乗用車として考えればステアリングホイールは水平方向に寝ていて、上端に合わせると下端が近すぎるという具合だが、それでも上端を握って体が浮いては困るので上端で合わせ てみたらば、通常の9時15分とか10時10分の位置では肘を曲げる事になる。 まあ、このクルマのオーナーが腕を真っ直ぐ伸ばしたレーシングスタイルを好むといことは無いだろうから、これで問題はないのだが。という訳で、高いシート位置と水平方向に寝ているステアリングで、オフロード車の雰囲気は充分に伝わる。

そしてセンタークラスターにあるスイッチはミニを髣髴させるが、ミニの発想が玩具っぽいのに対して3008は質感自体が玩具っぽい。要するに見るからに安っぽい質感で、これから航空機をイメージするなんて言っている評論家の先生の感性には驚かされる。
 


写真4
リアスペースは決して広くはないが、Cセグメントとしては一般的だから、小柄な大人なら2人乗車は問題ない。

 


写真5
着座位置の高いことと、ステアリングホイールの角度が上向きなのが写真でも判る。

 


写真6
表皮は欧州車では極普通のファブリック。

 


写真7
@が上下、Aが前後調整のレバーで、何れも手動式。

 

写真8
イタリア車に比べればドイツ車に近い地味なインテリアは癖が無いが華もない。


写真9
航空機をイメージしたというトグルスイッチ群はMINIほどにはガキっぽくないが、質感は安っぽく、とてもではないが航空機のイメージは浮かばない。

 


写真10
エアコンのコントロールパネルは独特のデザインだが、どこかの半島のカーメーカーにパクられそうだ。

 

エンジンの始動はステアリングコラム右側面のキーホールに極普通のキーを挿入して右に捻るという、300万円超えのクルマとしては、国産車の感覚では理解できない方法だが、信頼性を考えればフランス製の電子キーなんか使うよりは余程安心できるから、良しとしようか (写真12)。 ATのシフトゲートパターンはジクザク式でDから左に倒してマニュアルとなるティプトロ方式を採用している(写真13)。以前1007に試乗した際に、その出来の悪い2ペダルMTには漫画的な笑いさえあったが、今回は真っ当なトルコン式6ATと大いに進歩した。と、思ったら、ATはアイシン製だった。

パーキングブレーキは電気式でコンソール上のATセレクターの手前にスイッチがあるという最近流行の方法で、解除はこのスイッチで行ってもよいが、Dレンジで発進すれば自動的に解除される。最初に走り出した第一印象は低回転から十分なトルクを発生していることで、これは公道(このディーラーも4車線のバイパス沿いにある) に出ても同様で、他車の流れに乗って走る分には全く気にならない。 このトルク感は、例えば最近乗った日産ジューク(価格的には半値だが)よりも格段に勝っている。流れに乗った巡航中に加速状態に移ろうとした場合、最近の 低燃費を狙ったクルマは巡航時の回転数が1,200rpm程度とヤタラに低くていざというときに加速をしない場合が多いが、3008のシフトスケジュールはDレンジでも他社より幾分 低めのギアをセレクトする傾向にあるから、思ったよりも反応が良いし、キックダウンに対する反応も充分に我慢できる。 この点ではフォルクスワーゲンとは考え方が大分異なるようで、マニアには歓迎されるだろう。

今度はDレンジで走行中にフルスロットルを踏んでみると多少のタイムラグはあるがシフトダウン後は、実にスムースに6,000rpmまで吹け上がり、シフトアップ後も4,000rpm程度を維持して、それ以上のシフトアップは行わない。 そのまま様子をみると30秒程度して、加速モードは解除されて巡航モードになるようだが、なかなかにマニアックなシフト制御をしている。この1.6ℓターボエンジンはプジョーとBMWの共同開発でミニクーパーと共通だが、3008のスムースな吹け上がりは、同じエンジンの筈のミニクーパーを完全に上回っている。

