NISSAN FUGA 370GT & 370GT Type S (2009/11) 後編 ⇒前編

    

 

フーガのエンジン始動は当然のようにインテリジェントキーとスタートボタン(写真17)による。今回の試乗では370GTと370GT TypeSの両方に乗ってみたが、先ずは370GTから。 モードスイッチ(写真21)をノーマルにセットして走り出すと、ボディが大きいとはいっても3.7ℓエンジン搭載だから当然ながらスタート直後から充分なトルク感を感じる。最初に決して広くない地方道を走ると、前車に離れた時などアクセルを踏んでもレスポンスはそれ程悪くはないが少し物足りない。 そこでスポーツモードに切り替えると今度はチョッとしたアクセルの動きに対して敏感に反応するが、少しオーバーに反応するので走りがギクシャクしてしまう。 これはBMW525i(E60)の初期モデルでスポーツモードを選んだときに似ている。スロットルがオーバーレスポンスな割にはシフトスケジュール自体は大きく変わらず、一般走行時の回転数もノーマルより多少上がるくらいで、BMWのように常に3,000rpm程度で巡航するような熱い走りはしない。 ただし、キックダウン時のレスポンスは良くなるから、巡航中にアクセルをガンっと踏み込んでからシフトダウンするまでの遅れはスポーツモードの方が 短い。ただし、フーガのATの学習機能がどの程度で、試乗車がどんな状況に躾けられていたのかは不明なので、何ともいえないが・・・・・。
モードスイッチにはこのほかECOモードがあり、これは他車でも御なじみのようにトロくて使えないし、反応が遅いのでどうしてもアクセルの踏みすぎとなり結果的には 大してエコでもないが、メーカーのドライバーがデーターを取ればエコな結果がでるという例の奴だ。勿論ECOモードは一応試してみただけで即座に切り替えてしまった。他にスノーモードがあるが、これは雪道などのスリップし易い路面用なので、当然舗装路では無意味となる。

タイプSの場合も同じエンジンだから動力性能は基本的には変わらない。最大の違いはステアリング裏にパドルスイッチ(写真19)が付いている事だ。ベースグレードだってマニュアルモードはあるが、コンソール上のセレクター (写真18)を前後するために 使い難く、それならDモードで充分だ、ということになる。タイプSのパドルスイッチを試すに当たっては当然ながらSportモードを選んでからセレクターをD位置から右に引く (倒す)。 パドルスイッチは右側がアップ、左側がダウンのF1タイプだから混乱無く使えるのがありがたい。 このマニュアル操作によるレスポンスは充分で、その気になれば結構楽しめるが、実際には納車された直後に使ってみるだけで、 結局はDレンジで普通のオートマとして使うのがオチだろう。


写真16
日本車お得意の自光式メーター。

 


写真17
ステアリング左側のダッシュポードにあるエンジンのスタート/ストップスイッチ。

 

写真18
ATセレクターのポジションは最近の常識であるティプトロタイプ。

 

写真 19
TypeSにはマニュアルシフト用のパドルスイッチが付く。写真は右側のアップ。左は当然ダウンとなる常識的な配置で違和感がない。

 


写真20
国産車だけあってRHDでもペダル配置は適正だ。写真は370GTだが、 TypeSにはアルミのペダルが標準装備される。

 


写真21
ATセレクター手前にあるモードスイッチ。●(ノーマル)から左にECO、SNOWで左に回すとSPORTとなる。
両端の小さいダイヤルはシートエアコン(OP)の設定用。

 

動力性能的には大きな差が無いベースグレードとType Sだが、乗り味は大いに異なった。始めにベースグレードに乗ったが、ステアリングの中心付近では何やら緩慢で、先代のフーガに比べてコンフォートに振ってしまったのだろうか。 低速では極軽い操舵力は30km/h程度まで速度が上がると適度になり、直進性も良いがセルフセンタリング性については何やらわざとらしいというか、電子的に騙しているようなフィーリングがある。言ってみれば家庭用ゲーム機の プレーステーションでグランツリスモをハンドルの付いた専用コントローラを使って(ゲーム上で)走っている時の、あの不自然なセンタリングのような感じがする。そして乗り心地はといえば結構良いが細かい振動などはある程度伝わってくるか ら、フワフワの乗り心地が高級車だと思っているユーザーは多少の文句も言うかもしれない。ひと言で表せば、内装同様に先代の欧州車的な乗り味に比 べると可也のオヤジ向けになってしまったといえる。

