Porsche RS60 Spyder (2010/2)


ホイールと専用のボディカラー、そしてオープンボディから覗くカレラレッドの内装がボクスターSとの違いとなる。
 

1960年代に活躍したポルシェのレーシングモデルであるタイプ18 RS60スパイダーのイメージを再現したのが、2007年11月に発売されたRS60スパイダーで限定生産により世界で1960台、日本には37台が割り当てられた。


写真1
新旧のRS60スパイダー。オリジナルは随分と小さいのが判る。

ミッションは5Tip(AT、914万円)または6MT(872万円)、ボディカラーはGTシルバーメタリックで内装はカレラレッドのナチュラルレザーが基本だが、ダークグレーナチュラルレザーインテリアも選ぶことが出来た。

エンジンはエクゾーストシステムが異なり、基本的にはボクスターSの3.4ℓ(3387cc)エンジンと同一ながら295psから303psに向上している。このRS60は〜2008モデルだからベースはいわゆるフェイズ1で、フェイズ2は公称は同じ3.4ℓながらも実際には直噴3436ccと別のエンジンである。

今回試乗したのは6MT、内装はカレラレッドのモデルで限定生産により数が少ない事にも増して、今では少数派のMT(カレラの場合、MTはもっと少数派だが)車という、滅多にお目にかかれないクルマだった。 フルオープンの状態で眺めるRS60は、言ってみればホイールが見慣れないものという以外は普通のボクスターSと大きく変わらないが、見る角度 によっては真っ赤なカレラレッドの内装が見え、これ が実に華やかだ。GTシルバーメタリックというボディ色も、チョッと見ただけでは標準のアークティックシルバーメタリックとの違いを一目で見分けられる人も少ないだろう。なお、エクステリア にはRS60Spiderのエンブレムは何処にもなく、リアのトランクリッドにも”Boxster S”のエンブレムが付いている(写真3)。
 


写真2
リアーから見ても基本的にはボクスターSで、切り替え式のマフラーも外観上は特に標準品の区別が付かない。

 


写真3
リアトランクリッドのエンブレムも”Boxster S”のまま。

ドアを開けるとサイドスカットルプレートには”RS60Spyder”のエンブレムが 目に入る (写真7)。 シートの座面は良く見ると細かい通気穴が開いていて(写真6)、カレラSの標準レザーシートなどよりも高級感では上だった。シートに座っても基本的にはボクスターその物だが、カレラレッドのインテリアカラーが独特の雰囲気を醸し出している。 また、グローブボックスのカバーにはシリアルナンバー付の”RS60Spyder”エンブレムが貼ってある(写真8)。 正面のメーターもボクスターSと同じだがメーターナセルは異なる からドライバーズシートに座ってメーターを見たときの雰囲気は標準車と随分違うように感じる(写真11)。

シートに座って室内を更に見回すと、センタークラスターのオーディオやエアコンのコントロールパネルは標準と変わらないが、両サイドのパネルはレザー仕上げでステッチもハッキリと見える(写真 9)。また、センターコンソールはエクステリアと同色の塗装が施されている(写真10)。

RS60に限らずクルマというものは内装に金を掛ければベースグレードとは見違える程の高級感を醸し出すもので、例えば BMW120iにフルオプションを付けると、 それこそ5シリーズ顔負けの豪華さとセンスの良さを満喫できる(価格も上級車並みになるが)こととなる。

ボクスターのエンジンは 初代の986発売時の1996年には2.5ℓで可変バルブブタイミング機構であるバリオカムを装備して206psを発生していた。2000年には2.7ℓ 220psと排気量もアップされ、2003年には228ps というように、年と共に確実にパワーアップされていった。そして2004年には987へのフルモデルチェンジ(FMC)により、エンジンも240psにアップされ、2007年には可変バルブシステムと可変バルブリフトシステムを一体化した 911並みのバリオカムプラスに進化 し245psとなった。更に2009年モデル(フェイズ2)では2.9ℓ 255psにまでアップされた。
ボクスターの上級モデルであるボクスターSは2000年の登場時点では3.2ℓ 252psエンジンを搭載していたが、2003年には260psにアップ、2004年には280psとなり、2007年にはケイマンSと共通の3.4ℓ 295psにまで進化した。RS60スパイダーのエンジンは この295ps版を元に、切り替え式のデュアルテールパイプをもつ専用エキゾーストシステムを採用するなどで、303psまでアップしたものが搭載されている。
このエクゾースト切り替えはセンタークラスター下部のスイッチ(写真9)で走行中に切り替えられる。その効果については、後ほどお伝えしよう。
なお最新のボクスターS(フェイズ2)は、排気量は3.4ℓながら、カレラと同様の直噴化された新エンジンにより、310psを発生する。
 

