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Alfaromeo 159 2.2 JTS Selespeed (2010/8) 後編 |
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最初はMTモードで走ってみる。まずはシフトレバーをNから右に倒して●にいれる。これで、1速でクラッチを切った状態となる。なお、マニュアル
シフト操作はコンソール上のシフトレバーとステアリング裏面のパドルスイッチの双方で可能だが、先ずは他車で多少の経験があるパドルスイッチを使ってみる。
コンソール後方にあるオーソドックスなレバー式のパーキングブレーキレバーをリリースして、右足をブレーキからアクセルに踏み代えて、僅かにペダルを踏んでみるとクルマはユックリと動き出す・・・・ことはなく、微動だにしない。
あれっ?と、もう一度パーキングブレーキとセレクターレバーを確認するが、間違いなし。今度は少し強めにアクセルと踏むと、丁度MT車がスタート
時に多少エンジンの回転を上げて、半クラッチで発進するような感覚でクルマが動き出した。
そう、セレスピードは2ペダルMTなのだから、このミッションを使いこなすコツは、クラッチ操作が無い以外にはMTと同じ操作をすることだ。
走り出して少し速度が上がったら、パドルの右スイッチを引いてシフトアップするが、この時、パドルを引くと同時にアクセルを一瞬離すのがコツだ
(写真24)。
以前、同じアルファのブレラ(同じくセレスピード搭載)に試乗した際は、シフトアップ時も只ひたすらアクセルをベタ踏みのままという、トルコンATの乗り方をしてしまった為に、シフトアップの度にガツンっというショックを喰らってしまった。
そこで、今回は極力”クラッチが無い以外はMT”という事を頭に叩き込んでの運転を心がける事にした。
ところで、このパドルスイッチのフィーリングは、カッチっという如何にも精密メカとスイッチが繋がっているような気持ちの良いものかといえば、むしろその逆で、ストロークは長いし、何よりスイッチ自体がゴムのような、丁度安物の電卓の導電ゴムを使用したキーボードのようなフィーリングだ。
だから、最初はカチッとカッコ良く操作すると全く反応が無く、やけにレスポンスが悪く感じたが、実は速い動作ではスイッチが認識しないようだ。そこで、確実にレバーを引いて一瞬少し押し付けたままで保持するくらいの気持ちで操作すると、
ほぼ100%の作動をすることが判った。
159セレスピードのシフトはパドルと共にコンソール上のセレクトレバーでも可能で、操作方向は引いてアップ、押してダウンというレーシングタイプで、個人的にはこれが正解だと思う。BMWの場合は2002年頃から、以前の押してアップから押してダウンに変更したことで一時的には混乱もあったが、あの時の決断は正しかったと思う。考えてみると、引いてアップというのは加速度の方向と合っていて合理的だと思う。
それに複数のクルマを所有していて2方式が混在したら、イザと言う時に混乱するのは間違いない。これは本来ISOなどで規定して、世界の車を一方向に合わせることが必要だと思う。
シフトアップはレバーを引くタイミングで一瞬アクセルを戻すことで、ちょっと慣れると結句スムースに繋ぐ事が出来るが、シフトダウンはちょっと考えてしまう。MTと同じなのだから、左のパドルを引いたらアクセルを一瞬踏み込む事に
なるのだが、これは結構修行が必要かもしれない。
それで、何もしないよりは少し踏んでやった方がよりスムースなのが当然だが、間違うと一瞬とは言え派手にブリッピングしてしまう。
マニュアルでの操作も大分慣れてきたので、今度はオートマ動作となるDモードにしてみる。セレクターレバーを右に倒すと一回ごとにDとMを繰り返すフリップフロップ動作となる
(写真23)が、その結果はメータークラスター内のディスプレイに小さく表示されるだけだ。
Dモードで走り出した第一印象は大人しく走る分には、結構使い物になるという感じだ。スタート時の感覚にも大分慣れたとろこで、上手い具合に坂の多い道に遭遇した。流れに乗って40km/h程度で走行中に何ら
かの理由で上り坂で20km/hくらいまで車速が落ちて、
そこから加速する場合に一段シフトダウンしないと厳しいとドライバーは判っている状況で、クルマが上手く判断してシフトダウンするかどうかだが、
この時の動作はちょっと苛々する。
そして、強引にシフトダウンに持ち込もうとアクセルを踏んでキックダウンを誘っても直ぐには反応しないし、またまた苛ついて更にアクセルと踏み込むと、結構遅れてから行き成り派手なシフトダウンが起こり、回転計の針もビュンと上がることで、結構驚いてしま
う。結局、緊急のシフトダウンをしたい時は、左側のパドルスイッチを引くのが正解のようだし、慣れれば問題なく出来るだろう。
セレスピードは2ペダルMTだから、停車中はクラッチが切れている状態で、ブレーキペダルを放すと半クラッチ状態になるようだ。