このベースグレード(370GT)は最初に内装を見た瞬間にメゲたし、シートに座ってまたズッコケて、走り出したら愕然とするという、ハッキリ言って今度の新型フーガはチョッとヤバイんじゃあないかと思ったのだが、タイプSの内装 を見たら幾分元気になって、さて今度は走ってみると?

結論を先に言えばTypeSの乗り味は370GT(ベースグレード)とは全く異なっていた。まずステアリングは極低速では極めて軽いのは 370GTと変わりは無いが、巡航速度になればノーマルモードでもシッカリしたフィーリングで、これなら少なくとも先代より劣る事はない。 このタイプSの乗り味に一安心していると、ここからはワインディング路の入り口となったので、即座に左手でコンソール上のATセレクター手前にあるダイヤルを回して、正面にSPORTと表示されるのを確かめる。フーガのモード表示は切り替えた瞬間に大きく白抜きでモードが表示されるが、その後 すぐに消えてしまう。したがって走行中に、今どのモードだったっけ?と確かめたい時はコンソール上のダイヤルに眼をやる事になるが、走行中にこの位置に視線を移動するのは危険だから、ハッキリいって遣いづらい。 それとも、何処かの設定で常時小さい表示でも出るのだろうか。
Type Sのコーナーリングは国産セダンの中でも充分に上位に入ることは間違いない。要するに普通のドライバーが普通よりチョッと頑張ってコーナーを通過する程度なら殆どニュートラルに近いしロールだって極僅かで、成る程BMW5シリーズ的だし、旋回性能のみならばメルセデスEクラスを上回るかもしれない。

370GTのブレーキはオーソドックスな鋳物の片押しキャリパーを使った一般的なシステムだ(写真23)。最近のクルマらしく軽い踏力で良く効くから、日本で普通に乗る分には何の問題もない。そして370GT TypeSには前後にアルミ対向ピストンキャリパー (写真24)が装着されている。これはスカイラインクーペやフェアレディZの上級スポーツグレードに装着されている のと同じもの(塗装色は違うが)だ。 対向ピストンキャリパー装着というと、殆ど遊びのないガチガチのブレーキを想像するが、Type Sの場合は意外と普通のブレーキと変わりないフィーリングで、一体何のメリットがあるのかとも思ってしまうが、大径のアルミホイールから覗くシルバーのキャリパーはステイタスという面では充分なメリットがある。それにフェアレディZのような特性にしたならば、フーガの一般的なドライバーには違和感を感 じるだろうから、これで良いのかもしれない。  

写真22
V6、3.7ℓのVQ37VHRエンジンは基本的にはフェアレディZやスカイラインクーペと共通で333ps/7,000rpmの最高出力と 36.8kg・m/5,200rpmの最大トルクを発生する。
 


写真23
370GT(ベースグレード)は245/50R18タイヤを標準装している。

 


写真24
370GT TypeSは245/40R20タイヤと標準装備。

 


写真25
370GT(ベースグレード)は一般的な鋳物の片押しキャリパーを使用している。

 


写真26
TypeSになるとフロント4ポット、リア2ポットの対向ピストンキャリパーを使用している。これはフェアレディZやスカイラインクーペのスポーツモデルと同一品の色違い。

 