写真4
基本的にはボクスターSと変わりは無いが、カレラレッドの内装はマルで印象が異なり、あたかも違うクルマのように感じる。
インテリアの質感は流石に高い・・・・が、値段も高い。


写真5
シート形状は標準と同じながら、色や表皮の材質が異なる。

 


写真6
シート表皮はカレラSと比べても高級感では勝っている。


写真7
ドアを開けるとサイドスカットルプレートに”RS60Spyder”の文字が現れる。

 


写真8
グローブボックスの蓋にシリアルナンバーの付いたRS60Spyderのエンブレムが貼ってある。


写真9
標準のボクスターと同一のセンタークラスター操作部分。
写真の黄↑はマフラーの切り替え式スイッチ。

 


写真10
センターコンソールはエクステリアと同色に塗装されている。

エンジンを始動するにはキーをダッシュボード上のキーホールに差し込んで、クラッチを踏みながらキーを右に捻るというオーソドックスな方法で行うが、LHD車の場合はキーホールが左端にあるために、操作は左手で行うことになる。この儀式の為にクラッチペダルを踏んだ瞬間に最近のクルマとしては異様に 踏力が大きいことを感じる。それでもGT2などのようにボディービル用の筋肉増強器具的な重さから比べると軽いのだが、CR−Zなどのようにスカスカに軽いクラッチが主流でもある最近の傾向からすれば、やはり異常に重たい。 ただし、ここまでの話は別にRS60に限らずボクスターの6MTに共通していることでもある。なお、フェーズ1のボクスターに標準装備されていたVW製の5MTと組み合わされているクラッチはもう少し軽い踏力だった。

いよいよ走り出すために重いクラッチを改めて踏むと、基本的にはボクスター(2.7)にオプションで6MTを装着されたモデルと同一の筈だが、気のせいか更に重く感じた。 ただし、これは最初だけで、乗っているうちに完全に慣れてしまったから相対的な重さの違いは大したことは無さそうだ。クラッチを繋げてユックリと走り出してみた第一印象は 2.7ℓと比べて流石にトルク感を感じるし、これならエンストの確率もグッと減るだろう。2.7の場合は、MTに相当慣れたドライバーでも 初めてボクスターを運転するとエンストの洗礼を受けるのが定番だったが、3.4なら多少ヘボなドライバーでも乗り易そうだ。 2.7の6MT仕様はファイナルギアまで含めて3.4ℓと全く同じギア比だから、回転数と速度の関係も当然ながら全く同じとなる。

実は本サイトの試乗記ではボクスターSは今まで取り上げていなかった事もあり、今回はフェイズ1ボクスターSのMT試乗記を兼ねていると思ってもらおう。ただし、RS60は標準のボクスターSに対してスペック上は8ps上回るのとチューングが多少違うかもしれない点は考慮の必要がある が、恐らく大きな差ではないだろう。

先ずは一般的な郊外の地方道を走り始めると、やはり2.7に対する低域トルクの大きさは直ぐに実感されるが、だからといって流れに乗った50〜60km/h走行で4速までシフトアップしてしまうと2,000rpm以下になってしまい、まあ、それでも巡航はできるが、幾ら低速トルクがあるとはいってもMTのミッドエンジンポルシェ (ボクスターはポルシェとは言わない!という純なマニアもいるが)を乗るユーザーならば2,500〜3,000rpmで巡航すべきだ。それでは低域トルクのご利益は無いのかといえば、いいえ、そんなことは ありませんよ。交差点を左折するときに2速までシフトダウンしても、直進方向の横断歩道を横切るときには15〜20km/h以下となるが、この時のエンジン回転数は1,000rpm程度になり、そのまま加速していく時のレスポンスなどは2.7ℓに対して明らかに勝っている。

ポルシェの試乗ではお馴染みの6車線の国道バイパスに到着したので、早速フル加速を試みてみる。交差点の青信号と共にクラッチをミート。ただし、ポルシェの場合は高回転 でクラッチを一気に繋げる所謂レーシングスタートは昔からご法度と言われている。まあ、最近のモデルはそれ程気にすることはないが、以前の空冷時代にはアイドリングでクラッチを繋ぎ、完全にミートしたら初めてスロットルを踏むというプロセスを無視すると、クラッチはアッというまに減ってしまう。へえ〜っ、ポルシェのクラッチってそんなに弱いのか?高い割りにショボイの使ってんじゃんか。な〜んて早とちりをしてはいけない。普通のクルマはクラッチをミートする時に徐々に加わる回転トルクを、クラッチフェーシングを滑らしながら伝えるとともに、 プロペラシャフトやその他駆動系の捩れやエンジンマウントが撓むことでトルクを吸収するから、クラッチにかかる負担が軽い。これに対して全ての部品が高剛性で、しかもリアにエンジンを積むから長いプロペラシャフトによる捩れも無く、更にエンジンマウントも硬いからエンジン全体を捻っての吸収も殆ど期待できないポルシェの場合は、 トルクを吸収するのは全てクラッチフェーシングとなってしまう、というのが原因だ。