3008の走行モードはコンソール上のATセレクター左横にあるボタン式のスイッチを使用するが、レバーの陰で見づらいし小さいしで、走行中に触りたくない代物だ (写真13)。この使いにくいスイッチのSを押してみると正面パネルの表示はDsとなりスポーツモードとなったのが判る。 このモードでは当然ながら巡航時でも2,000rpm以上を維持するし、アクセルを少し踏めばキックダウンをするなど、マニアが喜びそうな設定となる。3008のシフトスケジュールはDレンジも含めてフォルクスワーゲンのゴルフやポロよりもスポーティな設定となっている。 今度はSモードで例によって青信号からフルスロットルを踏んでみると、エンジンは6,000rpmまで引っ張って2速にシフトダウンされるが、そこからの加速は決して強力ではなく、そこはやはり車輌重量1,540kgに対して156psというBMW320i並のパワーウェイトレシオから判るように、絶対的な加速も320i並みと決して速くはない。

ところで、走行中は大いにお世話になるメーターだが、3008の場合はやたらと反射が多い。国産車なら大昔から反射しないどころか、ガラス(プラスチック)が無いんではないか、と思うほどに反射が少ないのだが、ラテン品質ではこんなものか(写真11)。
 


写真 11
メーターはやたらと反射がひどく見辛い。
 

 


写真 12
エンジンの始動はステアリングコラム側面のスロットにキーを突っ込んで回すというオーソドックスな方法だ。

 


写真 13
ATのセレクターはジグザグ式だが、パターン自体は一般的なもの。ただし、表記は左にあって見辛い。 写真左上のSと書かれた小さなスイッチでSモードを選択する。

 


写真 14
パーキングブレーキは電気スイッチを使用する。

 

動力性能については思いのほか出来が良かった3008だが、操舵感はあまり良いとはいえない。決して緩慢ではないのだが、パワステのフィーリングが良くな くて、何やらシックリしない。 それでも慣れれば特に気にはならなくなるかもしれないが、この点に関してはFFとは思えない程に出来が良いWV各車の方が勝っている。ただし、これは339万円という価格を考えてのことで、200万円チョイの国産SUV、例えばエクストレイル等と比べてみれば似たようなものなので、決して国産車が勝っている訳ではない。

乗り心地はというと、ディーラーの駐車場から表通りに出る際の段差を超えた瞬間に硬いのが判る。しかも、この時左右に揺すられたが、これは硬いだけでなくサスのストロークも短そうな感じがした。そして走行中は常に細かい突き上げがある。 それでも舗装の良い4車線のバイパスはまだ良いが、その後に一般的な市道に入ってからは舗装の継ぎ目では大きくガツンとくるし、しかもクルマ全体が跳ねるような兆候をみせるという、あまり嬉しくない特性だった。この硬いサスと高い着座位置は、コーナーリングではロールをしない代わりに、恐怖を感じてしまうことになる。 実際には、そう簡単に転倒することは無いだろうが、まるで軽ハイトワゴンのスポーツタイプみたいな感覚だ。 実はこのクルマのリアサスにはトーションバーの動きを規制する特殊なダンパーが装着されていて、ロールを抑えているそうだ。妙に硬くてロールしないサスの原因はこれだったのかもしれない。名のある評論家の先生達はこの装置を絶賛しているが、残念ながらB_Otaku には理解できないのは未だ未だ修行が足りないのだろうか?

以前乗った207GTのブレーキは如何にも不正確でストロークにガタも感じるという最悪のフィーリングだったが、その大きな理由は右側のドライバーが踏んだペダルは長〜い(そして出来の悪い)リンク機構により、左側にあるマスターシリンダーを押しているのが原因だった。 今回の3008のフレーキフィーリングは決して良いとはいえないが、まあ並の国産車程度にはなっていた。それで、ボンネットを開けて確認したらば、マスターシリンダーはやはり左側にあるようだが、リンク機構を大幅に改良したのだろう。まあ、マスターシリンダーがどちらにあっても性能的に問題が無ければ文句はないが・・・・・。
   

写真 15
MINI と共通の直4、1.6ℓ ターボエンジンは156ps/6,000rpmの最高出力と 24.5kg・m/1500〜3,500rpmの最大トルクを発生する。
ブレーキ液のリザーバータンク(白に黒いキャップ)が車輌左側に見えるように、マスターシリンダーも左側にある。

写真 16
高い着座位置と水平気味のステアリングホイールによりトラック的な運転姿勢になるが、視界もトラック並に良いから、全幅1,835mmとは思えないほどに取り回しは良い。


写真17
225/50R17タイヤと標準ホイール。

 


写真18
欧州車らしく4輪ディスクブレーキを装着している。リアキャリパーのボディ(シリンダーハウジング)は色合いからアルミ製だろう。

 