さてフーガのライバル比較に際して今回選んだのは米国でのライバルとなっている 3車で、Hyundai以外は何れもEセグメントのプレミアムブランドとしての定番モデルだ。 ここに Hyundai Genesisを何故入れたかといえば、08年末の発売以来破竹の勢いで09年前半の売り上げはMB EクラスとBMW5シリーズに継いで3位となっている 注目株であるからだ。 確かに値段の安さが最大の魅力に違いない。なるほどスペックだけを見れば、日本車もドイツ車も、そして韓国車でさえ似たようなものだが、実際乗ってみれば夫々の個性(と言っておこう。 ただしジェネシスは乗ったことがない)があるし、結構フィーリングは異なるのだが。
またグレードは何れも3.5ℓクラスとしたが、Eクラスの場合は1.8ℓターボのE250CDIならばエコ減税の適用により、フーガの上級グレードとそれ程変わらない価格になるのだが、その件はE250CDI試乗記で取り上げることにする。
 
    Nissan Lexus Mercedes
Benz
BMW Hyundai
      Fuga 370GT
Type S
GS350 E350
Advangard
535i Genesis 3.8L
 

車両型式

  KY51 GRS191 212056C CBA-FR35 -

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.945 4.850 4.870 4.910 4.976

全幅(m)

1,845 1.820 1.855 1.860 1.864

全高(m)

1,500 1.425 1.455 1.475 1.481

ホイールベース(m)

2.900 2.850 2.875 2.970 2.936

駆動方式

FR
 

最小回転半径(m)

  5.6 5.2 5.5 -

車両重量(kg)

  1,750 1,650 1,710 1,820 1,700

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  VQ37VHR 2GR-FSE 272 N55B-30A -

エンジン種類

  V6 DOHC I6 DOHC Turbo V6 DOHC

総排気量(cm3)

3,669 3,456 3,497 2,979 3,778
 

最高出力(ps/rpm)

333/7,000 315/6,400 272/6,000 306/5,800 290/6,200

最大トルク(kg・m/rpm)

37.0/5,200 38.4/4,800 35.7/5,000 40.8/
1,200-5,000
-

トランスミッション

7AT 6AT 7AT 8AT 6AT
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

9.5 10.0 9.5 10.6 -
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

5.3 5.2 6.3 5.9 5.9

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ダブルウィシュボーン 5リンク ダブルウィシュボーン 5リンク

マルチリンク インテグラルアーム 5リンク

タイヤ寸法

  245/40R20 225/50R17 245/45R17 245/45R18 225/55R17

価格

車両価格

492.45万円 552.0万円 850.0万円 835.0万円  

備考

      2010.3
国内発売
国内未発売

米国価格
(参考、ベースグレード)

Infinity G35
(Y50) $45,800
$45,000 $48,600 $55,950 $32,250

なお、米国の価格は例によってスッピン価格だから実際には$5,000〜10,000位のオプションの装着が必要となる点に注意が必要だし、E 350の国内価格はアヴァンギャルドのため850万円と高価だが、E300ならばベースグレードもあり、その場合は730万円となる。 そして、Genesisについては、米国では結構売れているといっても実は絶対数の少ないEセグプレミアムブランドと比較した場合なので、台数が多く激戦区のDセグメントでSonataが Camryとどう戦っているかなどは日記を参照願いたい。

そろそろ、フーガに付いての結論を述べてみよう。
新型フーガ、特に今回乗った350GT TypeSは国産Eセグメントサルーンとしては内容的にトップであることは間違いない。しかも、米国では同じような価格帯のGS、E350、530i(近日中に535i)と比べれば国内価格の安さからくる買い得感は抜群だが、実際に 国内ではクラウンとの勝負となるから結局は折角のセールスポイントが理解されないことになる。 そして、余りにも米国人好みに振っているというのも日本では売りにくいだろう。ハッキリ言って、フーガというクルマは米国向けのインフィニティMに国内用として有り合わせの2.5ℓエンジンを載っけて帳尻を合わしたようなクルマだから、元々大多数の日本人には受け入れ 難いのだ。これはトヨタ車でも同様で、米国の一般庶民向けベストセラーであるカムリは、日本では全く相手にされない。 そういう意味では、国内専用車(実はアジアでも売っているが)を準備できるトヨタの底力と、その結果であるクラウンの強さは当然といえば当然なのだが。という訳だから、今度のフーガもハッキリ言えば売れないだろう。 良い車なんだけど売れない・・・・実力はあるんだけど出世できない・・・・まあ、世の中、そんなモノでしょう。