加速感は当然ながら2.7ℓボクスターよりも上回り、998フェイズ1ノーマルカレラの5AT(Tip)と同等以上だった。RS60のエンジンは、2007年からカレラと同様にバリオカムプラスが採用されたボクスターSを基本としていることもあり、それ以前のモデルに比べて高回転時の吹け上がりに無理が無い。ポルシェは政策上ボクスターの高回転域でのエンジンフィーリングをわざとカレラよりも落としているのだが、 RS60のエンジンはフィーリングもノーマルカレラに近いものだった。それでは、カレラのセールスポイントはどうなるのだろうか、と余計な心配をしてしまうが、カレラはカレラなりに改良されていくし、 何よりも2年後にはフェイズ2となり、ボクスター/ケイマンはベースモデルが2.9ℓ化されたが非直噴で、”S”はカレラと同じ直噴エンジンが搭載されるなど、モデル間の差を振り出しに戻すこととなる。
前述のように、RS60には切り替え式のエクゾーストシステムが標準装備されている。先ずはノーマル状態で走ってみると、標準のボクスターSよりも多少”ボーッ”という音がするが、概ね同じような排気音だった。ボクスター系の排気音については、987型に進化した初期には驚く程過激な爆裂音を発生して驚いたものだった。この時の音は、あのナンバープレートを付け たレーシングカーであるGT3と似たような種類の音で、レース好きにはGT耐久のマシンに似ていると大いに好評だった。ところが残念なことに3年目の2007モデルからは明らかに大人しい音にチューニングされてしまった。
そういう経緯を頭に叩き込んで、今度はエクゾースト切り替えスイッチを”スポーツ”にすると、結構派手なボーッという音になる。ただし残念なのは、この俳気音は987初期型の爆裂音ではなく、国産車用の後付マフラー、言ってみればR32〜34GT−Rの多くが付けているストリート用の社外品スポーツマフラー的な音がすることだ。まあ、これは好き好きの問題でもあるが。


写真11
メーター自体はボクスターSと同一だが、メーターナセルが異なるために見た印象は結構違う。

 

 
写真12
シフトノブも専用品が使われている。
 


写真13
ペダルは右に寄っていて、アクセルペダルはセンタートンネルぎりぎりまで寄っている。
H&Tでは踵がトンネルに確実に当たる。

 


写真14
視界は当然ならがボクスターと全く同じ。

RS60の標準タイヤはフロント235/35ZR19、リア265/35ZR19 という扁平なものが付いている。このためもあり、標準でフロント205/55ZR17、リア235/50ZR17を装着するノーマルボクスターと比べると、標準装備のPASMをノーマルにしても乗り心地は明らかに硬い。今までの経験では、PASMをノーマルで使用すると驚く程乗り心地が良く、取り分けフェイズ1のカレラSは硬さはあるが高級サルーンを含めても乗り心地の良さでは最高の部類だった。これが同じカレラSでもフェイズ2になると幾分スポーツ側に振ったようだが、 「スポーツカー = 乗り心地は我慢」 という式は全く成り立たない。そして、RS60も硬いとは言っても基本的には良好な乗り心地に変わりはない。

ノーマルボクスターのステアリングは中心付近から軽く、手首の微妙な力の入れ具合で車の鼻先は左右に振れるくらいにクイックだが、慣れればドライバーの思い通りに操舵できるのが最大のメリットだ。ただし、フロントが55扁平であることから判るように、タイヤのハイトが比較的高いことによる極僅かの捩れのためだろうか、 中心付近で微秒な不感帯というか遅れがある。ただし、これが逆に操作し易さをもたらしていて、このタイヤの組み合わせが実に合っていると思えてくる。これに対してRS60は19インチの35扁平だから、ステアリング中心付近ではゴムを捩るような微妙な遅れは無く、ステアリングはある程度の重さで直進が保持されていて、そこから操舵するには、 これまたある程度の力を入れないとステアリングは動かない。したがって、ノーマルボクスターでは手首を捻るだけの操舵が、RS60の場合は少し力を入れて極少量動かすことになるが、これはどうしてもガッと一瞬の力を入れることになり、 ノーズはピッというかカクっと動く。したがって、助手席のパッセンジャーからしたら、ボクスターの方がスムースに感じるのではないか。ところで、RS60は MTの場合RHD(右ハンドル)設定が無いために、試乗車も当然LHDだった。この右か左かについては一長一短で簡単に結論は出ないのだが、右側のシートに座ることになるパッセンジャーから見ると違和感大有りで、しかも対向車が自分の右をギリギリですれ違っているように感じるから結構恐怖だ。同じ右側に座っていても、自分自身がハンドルを握っていれば、対向車がスレスレですれ違ったといっても、自らがそのように操作しているのだから全く恐怖感は無いが、右に座っている同乗者からすれば、予定通りですれ違う 「想定内」なのか、それとも衝突するような「緊急事態」なのかが判らないことによる大いなる恐怖を感じてしまうのだ。