3008Premiumの339万円という価格は、あと24万円出せば先ごろ発売されて今や何ヶ月ものバックオーダーを抱えているというBMW X1 sDrive18iが買えてしまう。まあ、どちらを選ぶかというのはユーザー次第ということにしておこう。 ただし、プジョーの名誉の為に付け加えるとドイツでの3008Premiumは €24,050で、X1 18iは €27,200だから国内価格は3008がX1とくらべてボッタクっている訳ではない。いや、欧州の価格をみてもX1がBMWとしては戦略的な価格であることは間違いなく、一つ間違えばブランド価値の低下を招きかねない低価格化を決断したのは、ある面勝負に出たのかもしれない。
日系の2車種(の豪華満載上級モデル)の欧州価格は3008やX1に近い価格だから、ディアリスを買って 「欧州で買うとX1と変わらない値段なんだ。高いカネ出してX1なんて買うのはバカだね」 といって悦に入るのも良いかもしれないし、そう思っていれば幸せな人生を送れるだろう。
 
    Peugeot BMW Volkswagen Nissan Toyota
      3008 Premium X1 sDrive18i Tiguan
Truck & Field
Dualis 20G
Four
RAV4 2.4
Sport 4WD
 

車両型式

  ABA-T85F02 ABA-VL18 ABA-5NCAW DBA-KNJ10 DBA-ACA31W

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.365 4.470 4.460 4.315 4.365

全幅(m)

1.835 1.800 1.810 1.780 1,855

全高(m)

1.635 1.545 1.690 1.615 1,685

ホイールベース(m)

2.615 2.760 2.605 2.630 2.560

駆動方式

FF FR 4WD
 

最小回転半径(m)

  5.5 5.9 5.7 5.3 5.4

車両重量(kg)

  1,540 1,560 1,640 1,520 1,530

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  - N46B20B CAW MR20DE 2AZ-FE

エンジン種類

  I4 DOHC
Turbo
I4 DOHC I4 DOHC
Turbo
I4 DOHC

総排気量(cm3)

1,598 1,995 1,984 1,997 2,362
 

最高出力(ps/rpm)

156/6,000 150/6,400 170/6,000 137/5,200 170/6,000

最大トルク(kg・m/rpm)

24.5/1,500-3,500 20.4/3,600 28.6/1,700-4.200 20.4/4,400 22.8/4,000

トランスミッション

  6AT CVT
 

 燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

  10.6 11.4 9.7 13.2 12.6
 

パワーウェイトレシオ

(kg/ps)   10.4      

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット

トーションビーム 5リンク 4リンク マルチリンク ダブルウィシュボーン

タイヤ寸法

  225/50R17 225/50R17 215/65R16 215/60R17 235/55R18

価 格

車両価格

339.0万円 363.0万円 367.0万円 250.4万円 259.0万円

ドイツ国内価格

€24,050 €27,200 €28,375 €19,490
-26,440
€23,800
-29,750
 

備 考

  Griffe
385万円
xDrive28i
€41,800

 
欧州名:QASHQAI  

ディーラーによると、プジョーはBMWとは全く競合しないそうだ。それでは競合相手はというと、ずばりフォルクスワーゲンとのこと。まあ、どちらも欧州では普通のクルマであり、決してプレミアムなブランドではない。そしてこれ等の価格帯を考えると200万円代が中心で一部が300万円代に突入している。 勿論、特殊なモデルでは500万超えもあるが、多くのモデルの価格帯はBMWよりも低いところにある。と、いうことは、プジョーのユーザーはコテコテのプジョーファンばかりではないということだ。 チンケな国産車なんて乗りたくない。さりとて、400万円以上の予算もない。 そこで、手ごろな価格の”外車”はと探してみたらば、辿り着いたのがゴルフであり、308だったということか。 それでも最近のVWは小排気量ターボ攻勢での低燃費化や、200万円代前半のポロにまでDSGを標準装備するなど、その革新性は国産車に無いものがあり、あえて割高の輸入車を選ぶメリットも感じられるが、プジョーの場合にはVW程の技術的なアドバンテージもなく、お洒落なエクステリアが唯一の強み・・・・・・なんて、言うと、プジョー ファンが怒り狂うだろうから、ここらでお終いとしよう。

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