従って、坂道発進の場合は下手をするとクルマが下がってしまうが、タイミングを掴めば上手く発進できる。更にはある一定以上の勾配を関知すると、ブレーキを
放しても一秒程度は停止を保持するヒルスタート機能もあるらしい。それでも心配なので、左手でパーキングブレーキレバーをリリースボタンを押したままで軽く引いておいて、発進と共にレバーを下げればスンナリと坂道発進が出来る。
Dモードでの問題は一寸刻みの渋滞で散見された。前が空いて、少し前進したいときに軽くアクセルを踏んでも例によって直ぐには発進せずに、つい待ちきれなくて多めにアクセルを踏んでしまうと思ったよりも加速してしまい、前車が
近づいてくる。
そこで慌ててブレーキに足を乗せると、やたら軽い踏力のブレーキは思いのほか効きすぎて、今度は急停車になってしまうというスムースとはかけ離れた運転になりやすい。そして一番の問題は、ユックリと減速をして20km/h以下で流していると突然に車が前後に揺すられるようなギクシャクとした動きが始まる。慌ててアクセルから足を離しても収まる気配はなく、試しにブレーキを踏んだらようやく脱出できた。
この妙なモードは、アルファのベテランドライバーも指摘しているから、構造上どうしようもない欠点なのかもしれない。
Dモード時のもう一つの問題は、変速が自動的に行われる事から、前述の変速の際のアクセルコントロールをしようと思ってもシフトタイミングがわからず、ハーフスロットル以上での加速ではシフトアップのショックが出てしまうことだ。
今度はスポーツモードを試してみる。切り替えはコンソール上のセレクトレバー手前の小さな丸いスイッチで、認識し辛さではトップクラスと嫌味を言いたくなるような位置にある
(写真23)。このスイッチも押すたびに一回ごとにON/OFFを繰り返すフリップフロップ動作をし、その結果はDモードと同じように小さな表示のみが情報の全てとなる。
このSモードにすると、シフトレスポンスもスロットルレスポンスも敏感になるのだが、実際に使用してみると、D(オートマ)モードの時にメリットが感じられた。すなわち、今まで度々苛々したレスポンスの悪さが解消されて、結構思うとおりの動作をしてくれる。結論としては
、DモードではスポーツモードをONにしたままが正解で、この時のレスポンスは普通のトルコンAT程度にはなる。
という訳で、今回は世間で評判のよろしくないセレスピードを徹底的に使ってみたが、ドライバーが精通することで、結構なんとかなりそうだし、トルコンATとは発想の違う装置を上手く動かすにはドライバーも発想を変える必要があるというのが結論だった。それで、お前は、自分でこれを買う気になったか?と言われたら、ちょっとねぇ。
アルファを買うなら、左ハンドル(LHD)がMTが正解のような気がするし、それはプジョーも全く同じだから、要するにラテン系のクルマはそんなものなのだろう。
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写真21
4気筒2.2ℓ NAのセダンにフルスケール260km/hの速度計と、如何にもラテン的ハッタリが憎い。 |
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写真22
前方視界は標準的で、国産実用車と変わらない。
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写真23
セレスピードのパターンは
右に倒す毎にマニュアル(M)とオート(D)を繰り返す。そして、左に倒すとニュートラルとなる(この位置は保持される)。
右下のスポーツモードスイッチは小さく使い辛い。
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写真24
パドルスイッチはオーソドックスな右がアップ、左がダウンとなっているので、違和感なく使える。 |
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159セレスピードの車輌重量は1,570kgとBMW320iより幾分重く、エンジンは320iよりも200cc多い2.2ℓで、パワー・トルクとも排気量に比例して勝っている。その数字のとおり
に、動力性能的には最新の170ps版320iより少し勝ると感じられた。
要するに決して速くは無いが実用上は十分だし、苛々する事も無い。なお、320iよりも加速性能で幾分勝っていると感じたのは、
排気量の差以外にも、320iがトルコンATであることから効率が劣るため、クラッチを自動化しただけのMTであるセレスピードの効率の良さ
も影響しているだろう。 そう、トルコンの無いセレスピードの効率は3ペダルのMTと同等なのだ。
えっ、それならDCTだって同じじゃないかって? そっ、そんな、事を言ったら、折角セレスピードを持ち上げたのが台無しになるではないか!