最近の傾向としてタイヤがやたらに扁平化しているが、これはタイヤ技術の進歩で扁平タイヤでも乗り心地を大きく損なうことが無くなった事もあるのだろうが、普通の乗用車でも50扁平は当たり前で、ちょっと上級モデルになると40扁平を標準で履いていたりする。これは一昔前のスーパーカー並で、どう考えてもオーバースペックだろう。例えば、1995年発売の最後の空冷911である993型では 、フロントが205/55ZR16、リアが245/50ZR16というタイヤの組み合わせだった。これは最新のボクスターより大人しいくらいで、フロントが16インチの55扁平なんていうのは最近では並のDセグメントサルーン 程度となってしまう。
話を操舵感に戻すと、これは好みの問題でもあるが、個人的にはボクスターは標準の17インチか、もしくは精々18インチに留めたほうが扱い易いと思う。事実、以前試乗した初期型ケイマンSはフロント235/40ZR18、リア265/40ZR18を装着していたが、RS60程には中心付近の初期操舵力が大きくは無かった。

今回のハンドリングテストはポルシェの試乗ではいつも使っている取っておきのワインディングロードを走ってみた。そして結果はといえば、前述のように中心付近での切り始めの操舵力が大きめとかの違いはあるが、基本的にはボクスターそのもので、コーナーリング中にトルクを掛けすぎたりしなければ、弱いアンダーステアの実に素直な特性でコーナーをクリアしていく。そして、初期のケイマンSのように冷や汗をかくようなシビアな特性でもなく、2.7ℓのボクスターよりも重量増 であることによる軽快感の欠如も殆ど感じられないし、中々のものだった。
実はこのコースは、昨年末にフェイズ2のカレラSでも走っているのだが、この時のコーナーリング速度に比べると、今回のRS60は多少遅いのも事実だった。というよりもカレラSと同じようなマージンを取って余裕でコーナーリングしようとすると、どうしても旋回速度が遅くなってしまう。実はフェイズ2のカレラSはフェイズ1に比べてステアリング特性が大幅に向上していた、というか、クルマ自体のスポーツ度が大きくアップしていたのだった。これはフェイズ1が駄目だというのではなく、寧ろ特殊なマニア 以外はフェイズ1の扱い易さというか、グランドツーリング的な乗り味の方が、金持ちのハイウェーツアラーとしては適していたような 気がする。逆に、マニアにとっては嬉しい変化で、フェイズ1だとスポーツ度という点ではボクスター/ケイマンに敵わなかったことから、どうしても911系でスポーティーは走りを求めるにはGT3 が欲しくなってしまったのだが、フェイズ2のカレラSは充分にマニアを納得させるだけのものがあった。
まあ、ボクスターの場合はオープンというカレラには出来ない芸当があるから、それなりのメリットもある。と、書くと、カレラにもカブリオレがあるのを知らないのか!なんていうメールが来たりするので、一言触れておくと、カレラはあくまでもクーペベースに屋根をとっ払ったカブリオレで、最初からオープンボディを前提に設計されたボクスターとは生まれもコンセプトも違う。まあ、そうるとケンマンの立場は微妙になるのだが。

ところで、昨年試乗したフェイズ2カレラSに話を戻すと、フェイズ1との違いには2ペダルの場合にミッションがトルコン式のティプロトロニック(Tip)から最近流行のDCT(デュアルクラッチ)タイプであるPDKに変わったことも大きな違いだった。Tipではトルクコンバーターにより 多少のトルクを吸収するためにダイレクトな駆動トルクの調整が出来ないが、PDKは直結だからダイレクトに駆動力が繋がることにより、シビアなトルク調節が出来ることになる。そして、コナーリング中の微妙なトルクコントロールによりクルマの挙動を制御することが出来、 要するにアンダーを強くしたり弱くしたり(極端にはオーバーステアにしたり)が自在に出来ることから、より安定したコーナーリングが出来ることにもなる。コーナーリングを楽しむとはいえ、今時そんな面倒な事をやらずとも、普通に曲がれるんじゃあないか?という疑問も湧くだろうが、イイガゲンに走ると 、言う事を聞いてくれないのがリアエンジンである911系の楽しいところで、これこそが重症のクルマおたく達が絶賛する理由でもある。