ステアリングは重くアンダーステアも強い。同じFFでもVWの出来の良さに対してアルファの場合はアンダーが強いのは156でも同様だったし、取り分け
車格に対して不相応に大きなエンジンを積んだGTAなどは曲がらないしトルクステアは強大だしと、トンでもないじゃじゃ馬だった。
まあ、それからみれば159 2.2のアンダーなんて可愛いものだ、なんていったら怒られそうだが・・・・。実際に159発売直後にMTモデルに乗ったときには、先代の156に比べて随分と普通になったと感じたものだが、VW
ゴルフのようにFFとは信じられないくらい素直な操舵性を持つクルマがある現
在では、
159の挙動はやはり古臭いが、まあ、それがアルファっていうものだろう。
そして、159の乗り心地は一言で言えば硬い。BMW3シリーズやメルセデスCクラスと比べて明らかに硬め
だ。この硬さが安定した走行に寄与しているのは理解できるが、最新のBMW3シリーズのように乗り心地と安定性を両立しているクルマと比較すれば、固めて安定させる手法もチョッと古いと感じてしまう。
それでブレーキはといえば、これがまたカックンもいいところで、幾らなんでもやりすぎのような気がするが、効き自体は悪くないから慣れれば何とかなる
だろう。実はボンネットを開けて調べてみたらば、何とブレーキ液のりザーバータンクは左側にあった
(写真26)。
そして、その下にはバキュームサーボが見えるということから、ブレーキマスターシリンダーを中心としてブレーキシステムの機器はLHD仕様そのままと言う事になる。以前のアルファのRHD仕様は、ブレーキが危険の一歩手前くらいの効きの悪さと、
右の運転席から左のマスターシリンダーまでの長〜いリンク機構のガタがハッキリわかる最悪のペダルフィーリングだったが、今回の159は、その点では大いに
改善されてはいた。
これは先ごろ試乗したプジョー3008も同様で、3年ほど前に試乗した207GTは酷かったが、それに比べて大いに改善されたいた。これ、もしかしたら、欧州のどこかの部品メーカーが出来の良いリンク機構を開発した、とかが理由のような気がするが・・・・。
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写真
25
直4、2.2ℓエンジンは185ps/6,500
rpmの最高出力と
23.4kg・m/4,500rpmの最大トルクを発生する。
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写真 26
右ハンドルなのに左側にあるブレーキコンポーネント。
@ ブレーキ液のリザーバータンク
A バキュームブースター
B ABSアクチェーター
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写真 27
装着されていたタイヤは235/45ZR18 PIRRERI P0 NERO
。日本人の感覚ではセダンへの装着などは考えないデザインのホイールなど、如何にもイタリアン。
ただし、標準品はもっと大人しいデザインのものが付く。 |
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写真 28
欧州車では一般的な鋳物の片押しキャリパーを装着している。 |
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写真 29
同じホイールでもブレラの場合はアルファのロゴ入りのブレンボ製キャリパーとなる。 |
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今回はセレスピードについて、かなり徹底して色々試してみたが、結論としてはマニアックであることは間違いない。しかしDCT(デュアルクラッチトランスミッション、VWのDSGやポルシェのPDKなど)が完成されてきた昨今では、そのメリットも殆ど無くなってしまったし、何よりセレスピードとほぼ同等なフェラーリのF1シフトも最新鋭の”458
イタリア”では7速DCTが搭載されるということで、F1シフトもいよいよお払い箱か?という状況になってしまった。
それでも見方を変えれば、如何にもアルファらしいセレスピードが買えるのも今のうちだから、イタ車マニアなら販売が中止される前に買っておくのも手かもしれない。噂によるとアルファは159の次期モデルは発売しないとも言われている。と、言う事は、Dセグメントからは手を引くのかもしれない。147はモデル末期とは言え
、それなりに売れているようだから、その次期モデルといわれるアルフェッタに全てをかけるのだろうか。いずれにしてもアルファの将来は前途多難なことは間違いない。
この試乗記を書き終えて、念のために輸入元の公式HPを再度確認してみたらば、何といつの間にか159のLHD(MT)は設定が無くなっていた。しかも、セダンとワゴンがそれぞれ2.2と3.2の1グレードづつ、合計で4モデルのみに整理されている。
これは、もう、近々輸入が途絶える前兆かもしれない。
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