次にミッションフィーリングについてだが、これはもう通常の6MTと全く同じで、ゲトラグ製のミッションは極めて軽くスムースにシフト操作ができ、個人的には現在知る限りでは最も良いミッション だと思っている。MTに関してもう一つの気がかりは、3つのペダルが必要なことからペダル配置に無理が出る場合があることだ。特にタイヤハウスが右側にあるRHDの場合に問題が多いので、今回のようにLHDならば先ずは問題が無さそう だが、実はそうでもなかった。何が問題かといえば、写真13を見てのとおりで、全体に右によったペダルは右端のアクセルペダルが殆どセンタートンネルの壁にギリギリの位置にあることで、オジサン達の大好きなH&Tをやろうとして、右足を大き く左回りに捻ると、踵が壁に当ってしまうのだ。勿論、クルマに合わせてそれなりの動作をすればいいのだろうが、それにしても踵がアクセルペダルから一切はみ出せないというの実にやり辛い。もっとも、ポルシェは昔からH&Tを勧めていないので、必要無いと言われればそれまでなのだが・・・・。
この事実はRS60と無関係で、全てのボクスター&ケイマン、それどころかカレラも含めて、LHDの3ペダルに共通な筈だが、今頃気づいたのは何故だろうか? 3年ほど前に5MTのケイマンを1週間程借用したことがあったのだが、あの時は特に感じなかったのだが??

ブレーキについては、これもボクスターSと全く同一で、赤く塗装されたキャリパーと穴あきのローターはお馴染みブレンボーよりOEM供給されているもので、宇宙一と言われるポルシェのブレーキの中では、少しストロークが長いのとガチガチ感が少ないのだが、勿論他社とは比べ物にならない優れたブレーキでもある。そして、更にガチガチ感満点なブレーキが欲しければ、カレラS以上を選ぶしかない。因みにノーマルカレラはボクスター/ケイマン(何れもSを含む)と同一のブレーキシステムなので、カレラS程の剛性感はない。

初代ボクスター(986)が発売されてから14年。2代目の現行987でも発売以来5年以上が経過しているが、未だにこのクラスでは事実上ライバルが不在ともいえるくらいに現役バリバリだ。そのボクスターも年々高性能化して、現行のフェイズ2ではノーマルでも2.9ℓ、255psという20年前の964カレラ並の性能となってしまった。勿論、カレラだって毎年進化してきたから、今や最新のカレラは3.6ℓ 345psにも達し、カレラSに至っては3.8ℓ 385psという恐ろしい性能となっている。そして現行ボクスターSは3.4ℓ 310psで、こうなるともう軽快なロードスターというにはパワーがあり過ぎではないか 、とも思う。噂ではポルシェは近い将来、ボクスターよりも排気量の少ない軽量ロードスターを発売するとも言われている。たぶんVWとの共同開発となり、エンジンもVW製となるだろう。その昔のワーゲンポルシェ914の再来ともいえる新ロードスターは、しかしポルシェらしさという点で大ヒットしたボクスターとは全く考え方が違うし、914自体は決して成功作ではなかった。果たして歴史は繰り返すのだろうか?
 


写真13
標準装着の19インチ スポーツデザイン ホイールはフロント235/35ZR19、リア265/35ZR19タイヤと組み合わされる。

 


写真14
ブレーキキャリパー、ディクスローターともボクスターSと同一。

このRS60 Spyderは既述のように日本国内で37台の限定販売だったのだが、中古車を検索してみると意外に弾があったりする。今現在だと判で押したように650万円前後の価格が付いている。これって、買ってはみたけれど毎日の実用にするには勿体無いし、それでいて将来値が上がるかといえばそれ程でもない。結局今のご時世では中途半端な存在なのかもしれない。日本に再びバブルでも来れば値上が りすることもあるかもしれないが、今の情勢では当分は無さそうだ。

今回の試乗記はいつもと異なり新車で手に入らないクルマを扱ってみた。そして、より写真が見易いようにと通常の試乗記に比べて写真の寸法を少し大きくしてある。この赤い内装を見て、 心ときめいたならば、中古車詮索などしてみては如何だろか。